疾病リスク低下、世界中で注目の全粒穀物 〜第4回ウエルネスフードジャパン

2019年7月3日〜5日、パシフィコ横浜にて「第4回ウエルネスフードジャパン」が開催された。この中から、西沢 邦浩氏(日経BP総研メディカル・ヘルスラボ客員研究員)の講演「全粒穀物、疾病リスク低下についてのエビデンス続出!今、世界中の注目を集める健康食材"全粒タイプ穀物"の魅力を徹底解剖」を取り上げる。


全粒穀物の摂取不足、寿命を縮める

世界の疾病負担研究(GDB)は、2019年4月に、寿命を縮める食生活として、「6位:魚油の摂取が少ない」「5位:野菜の摂取が少ない」「4位:ナッツ類の摂取が少ない」「3位:フルーツの摂取が少ない」「2位:塩分の過剰摂取」そして1位が「全粒穀物の摂取が少ない」こと、と発表している。

このことは日本ではほとんど報道されなかったが、世界の疾病負担研究は世界各国の人々の死因を調べる、世界でも最も権威のある調査の一つ、と西沢氏は紹介。

全粒穀物は「ふすま、胚芽および胚乳を含む粒、もしくは粉で食される穀物」で、大麦、そば、キヌア、玄米、全粒小麦、アマランサス、きび、あわ、ひえなどがよく知られる。

日本では全粒穀物の摂取目安量について指針がないが、多くの国では摂取目安量が定められている。例えば、米国では年齢ごとに摂取目安量を定め、日々の食事から全粒穀物を積極的に摂取することを推奨している。

糖質制限、長期の健康リスク

昨今、先進国を中心に糖尿病患者が増加し、糖質制限や穀物摂取制限といった食事法が流行している。

確かに白米の摂取量が増えるほど糖尿病のリスクが上がるというデータも存在する。

しかしながら、納豆・海藻類・野菜類・酢の物など食物繊維の多いものなどを先に食べれば、白米を摂取しても血糖値にそれほどの悪影響を与えないこともわかっている。

何を食べるか、だけでなくどう食べるか、あるいは何と食べるか、が大事だということもわかってきている、と西沢氏。

米を中心とした炭水化物を制限した糖質制限は、一時的な体重減少につながるため、今日本人の1/2が糖質制限をしているとされるほどブームになっている。

しかし摂取エネルギーの50〜55%を炭水化物にした方が死亡リスクは下がるとされ、糖質制限の場合、炭水化物を20%程度に抑えるため、長期的に行った時の健康リスクについては悪影響があるのではないか、という見方も強い。

特に日本人の場合、他の民族に比べ、炭水化物を餌にする腸内細菌の割合が多い。そのため、米を制限することは血糖値には良くても、腸内細菌には悪影響という研究データも増えている。

炭水化物(米)を全粒穀物に代える

さらに中高年層になると高たんぱく質食でがんの死亡リスクが上がるという研究報告や、高たんぱく質食で成長ホルモンを分泌させることががん細胞の成長にもつながるのではないか、という研究もある。

つまり特に日本人は、エネルギーの半分程度は炭水化物(米)から摂取し、また一食を食べ過ぎず腹8分目にすることが一番健康的な食事である、と今のところ考えられるようになっている、と西沢氏。

さらにその炭水化物を、もともと日本人が摂取していた全粒穀物に代える、あるいは意識的に取り入れるだけでも、健康により良い影響があるのではないか、など次々に研究が進められている。

例えば、野菜から食物繊維を摂取した場合と、穀物から食物繊維を摂取した場合では、糖尿病のリスクを下げる力は穀物の方が高いといわれる。

1日60g(茶碗1/2程度)の全粒穀物を摂取することで2型糖尿病のリスクが20%低減するという報告もある。

また、1日16gでも全死亡リスクが7%低下するという調査報告もある。

さらに1億3500万人を対象にしたコホート研究では、食物繊維摂取量の増加で全死亡と2型糖尿病のリスクが減少したという調査結果や、それが全粒穀物であった場合も同様の傾向であるといった報告もある。

全粒穀物の食物繊維効果

こうした調査研究からもわかるように、全粒穀物の効果は含まれる食物繊維による部分が大きいと考えられている。

近年、研究はさらに踏み込み、食物繊維の中でも水溶性食物繊維・オリゴ糖・難消化性でんぷんなどに効果があるのではないか、と考えられるようになっている。

これらの「水溶性食物繊維=発酵性食物繊維」を「MAC(Microbita-accessible carbohydrates)」と呼ぶが、MACが腸の健康維持に不可欠で、MACの摂取量が不十分であると腸内細菌は腸粘膜を餌にし、腸内膜が薄くなることなどが解明されてきている。

また、腸内細菌が全身に与える影響についてもよく知られるようになっている。がんや糖尿病のリスクを低下させたり、免疫を強化するだけでなく、うつの予防や睡眠の質の確保、脳機能改善、子供の成長促進、そして薬の効果を高めるといった作用があることなどが解明されてきており、腸内フローラ研究は今も盛んに行われている。

とはいえ、水溶性食物繊維が多い食材というのはそう多くない。例えば、らっきょう、エシャロット、かんぴょう、抹茶、などに多く含まれるが、量を食べられないものが多い。

米国、全粒雑穀市場が賑わう

一方、水溶性食物繊維を多く摂れる食品(1回あたりの食事で1g以上摂れるもの)として、大麦(押し麦)、ごぼう、そばがある。

特に、大麦は主食にも副菜にもなる。ご飯を炊くときに半分を大麦にした麦ご飯を一日2杯食べれば、もっとも健康効果が高いとされる一日90gの大麦=全粒穀物が摂れる。

国内においては、1970年頃から大麦はすっかり忘れられた食材になってしまった。しかし、2012年に冷めても硬くならない北米産のもち麦が輸入されるようになり、国ももち麦の品種改良やエビデンスの取得、作付け拡大を推進するようになった。

そうした流れもあり、現在ではローソンやセブンイレブンといったコンビニでも「もち麦おにぎり」がいつでも購入できる人気商品となっている。

朝、大麦を食べると一日中血糖値が上がりにくくなる。また、大麦ご飯を一日200g摂取すると内臓脂肪が減少する、糖尿病リスクが低減するなどの報告やエビデンスも集まっている。

さらに大麦にはフェルラ酸という抗酸化物質が含まれるため、脳(認知症)にも良いのではないかと研究が進められている。米国でも「腸」と「良い炭水化物」はトレンドで、全粒雑穀の食品が市場を賑わせている、と西沢氏はまとめた。


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