免疫と腸内フローラ研究最前線
〜アフターコロナにおける腸内フローラ


2020年4月24日(金)、オンラインにて「STAYHOME Afterコロナを考える 免疫と腸内フローラ研究最前線」が開催された。この中から、福田 真嗣氏(慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任教授)のAfterコロナにおける腸内フローラの重要性に関する特別講演を取り上げる。


腸内とは、体の対外環境

腸内環境と免疫力の関係についてはよく知られている。感染症が蔓延している現状、いかに腸内環境を整え免疫力を向上させるかに、多くの人が高い関心を寄せている。

腸内環境を整えるために大切なことは「日々の食事の内容」であることが一般的に理解されている。しかし、まずは「腸内とは体の対外環境である」ことを理解して欲しいと福田氏。

つまり「対外環境であるから、個人差がとても大きい」ということ。腸内環境がほぼ同じような食事をしている家族間や遺伝子がほぼ相違ない双子であっても一人ひとり大きく異なるのは、「腸内環境」が「対外環境」であるからである。

腸の表面は「悪いことさえしなければどんな菌が住み着いてもOK」というスタンス、と福田氏。

また「免疫を高めるために腸内環境のバランスを整える」とよくいわれるが、「腸内環境のバランス」には個人差がある。そのため、免疫力にも個人差がある。

つまり腸内環境を整えて、免疫力を高める方法は、一人ひとりのアプローチ方法が違って当然といえる。

「IgA」という免疫、感染症を抑制

近年になり、腸内細菌の乱れが、全身疾患と関係していることが解明されている。肥満、糖尿病、動脈硬化、肝臓癌、認知症、うつ病、アレルギー疾患などさまざまな病気が、なぜ各個人の腸内細菌叢の状態と関係しているのか。

それは腸内細菌が作る代謝物質が、腸内だけでなく全身で細菌排除に役立つ細胞、免疫を抑制する細胞、ナチュラルキラー細胞などから、あらゆる免疫細胞の生成や分化に関与しているからである。

まさに腸内細菌が作り出す代謝物質によって我々の生体恒常性が維持されている、福田氏。

「免疫」そのものは「非自己を排除するシステム」といえる。免疫には大きく「全身免疫系(骨髄や胸腺)」と「粘膜免疫系(腸内細菌含む)」があるが、粘膜免疫系の中でも「IgA」という免疫が感染症発症の抑制に非常に重要な免疫である。

具体的には目や鼻、喉や消化管などに存在し、粘膜表面に付着した病原体や毒素に結合し、それらの機能を無効化することで私たちの健康を守る。

「IgA」は食物繊維などを食べた時に腸内で分解されて出てくる代謝物質「短鎖脂肪酸」によって促される。

他にも水溶性食物繊維である「イヌリン」を摂取すると腸内細菌の餌になることで短鎖脂肪酸である「SCFA」が発生し、これによりインフルエンザの感染が抑制される。

腸内細菌叢のあり方に個人差

また、発酵性食物繊維「MACs」や「フラクトオリゴ糖」などにも「IgA」の産生を促進する働きが確認されている。

しかしながら、ヒト試験を行った際、これらの効果には個人差があるという共通点がある。それぞれの腸内細菌叢のあり方に個人差があるからだ、と福田氏。

例えば、腸内細菌を整える食材として不溶性と水溶性の両方の食物繊維がバランスよく入っている「大麦」が注目されている。

しかし、大麦を摂取することで効果が体感できるのは腸内細菌叢に「プレボテラ」が多いグループであり、「バクテロイデス」のグループの人が大麦を摂取しても効果があまりないことも分かっている。

ちなみに「バクテロイデス」が多い人は、高たんぱく質・高脂質の食事傾向がある人で、腸内細菌叢のあり方は環境要因、特に長期的な食生活に影響されている部分が大きい。

大麦で血糖値を改善しようと思っても「バクテロイデス」が多い腸内細菌叢のグループの人には効果が期待しにくい。これは薬の効果も同様である。

アフターコロナ、「免疫力の向上」がキーワードに

どの薬でも効く人と効かない人がいる。薬を使う前に腸内細菌叢を調べておくと、その薬の効果が期待できる人には服用指導する。

そうではない人には食事介入などで腸内細菌叢をある程度デザインしてから薬を服用してもらうことで効果が現れやすくなる、と福田氏。

現状は自分の腸内細菌叢のパターンを調べる場所が普及していないが、福田氏らが手がける「腸内デザイン共創プロジェクト」では、血液型のように自分の腸内細菌叢パターンを知ることが当たり前になる社会を目指しているという。

アフターコロナの社会において「免疫力の向上」が益々キーワードとなってくることが容易に推測される。

「何を食べたら良いか」ではなく、「私に必要な食べ物は何か」まで踏み込んだアプローチをすることで高い効果が期待できる。「腸内デザイン」をキーワードに「病気ゼロ社会」を実現できれば、とまとめた。


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