米国乳業界、持続可能な乳由来たんぱく質
〜アメリカ乳製品輸出協会セミナー


2020年9月30日(水)、アメリカ乳製品輸出協会オンラインセミナー「持続可能な乳由来たんぱく質」が開催された。タンパク質の摂取の重要性に世界的な注目が集まっているが、植物由来と乳由来のタンパク質は製造過程にどのような違いがあるか、また機能性にはどのような違いがあるかなど、3人の専門家が解説した。


近年、タンパク質が注目を浴びているが、植物由来のタンパク質の人気が高まる一方で、乳由来タンパクについては一部ネガテイブな情報や間違った情報、誤解が含まれてはいないか。

アメリカ乳製品輸出協会は全米の酪農家を母体とする米国農務省の外郭団体で、本部はバージニア州にある。米国酪農業界の持続可能な栄養源を提供する取組みについて各演者が講演した。

乳由来タンパク質の特異性について
ロヒート・カプーア博士(乳製品・乳原料研究プログラムVP)

現在、異なる素材のタンパク質が市場を席巻している。しかしそのせいで消費者の中には乳由来タンパク質がそれ以外のタンパク質源と比較してどのような価値があるのか混乱しネガティブな印象を持っている人もいるのではないか。

そこでロヒート氏らは、現在市場にある各種タンパク質原料の生産過程を調査・分析した。タンパク質の原料は主に牛乳、エンドウ豆、小麦、食用こおろぎなどがある。また、別の生産工程の併産物がタンパク質製品になる場合もある。

具体的にはホエイや大豆、キャノーラ、じゃがいもなど由来のタンパク源がそれらにあたる。では、これらのタンパク源が、収穫後の原材料から乾燥粉末化に至るまでにはどのようなプロセスがあるのか、それぞれを調査し比較したところ、結論からいうと「生乳由来のタンパク質が最も処理行程数が少なかった」という。

タンパク質を抽出する際の加工助剤は原料によって異なる。大豆、じゃがいも、キャノーラなどの植物性由来のタンパク質濃縮物を分離加工するには、複数の加工助剤の使用が必要となる。

一方で、乳由来のタンパク質の加工においては加工助剤の使用は不要、主に濾過による物理的分離で済む。

また乳由来のタンパク質加工の副産物(例えばホエイクリームやミネラル)は汎用性が高く、付加価値の高い用途が豊富にある。

例えばじゃがいもタンパク質抽出から出てくる副産物は、用途が限られている。またタンパク質源によっては用途や機能性が確認されていないものもある。

栄養面において、乳由来と大豆由来のタンパク質には必須アミノ酸の全てが含まれているが、それ以外のタンパク質は1つ以上のアミノ酸が不足しており、不十分なものもある。

これらの調査から、乳由来タンパク質は添加物が少なく、加工助剤も不要で、ニュートラルな味覚や広範囲な機能性を提供し、環境にも優しい持続可能な食料の1つである。

健康と栄養に関する最も注目すべきトレンド
そのトレンドの有益な活用術

ジュリアン・メレンティン(New Nutrition Business創業者) 

1995年に創立されたNew Nutrition Business社では食品、栄養、及び健康分野でビジネスビジョンを提供する、世界トップとされる月刊業界専門誌を発行している。

世界的な食品大手メーカーからスタートアップ企業に至るまで、最先端で革新的な食品や飲料食材を提供する企業を調査し、インタビューなどを手がけている。

毎年、世界中の食品業界の経営者や幹部に直接取材を行い、今食品業界では何が効果的なのか、何がトレンドなのか、などグローバルな見解を収集し続けているが、2020年の生トレンドとして、大きなものとしては4つあるという。

「1、自然な機能性」「2、持続可能性」「3、細分化」「4、スナック化」。また細かいトレンドとしては「腸の健康」「植物由来タンパク質」「肉の再定義」「エネルギー問題」「質の良い炭水化物(低糖質)」などであると紹介。この中でも「スナック化」が見逃せないという。

スナック化はあらゆるカテゴリーに変革をもたらしていて、特に「タンパク質のスナック化」に対する需要が高まっている。特にコロナ禍で在宅時間が長くなっている消費者は革新的なスナックの購入に意欲的である。

具体的には乾燥ヨーグルト入りのシリアルバーがアメリカでは爆発的に売れている。ヨーグルトやミルクの形態をとらなくても、プロバイオティクスやホエイタンパク質がスナックで摂れるからだ。

中国ではチップスの人気は低かったが「プロテインチップス」が大人気だ。このスナックでタンパク質が摂取できるだけでなくローカロリーであることや手軽さが人気となっている。

またスウェーデンでは乳糖を含まない無糖の乳製品「プロテイン プリン」が大人気。これは常温でも保存可能で持ち歩きが簡単なことも人気の秘密となっている。

このように、今後もプロテインのスナックは需要が拡大するという。「持続可能」ということにも消費者は注目している。

例えば日本では100%再利用プラスチックから作られたペットボトル「いろはす(水)」やラベルを一切使用しないボトルが人気になっている。

また、トップバリューのサラダチキンは原料に抗生物質や抗菌剤を一切使用せずに屋外で飼育された鶏が使用されていることが話題となっている。

もちろん米国でも似たような事例がある。例えばClover Sonomaから完全に再生可能な植物由来の牛乳パックを使用している。

「持続可能」というキーワードは消費者にインパクトを与えるようになっていて、消費者が消費によって社会貢献できるという認識を与えることにも力を発揮している。

より「自然」であることがキーに

食品が持つ「機能性」についてもずっと注目されてきているが、より「自然」であることがキーとなっている。例えば、アボカド、ブルーベリー、アーモンドなどのそのまま食べられる食品は消費量が増えている。

タンパク質の人気も非常に高くなっているが、「タンパク質とはよいことばかりの栄養素」というイメージが定着し従来の「スポーツパフォーマンスの向上」だけでなく「適正な体重維持」「筋肉の合成と質の維持」「炭水化物の摂取量の削減」「利便性」などの点から、老若男女に支持される栄養素になっている。

その流れで、ニュータイプのエナジードリンクとして「コーヒー+乳由来タンパク質」がオーストラリア、スイス、カタールなどで人気となっている。

しっかりとタンパク質を摂取することが低糖質や低炭水化物など健康な食事につながることも認識されてきている。実際、科学的にも「低炭水化物」より「良い脂質・高タンパク質」で減量することが主流になってきている。

食品がヒットするかどうかは、複数のトレンドを結びつけることがポイントで、例えば「リッチプロテイン+持続可能」とか「リッチプロテイン+低糖質」などに注目してほしい。また乳由来のタンパク質については他のタンパク質との違いを明確に伝えることがマーケテイングの次のステップだと話した。


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