生体防御機能における必須栄養素の役割
〜第23回健康栄養シンポジウム


2021年2月20日(土)、web配信にて「第23回健康栄養シンポジウム」が開催された。この中から、國沢 純氏(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバンド研究センター)の講演「生体防御機能における必須栄養素の役割と機能」を取り上げる。


ビタミンB1欠乏における免疫不全

withコロナの時代となり、病原体と戦うには免疫力が大切という意識が強まり、免疫を上げる可能性のある食品のニーズも高まっている。

しかしこの免疫機能には個人差がある。ワクチンも万人に効果があるとは限らず、効果が得られない人も一定数いる。

免疫を制御する因子として「腸内環境・(腸内細菌叢/腸内代謝産物)」があるが、ここに大きな個人差がある。

これは食事や栄養、腸内細菌叢、生活環境による差でもあり、統合的な解析が期待されている。

免疫の個体差は食事・栄養・腸内細菌叢・生活環境などで左右されるが、中でも食事は特に重要と考えられている。

國沢氏らの研究の一つに、「ビタミンB1欠乏状態における免疫不全状態・ワクチン効果の減弱」といったものがあるという。

「食」による免疫機能の活性

ビタミンB1は3大栄養素ではなく微量栄養素で、欠乏すると脚気や神経麻痺をおこす。そのため、私たちの健康維持に欠かせない主要栄養素の一つである。

ビタミンB1の欠乏した飼料をマウスに与えると、腸内のパイエル板の大幅な欠乏や、胸腺の萎縮、ワクチンに対する抗体産生が弱まることなどが確認できている。

とはいえ、「ビタミンB1をしっかり摂取る」という単純な話ではなく、ビタミンB1を分解し腸管での吸収を促進させるような物質(ニンニクや玉ねぎに多く含まれるアリシンなど)を合わせて摂取するなど、他の食材との食べ合わせが大切である。

また、水溶性であるビタミンB1の調理方法なども考えることで、はじめて「食」による免疫機能の活性が可能になる、と國沢氏。

免疫は高めすぎると暴走する

免疫賦活の観点からビタミン以外で注目すべき免疫関連素材として、必須脂肪酸がある。必須脂肪酸のαリノレン酸(亜麻仁・EPA・DHAなど)由来の代謝物には、免疫を介した生体防御、抗アレルギー・抗炎症作用などが認められている。

一方、ω6系に分類されるリノール酸には炎症促進作用のプロスタグランジンなどが産生される。

これにより、アレルギーや炎症が促進され、腸管での生体防御産生(Ig A抗体)の増殖が過剰に促される。

免疫は高めすぎると暴走することがある。例えば、COVID-19の重症化とは、過剰な免疫の活性(免疫細胞の暴走によるサイトカインストーム)による急性呼吸窮迫症候群である。

つまり、免疫が弱すぎるのも困るが、免疫が強まりすぎて暴走状態になると感染症の重篤化にも繋がる。

そのため、必要な免疫力を維持しつつ、暴走させない「整った状態」にすることが肝要である、と國沢氏。

個人差のある腸内細菌などにより影響

オメガ3脂肪酸が多いαリノレン酸には抗アレルギー作用があることが確認されており、体内動体や機序も解明されてきている。

しかし、同じ物を摂取しても効果は人により異なる。これは個人差のある腸内細菌などに影響されるためで、腸内細菌の代謝活性を指標にした個別の栄養指導などが実装されることが期待されている。

現在、健康な人を対象とした生活環境と腸内細菌叢に関するコホート研究が進められており、巨大なデータベースの構築も進められている。

日本人の腸内細菌は3パターン

日本人の腸内細菌は大まかに3パターンあるとされる。

ルミノカッカス型(雑食):パクテロデス型(肉食):プレボテラ型(草食)の割合が5:4:1とされるが、大阪の場合3:6:1という特徴があり(大阪でコホート研究に参加した100名のデータ)、実際に野菜の摂取量が全国平均より男女ともに低いこともわかってきた。

腸内細菌がどのタイプだからといって病気にかかりやすい、といった特徴があるわけではないが、食事の影響で腸内細菌のパターンが変わる可能性はある。

また腸内細菌叢のパターンによって効果的な食事や効果的な医薬品が異なってくる可能性も大いにあると、國沢氏。

腸内環境を基軸にした健康科学の発展と新規ヘルスケア産業の創出は産・官・学で期待されている。

健康社会の実現に不可欠と考えられているため、引き続き多くの人々の協力を得ながら多角的に研究を続けていきたいとした。


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