海の恵みが食生活を豊かにする
〜和食と健康2021春セミナー


2021年2月28日(日)、web配信にて「和食と健康2021春〜食の恵みで健康に賢い「食」を考える」が開催された。この中から落合芳博氏(東北大学大学院農学研究科 水産資源化学分野)の講演「海の恵みが食生活を豊かにする」を取り上げる。


魚介、ミネラルなど微量栄養素の供給源

和食の基本は一汁三菜で、1品は魚介類であることも多く、日本人は魚介類を好んで食べてきた歴史がある。

日本人にとって、魚介は動物性タンパク質の供給だけでなく、ミネラルなど微量栄養素の供給源でもある。

海産物は基本的に日持ちしない。そのため、さまざまな加工法や貯蔵法が生み出され、和食の土台を担っている。

近年は、新鮮さよりも熟成する方が魚介の旨みが増すといった加工法にも注目が集まっている。

いずれにせよ、日本人は経験的に海産物の重要性や有効性に気づいており、近年科学的にもそれが裏付けされているが、一方でまだ解明されていない部分も多い、と落合氏。

深海魚、新たな成分や機能性を秘めている

魚介の持つ栄養素としては、消化の良い良質なタンパク質の他、魚油(EPA、DHA)、ミネラル、ビタミンなど。作用としてはペプチドによる降圧や抗酸化などがある。

近年はプラズマローゲンやタウリン、アンセリンなど、数々の機能性成分も発見され、健康維持に欠かせないものと認識されさまざまな製品化が進められている。

また、魚介の中でも深海魚は、新たな成分や機能性を秘めている可能性がある、と落合氏。例えば超高水圧でもタンパク質が潰れない、固まらないメリット、そして脂質も豊富である。

しかし実際は破棄される深海魚が多い。しかし、生きたまま深海に戻せないため、例えば養殖用飼料として有効利用できないかなど検証が進められている。

「持続可能な漁業」を行う漁業者認証制度

一方で、魚食にはデメリットもある。例えば、大型の回遊魚には有毒成分が存在している。種類によっては資源の枯渇や生態系の破壊などが危惧されているものもある。

有毒成分については、メチル水銀が有名で特に妊娠中の女性は摂取量に注意が必要であることがよく知られている。

また、マグロやカツオなどの赤身魚やその加工品において不適切な管理をするとヒスタミン中毒の原因になることもある。

近年は、世界的にも「持続可能な漁業」を行う漁業者を認証する制度「海のエコラベル」(海洋管理協議会MSC)がある。

また、環境に大きな負担をかけず、労働者と地域社会にも配慮した養殖業を認証する「水産養殖管理協議会(ASC認証制度)」など、新しい時代の魚介類との付き合い方もできつつある、と落合氏。

医薬品などの原料、飼料、肥料などあらゆる可能性

特に海のエコラベルの認証マークは知名度も上がってきている。SDGsの目標14にも「海の豊さを守ろう」と掲げられている。

魚類をたくさん食べる日本人にとっては非常に身近な課題であり、海を守る(プラスチック問題含む)、生態系を守るといった環境問題だけでなく、漁業全体を守ることにもつながっている。

特に、一度獲れた魚については、食用だけでなく、医薬品などの原料、飼料、肥料などあらゆる可能性を追求し、鱗一枚、血の1滴まで利用し尽くす「ゼロ・エミッション(廃棄物の量をゼロに近づける)」を実現化させることを考えていきたい、と落合氏。

ここ20年ほど、水産加工品の生産量は減少傾向にあるが、冷凍食品における魚介類はニーズに落ち込みがなく、また機能性素材の活用などでは需要が高まっている。

魚介類のゼロ・エミッションへは私たち一人ひとりが「食べる」ことで貢献ができる。

「海のエコラベル」のマークがある商品を購入したり、日常の食事の中で和食を楽しむこと、その中に1品でも2品でも魚介類を取り入れることは、健康だけでなく、魚や海を守ることにもつながるため、ぜひ意識してもらいたいとした。


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