味噌、麹発酵食品の健康機能
〜和食と健康2021春セミナー


2021年2月28日(日)、web配信にて「和食と健康2021春〜食の恵みで健康に賢い「食」を考える」が開催された。この中から佐藤健司氏(京都大学大学院農学研究)の講演「味和食をささえる麹発酵食品の健康機能」を取り上げる。


麹発酵食品、ファイトケミカルを高含有

和食が健康に良いことはよく知られているが、具体的にどの成分が良いかつき詰めると「発酵が良い」ということになる。

さらに、発酵に用いられる「酵素」や「微生物」が良いということになる、と佐藤氏。

特に味噌や醤油といった麹発酵食品にはポリフェノール類のようなファイトケミカルの他、ペプチド、アミノ酸誘導体などが多く含まれる。

しかしそれぞれの構造や機能に関する知見は多くないのが現状だ。というのも、麹発酵食品にはあまりに多くの成分があり、構成成分を同定することが非常に困難なため、と佐藤氏。

そこで今回、味噌や日本酒に含まれるペプチドの構造を網羅的に調べ、さらに動物実験によって見出された健康増進機能についての解説を行った。

味噌にさまざまな疫学研究

タンパク質はアミノ酸がペプチド結合で結合した高分子で、加水分解するとペプチドやアミノ酸が生成される。

タンパク質を分解するのはプロテアーゼ酵素だが、プロテアーゼにはEndo型とExo型がある。

納豆菌などのバクテリアによる発酵の場合はEndo型の活性が強く、麹発酵食品などのカビによる発酵の場合いはExo型が強い。

このExo型による活性が強いと、小さいペプチドが生成されるため食品の旨味が豊富になる。

ちなみにペプチドは体内で分解されないと考えられてきたが、ペプシン、トリプシンで分解はされず、ペプチダーゼでは分解されることがわかっている。

分解されないペプチドはプロリン、ピログルタミン酸を含むものということもわかっている。

和食の中でも麹発酵食品の代表ともいえる味噌にはさまざまな疫学研究がある。

味噌、体重増加を抑制

例えば、「味噌汁を毎日摂取する女性はインスリン抵抗性リスクが有意に低い(長浜コホート研究)」「8週間の味噌の摂取がヒトの夜間の血圧を低下させる」「1975年の日本食は1960年、1990年、2005年と比べ抗肥満効果を持つ」「味噌の摂取と運動がマウスの内臓脂肪蓄積を抑制」などの研究成果がある。

しかし、味噌のどの成分がこれらの機能性を発揮するかについてはこれまでほとんど研究されていない。

これは、味噌中に非常に多くの成分が含まれ、ペプチドがどこにあるかわからない状態だから、と佐藤氏。

そこで、佐藤氏らはたくさんある成分からアミノ基を持つものだけを抽出し、その中でも「疎水性ピログルタミルペプチド」に絞り、マウスによる試験を行った。

その結果、体重60kgのヒトが3杯の味噌汁を摂取した時の用量に相当するピログルタミルペプチドにより、45〜60%の高脂肪食を摂取させたマウスのカロリー摂取を低下させ、体重増加を抑制する知見が得られた。

つまり、味噌汁に含まれるピログルタミルペプチドが脂肪に対する嗜好性を抑制する成分ではないか、と佐藤氏。

肝炎や大腸炎の緩和

また「疎水性ピログルタミルペプチド」には肝炎や大腸炎の緩和(抗炎症作用)、抗菌ペプチドの産生(自然免疫の活性化)のよる腸内細菌叢改善なども確認されている。

特に腸内細菌の改善にはこれまでプロバイオティクスやプレバイオティクスが用いられているが、日本酒や味噌といった食事から自然に、しかも微量摂取で腸内細菌改善が期待できる、と佐藤氏。

他にも麹発酵食品にはこれまであまり存在が知られていなかった「アスパラギン酸イソペプチド」が豊富に含まれる。

これには「抗疲労効果」「アルデヒトの生成を抑制し酸化ストレスを低下する」「肝機能改善」「血中コレステロールの改善」といった効果も確認できている。

これらは味噌や醤油など通常の食事で摂取できる量で効果が見られ、毒性もないことが動物実験でわかっている。

ただ、麹発酵食品には機能のわかっていない成分がまだ多い。それらも含め、さらなる成分の特定、機能のメカニズムの解明やバイオマーカーの検索、ヒト試験が必要であるとした。


Copyright(C)JAFRA. All rights reserved.