チョコレートやアーモンド、嗜好品の魅力と健康効果〜国際おやつ研究会セミナー

2021年5月24日(月)、web配信にて「第二回国際おやつ(OYATSU)研究会オンラインセミナー」が開催された。この中から大澤俊彦氏(名古屋大学名誉教授/愛知学院大学心理科学部・人間総合科学大学 特任教授)の講演「嗜好品の魅力と健康効果」を取り上げる。


抗酸化フードファクター、野菜や果物などに豊富

大澤氏はこれまで酸化ストレス(ポリフェノール)を中心に研究を行い、数々の実績を重ねてきている。

研究当初はデザイナーフードの開発という観点からスタートしたが、それが特定保健用食品に発展し、現在は機能性表示食品へと進化を遂げてきたという。

抗酸化成分とは「人間の体内で生じる酸化ストレス障害を予防する食品因子」のことであり、「抗酸化フードファクター」とも呼ばれる。

抗酸化フードファクターは特に野菜や果物、ハーブやスパイスなどに豊富に含まれていることもわかってきた。

抗酸化フードファクターのことを近年は「機能性関与成分」と呼ぶことが多いが、本当に有効かについては、体内でDNAやRNAといった分子バイオマーカーを利用し評価する技術が用いられるようになってきている。

このバイオマーカーの研究や開発についても、機能性成分の研究とともに進められてきた分野である、と大澤氏は話す。

嗜好品を上手に活用し、食生活全体を見直す

そもそもおやつは「嗜好品」といわれるが、「間食」として不足しがちな栄養素を補う補食の役割も担っている。

特に妊婦や子ども・高齢者にはこの「補食」が必要とされるが、近年は主婦や学生、ビジネスパーソンなどあらゆるライフステージの中でおやつは必要と考えられるようになっている。

食事バランスガイドにおいても「菓子や嗜好飲料は栄養性だけでなく食事の楽しみとしても重要」と位置づけられている。

かつては嗜好品や間食を悪者扱いする傾向もあったが、嗜好品を上手に活用し、食生活全体を見直すことは、疾病予防やQOLの向上にも役立ち食育にもなると考えられるようになっている。

現在は、嗜好品やおやつによって、食事全体を豊かにすることが目標とされている、と大澤氏。

チョコレートやココア、糖尿病や心疾患のリスク低減

特に大澤氏が注目している嗜好品が「高カカオチョコレート」「アーモンド」「赤ワイン」の3つ。

日本においてはここ20年ほどカカオポリフェノールに着目した研究が進み、数多くの論文が発表されている。

チョコレートやココアを摂取することで、脂質代謝改善、糖代謝改善、血圧低下作用、血管内皮機能改善なども報告されている。疫学調査でも糖尿病発症や心疾患、脳梗塞の死亡リスク低減が報告されている。

かつて体に悪い食べ物と考えられていたチョコレートは今や健康に良い食べ物と位置づけられている。

チョコレートの中でもカカオポリフェノールが豊富に含まれた高カカオチョコレートを1日25グラム程度摂取することにより、どのような健康効果が得られるかを調査した大規模疫学調査の一つに「蒲郡スタディ」がある。

カカオポリフェノール、脳由来神経栄養因子が増加

この研究によると、高カカオポリフェノールチョコレートの摂取により「血圧が有意に低下」「特に高血圧の被験者でより大きく低下」「HDLコレステロール値が有意に上昇」「BDNFが有意に上昇」といったことが報告されている。

BDNFは脳由来神経栄養因子とされ、脳神経の栄養源のようなものである。チョコレートを摂取するとBDNFが増加し精神面の健康にも効果的と考えられるようになっている。

BDNFは65歳以上の高齢者においては加齢とともに減少することがわかっている他、うつ病やアルツハイマー型認知症などの疾患においても脳内のBDNFが減少していることがわかっている。

記憶や学習など認知機能を促進させるにはBDNFが欠かせないと考えられるが、BDNFはこれまで運動によって上昇することが報告されているのみで、食によってBDNFが増加するというのはインパクトのある研究成果であった、と大澤氏。

カマンベールチーズ、BDNFが上昇

他にも、新しい研究成果として高カカオチョコレートを摂取したグループにおいて排便回数の増加効果が見られた研究データについても紹介。

高カカオチョコレートにのみ含まれているカカオプロテインが人の便通を改善している可能性が示唆されている。ちなみに認知症の予防についてはカマンベールチーズが有効かもしれないという研究が期待を集められているという。

カマンベールチーズを摂取することで、やはりBDNFの上昇が見られることを桜美林大学と東京都健康長寿医療センター、明治の共同研究によって発表されている。

アーモンド、肥満や動脈硬化を予防

また、アーモンドはスーパーフードとしての価値も高まってきており、第3のミルクと呼ばれるアーモンドミルクも新たなマーケットを生んでいる。

栄養学的には食物繊維、ポリフェノール、ビタミンE、オレイン酸、ミネラルなどが豊富に含まれている。すでに疫学研究ではアーモンドの摂取により肥満や動脈硬化の予防になることも報告されている。

高カカオチョコレートとアーモンドを一緒に摂取する相乗効果によってさらに便通改善に効果があることも報告されている。

アーモンドチョコレートやマカダミアンナッツチョコレートは人気商品だが、今後さまざまなナッツとの組み合わせや、新たな食品素材との組み合わせを研究することは新たな商品開発につながるかもしれない、と大澤氏。

実際に欧米では、オレンジピールチョコレートが大人気である。オレンジピールはチョコレートの脂肪と摂取することでカロテノイドの吸収が高まることがわかっている。

赤ワイン、高い抗酸化作用や機能性

赤ワインについては、豊富なポリフェノールが含まれ、高い抗酸化作用や機能性が次々に明らかになっている。

特に認知機能の保護、抗腫瘍活性、動脈硬化予防、糖尿病改善作用など多くの研究報告があり、今も研究が続けられている。

赤ワインの研究についてはアントシアニンが有効なのか、あるいはレスベラトロールの方が有効なのか、などこれからまだまだ研究していくべき点が多い。

上手に活用すれば高い健康効果が期待できる嗜好品の1つだといえるだろう、と大澤氏。

またアルコール摂取量が増える懸念があるが、高カカオチョコレートやアーモンド、アーモンドチョコレートやオレンジピールチョコレート、カマンベールなど、美味しさ的にも相性のいい機能性の高い嗜好品とうまく組み合わせることで、飲み過ぎ予防の提案ができるかもしれない。

いずれにせよ嗜好品にはまだまだ大きなマーケットチャンスがありそうだ、とまとめた。


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