例えば、5歳以下の子供の約22%(150億人)が未だ食糧不足による発育障害にある。また約3000万人がコロナがなかった場合に比べ飢餓にさらされていることが報告されている。
精密栄養という新たなトレンド
国際的な栄養の課題やトレンドとして新たに「Precision Nutrition(精密栄養)」というものがある。
これは 年齢、性別、ライフステージ、さらにゲノムやエピゲノム、腸内細菌、睡眠や休息、運動や活動と、生活リズム、体格や体組成、病歴、ストレスや精神状態、食事履歴、思考などを考慮した個人に合った栄養を提供するトレンドである。
これまでの健康診断や身体検査だけでなく遺伝子検査やスマート機器を使ったリアルタイムなモニタリングなどを通し、人工知能によって情報処理を行う。
これによりそれぞれに合った食事や運動、さらに行動変容プログラムまでアドバイス・プログラムしようという考えだ。
早めの段階で異常を察知するだけでなく、起こりうる異常を予知して未然に対処することができれば、健やかな加齢やQOLを保つことができる。さらには食による治療が可能になると期待されている。
現時点では「テーラーメイドゲノム栄養」を実現するために、食に関わる遺伝子領域を同定することが先決課題と考えられている。
母体の栄養、胎児の成人期の疾病リスクに関わる
もう一つ「DOHaD」もトレンドだ。DOHaDとは、 胎児期から出生後の発達における種々の環境要因が成長後の健康や種々の疾病発症リスクに影響を及ぼすという概念である。
胎児は、母体の栄養状況がどのようなものであるか、母体の影響をダイレクトに受ける。
また母体の栄養や環境は胎児の遺伝子にも影響を与え、影響は胎児が成人した時にまで及び、成人期の疾病リスクにまで関わってくるのではないか、ということがさまざまな分野によって研究されている。
特に、 虚血性心疾患、脳梗塞、2型糖尿病、肥満、脂質異常症、神経発達障害などは、低出生体重との関係性が非常に強い疾患と考えられるようになってきている。
テーラーメイド栄養学というトレンド
さらにタンパク質についてもここ数年で注目が高くなっている。特に大豆、酒粕、そばなどのレジスタントプロテインと呼ばれるタンパク質は、プロバイオティクスとして腸内環境に影響を与えるのではないかと研究が進められている。
これらのタンパク質は、コレステロールの低下や腸内細菌層の調節などに役立つことで将来の疾病リスクに関係している可能性がある。またこの辺りは同じくトレンドといえる植物性タンパク質への移行との関わりが期待される。
これからの栄養学は、個人個人に合わせたテーラーメイドというトレンドがあり、その上で、地球に優しい細やかな戦略が求められているのではないか、と加藤氏はまとめた。

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