大豆イソフラボンの保健機能
〜大豆のはたらきin京都セミナー


2021年11月13日(土)、web配信にて「大豆のはたらきin京都」が開催された。この中から立花宏文氏(九州大学大学院農学研究員 主幹教授)の講演「大豆イソフラボンの保健機能とそのしくみ」を取り上げる。


機能性表示食品、3000億円市場を突破

機能性表示食品市場が拡大している。2020年には約3000億円市場を突破したことが報告されている。

食品の機能性(効果効能)を表示するには、その機能に関与する成分が特定できること、さらに作用機序についてもエビデンスが求められる。

そこで食の科学的研究がどんどん進んでいるが、昔から体に良いとされる食品や食品成分の多くは、科学的に見ても優れた作用があることが次々と解明されている。

またそれらの機能性成分は生体内のさまざまな分子と反応することで健康効果を発揮することも解明されている、と立花氏。

今年度のノーベル生理学・医学賞は、人間の熱や接触を感じるセンサータンパク質TRPV1を発見した研究に贈られた。

これは唐辛子の辛味成分でカプサイシンの受容体発見がきっかけとなっている。カプサイシンだけでなく食品成分が機能性を発揮するメカニズムの多くは、生体内に存在する食品因子センサーとの結合から始まっているはず、と立花氏。

実際カプサイシンの受容体がTRPV1をというタンパク質であるように、大豆イソフラボンであればER(エクオールレセプター)、レスベラトロールであればSIRT1、カテキンであれば67LRと、体内には実にさまざまなレセプター(受容体)が存在している。

大豆イソフラボン、乳がん発症リスクと関連

大豆イソフラボンについてはがんや心疾患の予防、脂質代謝改善、骨代謝などさまざまな生体調整機能が報告されている。

多くの疫学調査によると、大豆イソフラボンの血中濃度が高い人ほど乳がんの発症リスクが低いことや、アジア人女性と比較して大豆摂取量が格段に少ない欧米人女性では乳がんの発生率が高いことなどが示されている。

近年は日本でも乳がんの罹患率が急速に上昇しており、日本人の食生活の変化と関係しているのではないかと指摘されている。

乳がんのがん細胞の60〜70%は女性ホルモンの一つであるエストロゲンの影響を受けて増殖することがわかっている。

これは、エストロゲンが乳がん細胞の中にあるエストロゲン受容体(ER)と結合し、がん細胞の増殖を促進することが起因している、と立花氏。

そのため乳がん治療に用いられるホルモン療法剤はエストロゲンがERに結合することを阻害しそれにより乳がん細胞の増殖を抑制するように働く。

大豆イソフラボン、エストロゲンと類似の構造

大豆イソフラボンはその構造がエストロゲンと類似しており、実際にエストロゲン受容体と結合することも分かっている。

これらの事実から大豆イソフラボン摂取による乳がんのリスク低減メカニズムには、エストロゲン受容体の関与が重要視されてきた、と立花氏。

しかし、立花氏らの最新の研究では、大豆イソフラボンのERへの結合能力は実際のところエストロゲンの1万分の1〜1千分の1程度と非常に弱く、エストロゲン受容体に依存しない抗がん剤作用のメカニズムがあることが解明されつつあるという。

実際、この着目から、イソフラボンのERに非依存的な生理作用に関わる遺伝子を、がん細胞増殖抑制作用を指標にスクリーニングしたところ、がん抑制遺伝子として知られるヌクレオチド転移酵素「PAPD5」を同定した。



大豆イソフラボン、抗がん作用のメカニズム

大豆イソフラボンがさまざまな機能性を発揮するメカニズムに、イソフラボンの一種であるダイゼインの腸内細菌の代謝産物であるエクオールが関与していることがよく知られている。

このダイゼインとエクオールはERを介さずにPAPD5を活性することが分かり、ERに依存することなく抗がん作用を発揮するメカニズムを有することが解明されつつある。

つまり大豆イソフラボンの抗がん作用のメカニズムは、ERに結合するルートと、ERに結合しなくてもPAPD5を活性することでPAPD5ががん細胞増殖を抑制するルートの2つがある。

あるいはこの2つの作用のバランスというルートが説明できるのではないか、と立花氏。しかしPAPD5ががん細胞の増殖をどのようなメカニズムで発揮するかまでは現時点で分かっていないという。

更年期以降、エストロゲン分泌が低下

ちなみにエクオールはマウスやラットなどではほとんどの個体の腸内で産生されるのに対し、人の場合日本人は50%程度、西欧人は20%程度しか産生できないことも解明されている。

さらに、エクオール産生者は非産生者と比較して、前立腺がん・乳がん・肺がんのリスクが低いことや、骨量減少抑制作用が強いこと、更年期障害が起こりにくいとなどが報告されている。

女性ホルモンエストロゲンには骨からのカルシウムの溶出を抑制作用があるが、更年期以降はエストロゲン分泌が低下するため女性は閉経後の2年間で骨量が5〜7%ほど減少してしまうことが報告されている。

しかし大豆イソフラボンのエストロゲン様作用で骨吸収が抑制されることはヒト試験で確認できている。

具体的にはエクオール産生者は非産生者より閉経後の骨減少が緩やかであることや、閉経後でも12ヶ月のエクオール含有大豆食品の摂取(10mg/日)で骨吸収マーカーが低下することなどだ。

関節リウマチの発症を抑制

さらに、近年若年層でも増加している関節リウマチについて効果を検討。するとリウマチを発症しているマウスにおいてエクオールの投与が関節炎だけでなく炎症性骨破壊を顕著に抑制した効果が見られたという。

そのメカニズムについては、リウマチの発症に関与するIL-6とこの受容体であるIL-6R、また骨破壊関連遺伝子の発現量がエクオールの摂取で低下することが明らかとなった。

関節リウマチの治療薬であるアクテムラもIL-6がIL-6Rに作用することを阻害する医薬品であり、本年はこの薬品が新型コロナウイルスの重症患者へ投与することも推奨された。

これはコロナウイルスの感染がIL-6を増加させて炎症を引き起こすサイトカインストームによって重篤化するからだ。

いずれにせよエクオールにもIL-6とIL-6Rの発現量を低下させる効果があり、これが関節リウマチの発症を抑制・緩和する可能性が示唆された、と話した。


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