熟成ホップエキスの機能性〜第26回ウエルネスフードビジネスアカデミー

2022年5月25日(火)、web配信にて第26回ウエルネスフードビジネスアカデミー「20年の研究成果を事業につなげる〜知られざるホップの健康機能とキリン社内ベンチャーINHOPの挑戦」が開催された。この中から「熟成ホップエキス」の機能性や開発経緯を紹介する。


ホップ、紀元前から健康効果が知られている

近藤惠二氏(研究開発コンサルタント RD LINKエキスパート)は「知られざるホップの健康機能」と題して次のように講演した。

ビールの原料であるホップは、ビールの香りや苦味を付与するのに不可欠な素材だ。

あまり知られていないが、ホップは紀元前からその健康効果が知られており、世界中で栽培され活用されているハーブでもある。

ビールで使用される以外にメディカルハーブ、アーユルヴェーダ、ヒーリングプランツ(ネイティブアメリカン)などの活用が多く報告されている。

特にドイツはホップの産地として有名で、ホップを使ったビール以外の製品もドイツだけでなく世界各国に多く存在し、ソーセージや入浴剤などは特に人気だ。

ホップの主な生理作用は4つ

ホップの主な生理作用は4つ。鎮静・催眠・静菌・ホルモンの作用がよく知られている。

有名なのが「女性ホルモン様物質」。ホップ栽培農家の女性がホップ収穫期になると肌が綺麗になるといったエピソードもある。

ビール原料としてのホップは、紀元前から始まっていて6000年くらいになる。

ビールにはホップ以外のハーブも使われていたことがあった。それらはグルートビールと呼ばれる。

ビール純粋令(1516年)がドイツで発令されて以降、ビールにはホップだけしか使っていけはいけないとされ、そこからは現在に至るまで500年の歴史がある。

ビールを製造する麦汁煮沸の段階でホップは加えられ、酵母を加えることで発酵し、やがてビールになる。

この煮沸の段階でホップ成分のα酸(フムロン)とキサントフモールが、それぞれイソα酸とイソキサントフモールに熱異性化し変わる。ビールの苦味の良し悪しはα酸(フムロン)によって決まる。

ワインブームから、ホップの健康機能を調査

1984年に、日本で食品の機能性研究がはじまり、2000年代に健康食品市場は大きく伸張する。その後、規制緩和など追い風を受け、さらなる拡大の動きとなった。

キリンでも1987年に基盤技術研究所を設立し、バイオ領域の最先端研究を進めるようになった。

90年代の後半にフレンチパラドックスが話題になりワインブームが起こったことがきっかけで、ホップにも何か健康機能があるのではないかと社内で調査がスタートした。

2000年から同研究所で食品成分の本格的な研究が始まり、その結果として熟成ホップエキス・プラズマ乳酸菌・KW乳酸菌・ βラクトリンなどが開発されるに至った。



ビールの苦味成分が鍵に

金子裕司氏(INHOP株式会社 代表取締役社長)は「社内ベンチャーINHOPの挑戦」と題して講演。研究開始当初は原材料ではなくビール成分の生活習慣病予防に関する研究からスタートしたという。

そこでビールの苦味成分が鍵になることを発見し、苦味成分の健康効果を利用した商品開発に取り組むことを目指す。

苦味成分はホップのα酸が醸造過程でイソα酸に変化したものだが、イソα酸には核内調整因子であるPPARαとPPARγの活性作用があることが分かった。

PPARαは脂肪細胞の分化などに働き、PPARγは脂肪酸の遺伝子調節に働く作用がある。動物試験によってイソα酸には糖尿病マウスの進行抑制作用・高脂肪食マウスのインスリン抵抗性改善効果があることが分かった。

さらにヒト試験で、イソα酸には体脂肪低減作用があることが確認された。ただ、イソα酸には強烈な苦味や劣化臭があるなどの課題も多く残っていた。

熟成ホップエキス、脂肪燃焼を促進

その後、「熟成」というプロセスを加えることでホップの苦味は低減するが香りは安定化することが確認された。しかし、熟成による苦味の低減メカニズムなどわからないことも多くあった。

そこで、2009年に「熟成ホップエキス」という新素材開発に着手。特に天然の熟成を100分の1の期間で実現させる加熱熱成技術を開発、また熟成ホップ由来苦味酸(MHBA)を選択的に抽出する方法などを開発した。

安全性評価試験を行い、「体脂肪低減効果」についてヒト臨床試験を行ったところ、12週間の摂取で統計的優位差がみられた。

体脂肪低減のメカニズについては、現時点で熟成ホップエキスが小腸の苦味受容体に作用し、交感神経を活性化させることで褐色脂肪細胞を刺激し脂肪燃焼を促進させるということが明らかになった。

「お腹まわりの脂肪を減らす」ビール

品質や生産の課題・安全性・有効性・作用機序の課題が順にクリアできたことで機能性表示に必要なデータの取得は完了した。

こうして、史上初!「お腹まわりの脂肪を減らす」というヘルスクレームを搭載したノンアルコールビールが誕生した。

現在、慶応大学との共同研究で熟成ホップ由来の「認知機能に及ぼす影響」など、新たな機能性についても研究が進められているという。

今後も様々な商品に展開し、ホップの魅力を発信していきたいとした。


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