大豆β-コングリシニンの脂質代謝
〜不二たん白質研究振興財団セミナー


2022年6月14日(火)、web配信にて(公財)不二たん白質研究振興財団セミナーが開催された。この中から、河野光登氏(九州女子大学)の講演「大豆β-コングリシニンの脂質代謝について」を取り上げる。


60歳以上男性の半数、メタボリック症候群

河野氏は不二製油株式会社フードサイエンス研究所に在籍しており、大豆タンパク質に関する研究を長く手掛けてきたという。

日本では健康寿命の延伸に、国としても関連企業としても積極的に関わっていく必要に迫られている。中でも健康食品や特定保健用食品、機能性表示食品の普及や開発に力を入れる必要がある。

というのも、超高齢化社会を迎えた日本において平均寿命と健康寿命の差を埋めていく事は急務であるため。

現時点で「平均寿命」と「健康寿命」の間には「男性で10年、女性で12年」の開きがあり、このことは2006年頃から盛んに指摘され、国としても「メタボ対策」など様々な施策を実施してきた。

しかしながら現時点でこの差は埋まっていない。それだけでなく、60歳以上の男性の半分以上はメタボリックシンドロームか、その予備軍である。

β-コングリシニン、脂質代謝の改善に関与

また、女性においても5人に1人がメタボリックシンドロームか、その予備軍とされ、この10年以上に渡る健康政策や啓蒙活動の効果が十分に出ているとはいえない状況が続いている。

元々日本人に馴染みがある食材の大豆だが、その健康効果についてもよく知られる様になり、1990年代からは大豆タンパク質は特に「脂質代謝の改善に有効である」ことが盛んに研究されるようになった。

その結果米国では健康強調表示が認められるようになり、日本では特定保健用食品の表示も認められている。

脂質代謝の改善に関与する大豆成分としては、大豆タンパクの種子を貯蔵するタンパク質として知られる「β-コングリシニン」の存在が突き止められている。

内臓脂肪が有意に低下

大豆タンパク質の中でもβ-コングリシニンには「内臓脂肪の低下」が確認されており、臨床試験において、食事の介入をせず通常の食事にβ-コングリシンを摂取するだけで内臓脂肪が有意に低下することも明らかになっている。

そのメカニズムについても、脂質代謝活性を促す酵素をβ-コングリシニンが肝臓内で活性化するためと解明されている。

さらに肝臓内でβ-コングリシニンは脂肪の分解を抑え、脂肪合成酵素の発現を抑制、血中や臓器の過剰な脂質や糖質を排出する効果も確認されている。



これらのメカニズムからβ-コングリシニンには糖代謝の活性があることも推測され、臨床試験で白米とβ-コングリシンを一緒に摂取すると血糖が速やかに低下することも明らかになっている。

肝臓で抗炎症作用を発揮

なぜβ-コングリシニンがこのような効果を発揮するのか。それは、食品などから摂取されたβ-コングリシニンが消化酵素によって分解され、小腸で吸収された後、様々な臓器に運ばれ糖や脂肪の適正化を行うため。

β-コングリシニンは消化されるとペプチドに分解されるが、この「β-コングリシニン消化ペプチド」には抗炎症作用があることとも関係しているのではないか、と河野氏。

タンパク質にはいろいろな種類があるが、ホエイ・カゼインの消化ペプチドに抗炎症作用は確認されていない。この抗炎症作用の働きと考えられているのが、β-コングリシニンの「非アルコール性肝炎(NAD)」への有効性である。

現時点では動物試験でのみ確認されているが、β-コングリシニン消化ペプチドが肝臓で抗炎症作用を発揮しているからではないかと推測されている、と河野氏。

消化管ホルモンをサポート

また、今最も注目されているのがβ-コングリシニンが消化管ホルモンに働きかけている可能性があるということ。

消化管ホルモンの一つに「コレシストキニン」という食欲抑制ホルモンがあるが、β-コングリシニンのペプチドはこのホルモンのペプチド配列と非常に類似したものがある。つまり過剰な食欲をβ-コングリシニンが抑える可能性が考えられる。

とはいえ、一方的に食欲を抑えるだけでない。食欲が異常に低下している場合はグレリンという食欲増加に働きかける消化管ホルモンと似た働きをする作用も見られ、必要に応じて消化管ホルモンをサポートする可能性が示唆されている。

β-コングリシニンは人の健康に非常に有効に働きかける食品成分だが、まだまだ解明されていない点も多い。さらなる研究が期待されるのではないかと話した。


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