タマゴコリンの栄養機能の検証
〜第8回タマゴシンポジウム


2022年7月11日(月)、web配信により第8回タマゴシンポジウムが開催された。この中から、三浦 豊氏(東京農工大学・大学院・農業研究院 応用生命科学部門教授)の講演「タマゴコリンの栄養機能の検証」を取り上げる。


コリン、神経伝達物質の一つ

コリンはタマゴや牛乳、大豆などに豊富に含まれる栄養素で、体内では神経伝達物質の一つであるアセチルコリンや細胞膜リン脂質の原料となる。

アミノ酸の一種であるベタインの前駆体としての働きもあり、非常に重要な化合物であるとされる。

しかし日本では「ビタミン様物質」とされ、栄養素としては扱われず、食品成分の記載もなければ食事摂取基準も定められていないのが現状である。

しかし、コリンが不足すると脂肪肝や非アルコール性脂肪肝(NASH)など肝臓疾患のリスクが高まる。逆に、過剰になると血圧上昇や体臭変化が起こることも分っており、米国や欧州ではコリンの摂取基準が定められている。

不足すると認知症発症と関係

欧米では市販食品にはコリンの含有量が表示されるほどコリンの研究が進んでいる。日本においてもコリンについて食品成分表への記載や食事摂取基準を定めることが必要だ、と三浦氏。

しかし問題は、コリンが私たちの体内や食品内で同じ形で存在しているわけではなく、主に3種類の水溶性化合物と2種類の脂溶性化合物として存在していることである。

同定が難しく代謝についても経路を含め不明点が多いため、さまざまな基準を定めることが極めて困難になっている。

ちなみに水溶性化合物とは「遊離コリン」「リン酸化コリン」「グリセロフォスフォコリン」で、脂溶性化合物とは「ホスファチジルコリン」「スフィンゴミエリン」の2種類である。

近年コリンの研究が進むにつれて明らかになってきたことは、コリンと肝臓疾患の関係に加え、コリンはアセチルコリンの原料のため、不足すると認知症発症と関係する可能性があること。また胎児の健康な発育にも極めて重要な物質であることである。

そのため欧米では妊娠中や授乳中の女性においてコリンの摂取量に付加値が定められている。ちなみに欧米の場合マッシュルームやコーヒーなどに含まれるコリンの数値をベースに摂取量が計算されている。

適切なコリンの摂取基準が定められるべき

日本においてもコリン摂取の過不足がないよう欧米に習い、適切なコリンの摂取基準が定められるべきで、日本人が日常的に摂取する食品におけるコリン含有量のデータベースの作成が求められている。

そこで三浦氏らは仙台白百合女子大学人間学部・健康栄養学の准教授 大久保剛教授らのチームと共同で、各種食品におけるコリンの含有量の測定、栄養調査によるコリン摂取量の推定、各種疾患パラメーターとの関連などの基礎的な検討と研究を進めている。

日本人がよく摂取する食品の中では、やはり欧米と同様、タマゴ・大豆・食肉などに豊富に含まれるコリンだが、他にしめじ、しいたけ、魚卵、緑茶などにも多く含まれている。

しかし、タマゴに含まれるコリンの量は圧倒的に多い。ただ、タマゴのコリンは脂溶性化合物の「ホスファチジルコリン」であり、この状態で体内に入ることが消化吸収にどのような影響があるのかなどわかっていない点も多い、と三浦氏。

日本人のコリン摂取、概ね不足傾向

日本人のコリン摂取について、日本人の男女大学生34名を対象に年4回の栄養調査を行った。その結果、コリンの摂取量は欧米の摂取目安量63%程度であることが推定され、概ね不足傾向にあることが分かった。

また別の調査では母乳中に脂溶性コリンの10倍近い水溶性コリンが含まれていた。これはおそらく乳児へ効率的にコリンを供給する必要があるからで、乳幼児の体にコリンの重要度が高いことが窺える、と三浦氏。

他にも京都市内の人間ドック受診者560名を対象にアンケート調査を行った。その結果、やはり全体的にコリンの摂取量不足が示唆され、コリンを多く含む畜肉や乳製品の摂取量が少ない生活が影響していることが考えられた。

さらに肝機能のマーカー数値が基準内である人は、基準値外の人よりコリン化合物の摂取頻度が多いことが示唆された(特にγ-GPTにおいて顕著)。

また、現状の食生活でいきなり肝障害を起こすケースは少ないが、長期のコリン摂取不足の影響は検討する必要があること、また女性の方が男性より低値を示す傾向があることなどが確認できた。

タマゴはコリンの供給源として魅力的な食材

コリンは種類によって細胞での利用性が異なることや、その利用性はがん細胞と正常細胞においても異なることなどがわかっている。

コリンの摂取で未病を防げるのか、またコリンの機能性などについてはコリンの種類によっても大きく異なることが予測される。そのため、まずは研究の母数を増やしエビデンスを蓄積していくことが何よりも重要だ、と三浦氏。

特にタマゴはコリンの供給源として魅力的な食材であることに違いないが、タマゴコリンは「ホスファチジルコリン」であり、「ホスファチジルコリン」として摂取することが有効なのかについても解明されていない部分が多い。

これからも研究を続けることでタマゴコリンの有用性について明らかにしていきたいとまとめた。


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