ワクチンや治療薬開発までの1年という期間に極力感染者数を増やさず変異株を出現させないことに寄与する可能性があるものはやはり食品成分で、治療薬ではないので完璧な効果がなくても「そこそこウイルスに効果がある」食品を開発するか、食品成分を同定することは重要ではないか。
これまでは、食品は免疫に何らかの影響を与え、その免疫系が活性することで「抗ウイルス作用」が得られる、と考えらえてきたが、「未来疫学®」では食品成分の「直接的抗ウイルス作用」の研究をはじめており、その食品の一つに「納豆研究」がある、と水谷氏。
納豆を作る際に必要な納豆菌には大豆を消化するために80種類以上のタンパク質分解酵素が含まれている。この80種類の酵素の中に新型コロナウイルスを分解できるものがあるのではないか、という推測が研究の発端になったという。
納豆の酵素、スパイクタンパク質を分解
そこで納豆メーカーである「タカノフーズ株式会社」の協力を得ながら現在研究を進めているという。納豆菌(TTCC903株を使用)を使って納豆抽出液を製造し、牛ヘルペスの培養細胞に納豆抽出液を添加すると、培養細胞への感染を完全に阻害することが確認できた。
アルファ変異株のスパイクタンパク質を分解する作用が納豆抽出液にあるか調べた結果、やはり培養細胞での試験であるが、スパイクタンパク質の分解も確認できた。
しかも納豆抽出液の中に含まれる酵素の一つであるセリンプロテアーゼにその効果があることも解明された。
他にもアルファ株、ガンマ株、デルタ株、ラムダ株、ミュー株、オミクロン株など主要な変異株に対して納豆抽出液はスパイクタンパク質の分解作用をもつことが確認され、この研究は2022年の日本ウイルス学会でも発表される予定だ。
もちろん培養細胞レベルであり「だから納豆を食べましょう」ということにはならないが、納豆菌の酵素(納豆抽出液)が新型コロナの感染を阻止する可能性は十分にあるのではないか、と水谷氏。
ただし、新型コロナウイルスは鼻腔と口腔内で感染が起こるため、今後の研究課題として食品として納豆を摂取したときに口腔内でどれだけウイルスを減らす可能性があるのか、についての研究や、納豆抽出液を噴霧剤にして点鼻したときにどのような効果が得られるのかなどについても研究する必要があるという。
世界中の食品からファクターXを
また今回は納豆菌の中でもTTCC903株を使用しているが、納豆菌の菌株によって多少効果の違いがあることもわかっている。
いずれにせよ、薬や治療ではなく、予防レベルのものであれが安全性の高い食品から完璧な形でなくても開発されることは今後の感染症対策にもなる。
現在世界では5歳に満たずに命を落とす子ども達が年間で約560万人もいて、この内の約半分以上が肺炎や下痢などの感染症によるものといわれている。
世界各国には納豆と類似した食品が多くあり、食品中には納豆以外にも抗ウイルス・抗食中毒・抗消毒になるような食材や食品成分が他にもあるはず、と水谷氏。
納豆の研究を進める一方で、世界中の食品の中からファクターXを作り出すことも可能ではないか。コロナの経験を次世代や他の感染症予防にも生かすための研究を続けたいとまとめた。
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