「食の安全」報道、事業者やメディアに求められる姿勢 〜「食品添加物メディアフォーラム」

2009年11月9日(月)、大手町サンケイプラザで、「第12回 食品添加物メディアフォーラム」(主催:日本食品添加物協会)が開催された。講師に雪印メグミルク株式会社 社外取締役(内閣府消費者委員会 委員)の日和佐信子氏が招かれ、「食の安全における消費者、事業者、メディア、行政の果たす役割」をテーマに講演と意見交換会が行なわれた。


食品の安全行政、日本は世界でもトップレベル

昨今多発している食品表示偽装問題などで、国内における「食の安全」への消費者の信頼が揺らいでいる。とはいえ、OECD(経済協力開発機構)に参加する先進国30カ国のなかで、日本は2位に位置(「食品安全ランキング2008」カナダレジーナ大学)し、世界的に見れば安全レベルは高い。

日本で、消費者が懸念する「食のリスク要因」として「有害微生物(細菌/ウイルス)」「汚染物質」「農薬」「家畜用抗生物質」「BSE」「遺伝子組み換え食品」「食品添加物」などがある。中でも、常にトップ5の「食品添加物」「農薬」「遺伝子組み換え食品」「BSE」については、最初の情報開示の段階から消費者を不安にさせるようなものばかりで、そのイメージがなかなか払拭できないことに問題がある、と日和佐氏。

「食品安全基本法」、リスク分析で食品の多くが
グレーゾンに

例えば食品添加物について、多くの消費者が「避けたい」と思っているのと同様に、事業者側も「無添加」といった言葉を使い、「食品添加物」を使用していないことをアピールしたがる傾向にある。1980年代に食品添加物規制緩和に対する闘争運動が起こり、そのマイナスイメージのスタートから、消費者が食品添加物を嫌がる傾向が未だ強く残っているが、その後様々な研究が進み、全ての食品添加物が必ずしも危険であるとは言えないことも科学的に明らかとなっている。

そもそも添加物を加えないと凝固しない食品もれば、添加物なしでは製造できない食品も多い。添加物が使用された食品が無添加の食品よりも健康にいいという科学的証拠もなく、加工食品であっても無添加食品であっても、未来永劫に安全と健康を保証できるものは何もないというのが現実なのである。

平成15年に「食品安全基本法」が定められ、全ての食品にリスクがあることを前提とし、その上で食の安全を確保しようと、「リスク分析」「リスクコミュニケーション」という新たな食に対する考え方が生まれた。結果、安全性の白黒がはっきりせず、グレーゾーンに位置するものが多くなり、逆に消費者を混乱させる、危険性をごまかすための論理になっている、と日和佐氏は指摘した。

「食品メーカーは消費者に迎合しすぎる」

また現在、国内における食品メーカーの姿勢は消費者に迎合しすぎている、と日和佐氏はいう。商品が売れなければ困る、従って消費者に迎合するのはある程度仕方がない。それにしても保存料無添加という言葉を必要以上に多用するのは、保存料を敵に回すこととなり、結果自社の首を絞めることになりかねない。

また商品の自主回収についても、やりすぎを指摘。安全性に問題がなくても回収し、回収することで消費者に誠意をアピールする傾向にあるようだ。

消費者対応窓口でも、食品業界においては、消費者からの問い合わせやクレームに対して必要以上にへりくだる傾向にある。消費者の下や上に立つのではなく、食品メーカーと消費者が対等の立場になることが求められ、それがわがままな消費者をつくらない消費者教育に繋がる、と日和佐氏はいう。

デメリット情報の開示、消費者との信頼作りで重要

さらに商品表示の見直しについても指摘。現状、食品メーカーは自社にとってイメージの悪くなる言葉を使いたがらない(例えば「カビ」という言葉など)。逆に心地良い言葉を多用し、イメージを優先しようとする傾向にある。「手作り」「手作り風」「自然」「昔ながら」などという言葉で、消費者に心地良く訴求するが、逆に何を説明しているのか明確でないことが多い。

これは消費者に対し不親切ではないかと、日和佐氏はいう。明確な表示、正確な表示、わかりやすい表示に見直していくことは急務であり、またメーカーにとってデメリットになりかねない情報であっても積極的に開示することこそ、消費者との信頼関係を構築する上で重要な役割を果たす。

メディアは影響力をもっと自覚すべき

消費者は食品の安全性に関する情報を主としてメディアから入手している。世界的には、国の研究機関や研究者、消費者団体の意見が重視される傾向にあるが、日本ではメディアが圧倒的な影響力を持っているため、その影響力の大きさを自覚し、科学を基礎とした正確な情報を伝える努力をしてほしい、と日和佐氏。

特に注意すべきが取材先やコメント者の偏りで、一定の方向性でしか意見を言わない人からの発言ばかりを取り上げても正確ではないと指摘した。読者や消費者を不安に駆り立てるのではなく、疑問に答えて役に立つ正確な情報を提供することがメディアに求められる。

行政は率先して、マスコミに正確な情報を

保存料についても遺伝子組み換え食品についても、消費者は正確な知識を持っているとは言えない。従って、まずは行政が率先してマスコミに露出し、正確な情報をアピールすべきだ、と日和佐氏はいう。商品回収についても、「健康に問題はないけれど、基準違反だから回収する」というスタンスでは仕組みそのものがおかしい。不都合な仕組みを改善し、消費者にわかりやすいものへ改善することが求められる。

また近年多発している食品期限の偽装表示や産地偽装表示などの問題について、現状の罰則が甘すぎると指摘。その甘さが「バレなければやり得」だという雰囲気を招きかねない。刑罰を重くし、不当利益を完全に剥奪するなど、行政がやるべきことは多いと述べた。


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