米ぬかに含まれるトコトリエノール、
血管新生や腫瘍を抑制(マウス実験)
〜「第21回ビタミンE研究会」


2010年1月22日(金)・23日(土)、慶応義塾大学芝共立キャンパスで、「第21回 ビタミンE研究会」が開催。招待講演で東北大学農学研究科の宮澤陽夫氏が「食品トコトリエノールに期待される機能性」と題して最新研究報告を行った。


血管新生抑制でトコトリエノールに着目

トコトリエノールはビタミンEの一種。ビタミンEのなかではトコフェノールが高い抗酸化能で注目されてきたが、最近の研究ではトコトリエノールがトコフェノールを上回ることが判明、機能性に関心が寄せられている。

トコトリエノールが含まれる食品は非常に少なく、研究データも少ない。トコトリエノールの研究は始まったばかりといえる。 トコトリエノールが多く含む食品に米ぬかがあるが、パーム油由来のトコトリエノールを摂ることが多いと宮澤氏。

トコトリエノールの生理作用としては、
@コレステロール値の低下、A抗酸化作用、B神経細胞の保護、C血圧下降、などだが、宮澤氏は「血管新生抑制効果」に着目。トコフェノールに「血管新生抑制効果」はみられない、トコトリエノールの独自機能ではないか、このメカニズムの研究で「がん抑制効果」を裏付けたいという。

がん細胞は、自らが成長するため、栄養分を取り込む新たな血管を形成する必要がある。血管新生なくしては、がん細胞も成長できない。 「血管新生抑制療法」は最新のがん治療で注目の的となっている。

試験管・マウス実験では、血管新生や腫瘍を抑制

従来のがん治療はがん細胞そのものをターゲットに切除や化学治療を行ってきたが、食品成分によるがん治療法を研究したいと宮澤氏はいう。

試験管およびマウス実験では、トコトリエノールに血管新生抑制だけでなく、腫瘍の成長を抑制する効果もみられている。
がん細胞(大腸がん)を移植したマウスと、トコトリエノールを混ぜたがん細胞を移植したマウスを数日間飼育し、がん細胞の成長を比較したところ、トコトリエノールを混ぜたマウスには血管新生が起きていないことが判明したという。

また、トコトリエノールのがん細胞への直接的な働きをみるため、がん細胞を移植したマウスにトコトリエノールを3週間摂取させたところ、がん細胞が増大していないことが分ったという。

いずれも試験管実験とマウス実験のみで、ヒトにおける効果は定かではないが、同様の効果が十分に期待できる、がんの種類によっては非常に高い効果を発揮するのではないかと宮澤氏。
ただ、現時点では、どの種類のがんに効果を発揮するかは類推しかできない、実際にヒト実験を行なわなければ解明できないとも付け加えた。

痒みや炎症抑制、美肌効果も

その他、トコトリエノールの特徴として、皮脂細胞に非常に浸透しやすいことを宮澤氏は挙げた。紫外線を浴びると皮膚の肥厚が起きるが、マウス実験でトコトリエノールを摂取すると皮膚肥厚を抑えられることが判明。また、痒みや炎症抑制、美肌効果もあることが分かった。昔から、「米油」を1日にひとさじ摂ると美肌になるといわれている。マウス実験でこれが裏付けられたという。

また、トコトリエノールの継続摂取で血管内の脂沈着の抑制がみられるという。コレステロール値を下げ、動脈硬化や脂肪肝にも効果が期待できるという。ただ、いずれもヒトによる実験が行なわれていないため、今後はヒト実験での臨床データを集めることが課題であるとした。

和食を見直し、稲を最大限に利用することが大切

今後の展望として、トコトリエノールをできるだけ米から抽出していきたいと宮澤氏。米ぬかには比較的多くのトコトリエノールが含まれるが、日常的に摂ることは難しい。白米にも玄米にもわずかながらトコトリエノールは含まれているが、稲全体から抽出できるプラント開発やトコトリエノールの濃縮製品が農林水産省のプロジェクトで進められているという。

薬や外科的手術だけでなく、がんを抑制するような機能的食品が誕生してもいいのではないかと宮澤氏は指摘する。日本人の米、味噌、醤油の消費量が格段に減っている、和食を見直し、米の摂取量を底上げし稲を最大限に利用することが大切だと述べた。


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