雪印の牛乳食中毒、牛乳中に含まれていた黄色ブドウ球菌が分泌した毒素が原因
食中毒のなかにも、細菌が毒素を分泌し、その毒素によって症状が誘発される食中毒というものがあると鎌田氏は解説する。黄色ブドウ球菌、セレウス菌、ウエルシュ菌などの細菌は環境に広く分布しているため、食品への汚染を完全になくすことは不可能だという。
例えば黄色ブドウ球菌は我々の手のひらにも当たり前のように付着している。ボツリヌス菌も牛などの動物の腸内に生息しているため、我々が肉類を食べる限りこの菌を体内に取り込んでしまう危険性をゼロにすることができない。これらが食品中に潜み、そこから毒素を発生し、嘔吐や下痢などの症状を引き起こす食中毒が「食品内毒素型食中毒」に分類されるという。
10年前に雪印の牛乳で起きた大規模な食中毒も実は牛乳中に含まれていた黄色ブドウ球菌が分泌した毒素が原因であったと鎌田氏は述べる。「食品内毒素型食中毒」の特徴として、これらの原因となる細菌と毒素が、厄介なことに熱耐性が高く、調理程度の加熱で死滅しないことであると鎌田氏は解説。
雪印事件のときも、問題となった加工乳はしっかりと加熱殺菌処理をされていたのにもかかわらず、耐熱性の強い毒素が壊れずに牛乳に残っていたため嘔吐などの食中毒症状が現われたという。
食品内毒素によって食中毒を起こす細菌の対策については、食品内での菌の増殖をさせない、ひいては毒素を発生させないことが重要となるが、菌を増殖させないための最もポピュラーな方法である「冷蔵」もボツリヌス菌には通用せず、10日前後で冷蔵庫内でも菌が増殖することが判っていると述べた。
ウエルシュ菌、汚染されているという前提で調理後は速やかに食べる
ウエルシュ菌による食中毒は、カレーやシチューなどの煮込み料理にも多く見られ、給食施設や仕出し弁当を作る施設が発生源になりやすいという。この煮込みの最中に熱に弱い菌が死滅し、熱に強いウエルシュ菌が生き残るため、大きな鍋のなかで爆発的に増殖する。体内に取り込まれた菌は、通常胃酸によって殺菌されるが、大量のウエルシュ菌を摂取した場合胃散の攻撃を逃れ、腸内でさらに増殖、毒素を発生し下痢を誘発させるという。
すでに使用する食材がウエルシュ菌に汚染されているという前提のもとで、調理後は速やかに食べる、増殖可能な温度(10?50℃)をできるだけ早く避けて冷蔵する、など食品内でウエルシュ菌を増やさない方法をとることが求められると解説した。
調理過程、「細菌つけない、なくす」はほぼ不可能
食中毒を避ける方法として「細菌をつけない」「細菌を増やさない」「細菌をなくす(殺す、壊す)」というのが、原則だが、細菌性毒素による食中毒には必ずしも当てはまらないと鎌田氏は強調する。というのもすでに肉類や野菜類の表面や内側などに付着したり混入したりしている細菌(土の中にもいる)や、調理する人の手に付着している細菌を完全に取り除くことが不可能であり、「つけない」ことを実行することが難しいからだ。
さらに調理中の加熱でも殺菌できない菌があるという以上、「なくす」ことも中途半端であると言わざるをえない。残った対策方法には「増やさない」ことしかないと鎌田氏はいう。食材調達から食べるまでをできるだけ低温管理し、調理加工したらなるべくすぐに食べることが重要だという。調理後に長い間置いた物は、食感や味が悪くなるだけでなく、菌の増殖の要因にもなっているのだ。温かい食事を、温かいうちにいただくという基本的なことが食の安全に貢献していると述べた。
「食品と残留農薬」
静岡県立大学食品栄養科学部 客員教授 米谷民雄氏
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平成18年より、農薬の残留基準を超える食品の販売が禁止
平成15年の食品衛生法改定に基づき、食品中に残留する農薬、飼料添加物、動物用医薬品について、一定の量を超えて農薬等が残留する食品の販売等を原則禁止するという新しい制度(ポジティブリスト制度)が平成18年5月より施行されている。
従来の食品衛生法の規制では、残留基準が制定されていない農薬等が食品から検出されてもその食品販売を禁止する措置をとることができなかったが、ポジティブリスト制度により、原則、すべての農薬等について、残留基準を設定し、基準を超えて食品中に残っている場合、その食品の販売等が禁止されるようになった。
この制度により、残留基準が制定されていない無登録農薬が一律基準を超えて食品に残留していることが明らかになった場合など、以前は規制の対象ではなかったが現在は規制対象となっている。ポジティブリスト以前は、残留基準が制定されている農薬等は283品目で、国内外で使用される多くの農薬等に残留基準が制定されていなかった。
しかしポジティブリストの導入にあたり、国際的に広く使用されている農薬等に新しい残留基準を制定し、結果これまで残留基準があったものも含め799農薬等に残留基準が制定されるに至ったという。
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