食中毒、残留農薬、健康食品などめぐる課題 〜平成21年度 厚生労働科学研究・シンポジウム「安全な食品で健やかな暮らし」

2010年2月12日(金)、九段会館で厚生労働科学研究主催のシンポジウム「安全な食品で健やかな暮らし」が開催された。今回で10回目を迎え、「食品の安全」をテーマに5つの講演が行なわれた。この中から、3講演の概要を報告する。

「毒素による食中毒」
国立医薬品食品衛生研究所
衛生微生物第四室室長 鎌田洋一氏

雪印の牛乳食中毒、牛乳中に含まれていた黄色ブドウ球菌が分泌した毒素が原因

食中毒のなかにも、細菌が毒素を分泌し、その毒素によって症状が誘発される食中毒というものがあると鎌田氏は解説する。黄色ブドウ球菌、セレウス菌、ウエルシュ菌などの細菌は環境に広く分布しているため、食品への汚染を完全になくすことは不可能だという。

例えば黄色ブドウ球菌は我々の手のひらにも当たり前のように付着している。ボツリヌス菌も牛などの動物の腸内に生息しているため、我々が肉類を食べる限りこの菌を体内に取り込んでしまう危険性をゼロにすることができない。これらが食品中に潜み、そこから毒素を発生し、嘔吐や下痢などの症状を引き起こす食中毒が「食品内毒素型食中毒」に分類されるという。

10年前に雪印の牛乳で起きた大規模な食中毒も実は牛乳中に含まれていた黄色ブドウ球菌が分泌した毒素が原因であったと鎌田氏は述べる。「食品内毒素型食中毒」の特徴として、これらの原因となる細菌と毒素が、厄介なことに熱耐性が高く、調理程度の加熱で死滅しないことであると鎌田氏は解説。

雪印事件のときも、問題となった加工乳はしっかりと加熱殺菌処理をされていたのにもかかわらず、耐熱性の強い毒素が壊れずに牛乳に残っていたため嘔吐などの食中毒症状が現われたという。

食品内毒素によって食中毒を起こす細菌の対策については、食品内での菌の増殖をさせない、ひいては毒素を発生させないことが重要となるが、菌を増殖させないための最もポピュラーな方法である「冷蔵」もボツリヌス菌には通用せず、10日前後で冷蔵庫内でも菌が増殖することが判っていると述べた。

ウエルシュ菌、汚染されているという前提で調理後は速やかに食べる

ウエルシュ菌による食中毒は、カレーやシチューなどの煮込み料理にも多く見られ、給食施設や仕出し弁当を作る施設が発生源になりやすいという。この煮込みの最中に熱に弱い菌が死滅し、熱に強いウエルシュ菌が生き残るため、大きな鍋のなかで爆発的に増殖する。体内に取り込まれた菌は、通常胃酸によって殺菌されるが、大量のウエルシュ菌を摂取した場合胃散の攻撃を逃れ、腸内でさらに増殖、毒素を発生し下痢を誘発させるという。

すでに使用する食材がウエルシュ菌に汚染されているという前提のもとで、調理後は速やかに食べる、増殖可能な温度(10?50℃)をできるだけ早く避けて冷蔵する、など食品内でウエルシュ菌を増やさない方法をとることが求められると解説した。

調理過程、「細菌つけない、なくす」はほぼ不可能

食中毒を避ける方法として「細菌をつけない」「細菌を増やさない」「細菌をなくす(殺す、壊す)」というのが、原則だが、細菌性毒素による食中毒には必ずしも当てはまらないと鎌田氏は強調する。というのもすでに肉類や野菜類の表面や内側などに付着したり混入したりしている細菌(土の中にもいる)や、調理する人の手に付着している細菌を完全に取り除くことが不可能であり、「つけない」ことを実行することが難しいからだ。

さらに調理中の加熱でも殺菌できない菌があるという以上、「なくす」ことも中途半端であると言わざるをえない。残った対策方法には「増やさない」ことしかないと鎌田氏はいう。食材調達から食べるまでをできるだけ低温管理し、調理加工したらなるべくすぐに食べることが重要だという。調理後に長い間置いた物は、食感や味が悪くなるだけでなく、菌の増殖の要因にもなっているのだ。温かい食事を、温かいうちにいただくという基本的なことが食の安全に貢献していると述べた。

「食品と残留農薬」
静岡県立大学食品栄養科学部 客員教授 米谷民雄氏

平成18年より、農薬の残留基準を超える食品の販売が禁止 

平成15年の食品衛生法改定に基づき、食品中に残留する農薬、飼料添加物、動物用医薬品について、一定の量を超えて農薬等が残留する食品の販売等を原則禁止するという新しい制度(ポジティブリスト制度)が平成18年5月より施行されている。

従来の食品衛生法の規制では、残留基準が制定されていない農薬等が食品から検出されてもその食品販売を禁止する措置をとることができなかったが、ポジティブリスト制度により、原則、すべての農薬等について、残留基準を設定し、基準を超えて食品中に残っている場合、その食品の販売等が禁止されるようになった。

この制度により、残留基準が制定されていない無登録農薬が一律基準を超えて食品に残留していることが明らかになった場合など、以前は規制の対象ではなかったが現在は規制対象となっている。ポジティブリスト以前は、残留基準が制定されている農薬等は283品目で、国内外で使用される多くの農薬等に残留基準が制定されていなかった。

しかしポジティブリストの導入にあたり、国際的に広く使用されている農薬等に新しい残留基準を制定し、結果これまで残留基準があったものも含め799農薬等に残留基準が制定されるに至ったという。

国内で使用される農薬等については使用方法が守られて適正に使用されていれば残留基準を超える心配はないという。また残留基準が定められていない農薬等については、食品衛生法に基づき「ヒトの健康を損なうおそれのない量」を定め、規制しているという。

これが「一律基準」と呼ばれていて、この「一律基準」を超えて残留する農薬等が見つかった食品は販売等が規制されることになっているという。一律基準はこれまで国際評価機関や国内で評価された農薬等の許容量と国民の食品摂取量に基づき、専門家が0.01ppm(食品1kgあたり農薬等が0.01mg含まれる濃度)と設定している。

食品の形態で測定方法がマッチしないケースも

この一律基準が適用されるのは、いずれの食品にも残留基準が制定されていない農薬等が食品に残留する場合か、一部の食品には残留基準が制定されている農薬等が、残留基準が設定されていない食品に残留する場合のいずれかのケースであるという。

いずれにせよ、残留農薬を測定する方法なども一律に定められているが、食品の形態によっては測定方法がマッチしないケースなどもあり、その都度適切な対応が必要となるため、大変な作業をしていると報告した。

中国冷凍ギョウザ事件が発生し「急性参照容量(ARfD)」という言葉も知られるようになっているが、これは「ヒトが24時間または、それより短時間の間の経口摂取によって、健康に悪影響を示さないと推定される量」を現している。このARfDはおおむね一ヶ月以内の短期の毒性試験で有害な影響のない量を安全係数で割って算出するという。

メタミドボスは国内では農薬登録されていないため、メタミドボスが含有されていた冷凍ギョウザについて政府がARfDを急遽公表したが、ARfDに対する妥当性の確認は今後も継続が必要であると述べた。また無登録の農薬等について、ARfDだけでなくADI(一日摂取許容量)の観点からの調査や危険性の擦り合わせ、データベースの蓄積も課題であると報告した。

「健康食品の安全性と有用性」
甲子園大学学長 田中平三氏

健康食品、薬事法規制で機能表記が曖昧に  

高齢化社会、それに伴う生活習慣病の予防、健康長寿への期待、機能性食品の研究の進歩などから健康食品が登場し、多くの人々が利用している。しかし健康食品は科学的にも法律的にも明確な定義がなく、通常の食品よりも健康に良い、あるいは健康に関する効果があると称して販売されている食品にすぎないと理解することが大切だという。

国内における特保商品については、食品の選択における不正確あるいは非科学的な情報の混乱防止のため、国が科学的根拠に基づく情報提供を積極的に行なう必要があったという背景があり創設されたという。しかし国は決して特保商品の積極的摂取を勧めているわけではないと田中氏。

健康食品の有効性についてはもちろん適正な実験が行なわれ、データもあるが、薬事法の規制もありその機能の表記がどうしても曖昧になる。 実際にビタミンAは夜間の視力維持を助ける栄養素だが、薬事法の規制で「夜盲症に効果がある」とは書けない。そういった点が消費者から判り難いと指摘されており、課題でもある。

特保商品、「likely safe(おそらく安全と思われる)」にすぎない

しかし健康食品の有効性の有無よりも大切なことは、必須栄養素でさえも過剰摂取すると健康障害を起こすという事実であると田中氏は強調する。

健康食品の過剰摂取、不必要なダイエット、欠食、弧食、個食、効率的な食事、加工食品の過剰摂取、こういったことが現代の食と栄養に関する問題であり、健康食品を信頼しすぎることでも批判しすぎることでもないという。

健康食品の安全性については品質の問題、医薬品や食品との相互作用、不確かな情報、利用者側のアレルギー体質や妊婦であるといったようなハイリスクグループに関わる要因など、様々な問題が報告されているが、そもそも特保商品であっても「safe(安全)」と断定されているものはなく「likely safe(おそらく安全と思われる)」というレベルにすぎないという。

それでも、3-4万品もある健康食品やサプリメントのなかで、特保商品は一応有効性と安全性が確認されているので、健康食品やサプリメントを摂取したい場合は、特保商品を選ぶことが無難であると田中氏はいう。

いずれにせよ健康の維持増進の鍵は健康食品ではなく、健全な食生活と適度な運動、適度な休養にあり、食品だけでは健康にはなれないとまとめた。


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