中国における食料産業の構造変化と食品の安全対策〜「第75回 食と環境のセミナー」

2010年2月24日(水)、中央区立日本橋社会教育会館で、「第75回 食と環境のセミナー」が開催された。セミナーでは国際農林水産業研究センター所属の銭小平氏が「中国における食料産業の構造変化と食品の安全対策」について、中国の近況を交えて報告した。


中国における食糧生産の現状

2004年以降、中国の食料生産量は6年連続増加を記録しており、2009年度は食糧(穀物、豆、イモ類など)の生産量が5.3億トンと過去最高の数字となった。食肉生産量は7500万トン、水産物生産量も5120万トンと大きく伸びている。
中国における食糧自給率は95%を保ち、中国政府も今後10年-20年間は高い自給率を保てると予測しているが、不安定要因もあると銭氏は指摘する。

不安定要因は主に3つ。まずは耕地資源拡大の限界。高い食糧自給率を維持するためにさらに1.5億ヘクタールの耕地が必要だが、すでに耕地面積は限界で、これをカバーすることは難しい。その他、水資源不足や単収の可能性についても銭氏は指摘。

中国における食料需要の現状

次に、食糧需要については、国民の所得増による食料消費の高度化が起こっているという。かつて国民は食に「量」を求めていたが、特に2000年以降、「質」や「安全性」を求める意識変化が起こっているという。

一家庭における調理時間も短縮傾向にあり、加工品への需要も急速に高まり、生活スタイルも食とともに大きく変化し、外食需要も急激に増加しているという。加工食品ではとくに牛乳の消費量が急速に伸びていて食の欧米化が進んでいるという。

しかし、多くの人口を抱える中国で、これらの傾向はあくまで平均的なものであり、実際は所得格差、都市と農村部の地域格差、南北による地域間の格差が拡大しており、このままでは食料需要全体にも影響しかねないと銭氏は指摘。今後の食料需要の変化は国民の所得と嗜好性が大きく影響すると予測した。

中国における貿易の現状

貿易については2004年以降輸入が超過し貿易赤字が続いている。特に、菜種油・パーム油などの油脂類の輸入が拡大していて、油脂に関しては南米・北米との取り引きが主となっている。

また、豆類の輸入も多いという。しかし、輸入した商品の安全性を確保するラインは確立されておらず、トレーサビリティやバーコードによる管理は一部でしか導入されていないのが現状という。

輸出については調整食品類を最も多く輸出している。その主要取引先はもちろん日本と韓国である。
しかし、輸出品についても安全性が課題で、加工水準の低さや、付加価値の少なさ、ブランド力の低さ、輸出企業の規模の小ささ、国際競争力の弱さなど課題が山積していると報告した。今後も輸出については多価化と成長が求められるという。

中国国内の食の安全対策

中国食品産業は農業、食品製造業、食品流通業、飲食業から構成されているが、生産額は2000年から2007年の間で12%も成長している。中でも食品製造業は大きく拡大しているが、農業は縮小していくという二極化も問題点となっている。

またフランチャイズビジネスやチェンーンストアの展開や発展も目立つ。これらの拡大が食品加工品と半製品の需要促進に拍車をかけており、食品製造業の拡大に貢献しているという。

このような食の拡大のなかで、安全性という視点は非常に重要なものとなっている。特に富裕層が安全性を重視するようになっており、価格から品質へというトレンドはますます強まると予測される。

しかしながら中国政府はこれまで輸出品にばかり検査体制を強化し、国内産品については検査体制が整っていなかったため、輸出品と国内品の安全性の差が大きいことも課題の一つという。

特に日本でポジティブリストが実施されてからは、中国側の検査体制も厳しくなり、輸出食品に関する安全システムの対策がとられるようになったという。また高度な検査機器の投入も政府が積極的にすすめているそうだ。

日本への輸出品については、これらの検査コストや検査機器の調達コストが高くなり、日本国内の消費者価格に転換できずに企業収益にも影響しているほどであるが、それでも安全性を優先する傾向にある。

しかし国産品においては輸出商品ほどの対策が行き届いておらず、食の安全に関する問題が頻発している(2008年のメラミン混入事件含む)。もちろん国内における食の安全性問題は国外へも報道され影響するため、輸出収益の障害にもなりかねない。

そのような流れのなかで2009年に中国では食品安全法がようやく発効、今後どのように執行されるか注目されている。また2010年2月には食品安全委員会も設立された。委員長には現副総理が起用され、国家として食の安全に全面的に取り組む姿勢が見える。

食品安全法以外にも食の安全に関わる法律や条例は10種類ほどあるそうだが、それらの整合性は欠けている部分も多く、今後は食品安全法と食品安全委員会における調整や取りまとめ、牽引が期待されていると報告した。


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