ダイオキシン類、低容量でも後世代に毒性
ここ数年、現代人の不妊、出生率の低下などが社会問題化しているが、環境ホルモンやダイオキシンと精子数の減少が深く関係しているのではないかと指摘されている。
山田氏は、ダイオキシンのなかでも最も毒性が高いとされるTCDDを用いた研究報告を行なった。
ダイオキシン類は高容量を使用すると一般的毒性が発現する。しかし低容量でも後世代に生殖などで毒性が現れるため非常に危険であるという。
例えば、「カネミ油症事件」がその一例。妊娠中の女性が「カネミ油」を摂取したことで、色素沈着の激しい子供が生まれたが、次の世代では男児が生まれ難い(女性の出生率に対して29%)ことが判っているという。
環境ホルモンやダイオキシン、脳下垂体に影響
また、現在、全国的に男児が減少傾向にあるが、ダイオキシンと関係がないとは言い切れないと山田氏はいう。
ダイオキシンを含む「環境ホルモン」や「内分泌かくらん物質」は、ホルモンに類似する作用、またホルモンの阻害作用を通して悪影響を起こしていると考えられてきたが、妊娠中のラットにTCDDを投与し、胎児における遺伝子発現や生育への影響を観察したところ、実は脳下垂体に影響を与えていることが判明したという。
生まれたてのラットが成長して、正常な交尾をするためには性ステロイドが必要不可欠である。しかし、TCDD投与ラットから生まれたラットは、性ステロイドが体内でほとんど合成されないため、メスのラットとペアリングしても正常な交尾を行なうことができない。また後天的に性ステロイドを投与しても効果がない。
この性ステロイドは男性ホルモン(テストステロンなど)と女性ホルモン(エストラジオールなど)から成り立ち、胎児期に胎児の脳下垂体から分泌される黄体形成ホルモンや卵巣刺激ホルモンが作動し、コレステロールで作られる。
山田氏の行なった最新のラット実験では、TCDDを投与されたラットの胎児には脳下垂体から分泌されるべきホルモン類がすでに減少していることが判明。ダイオキシン類がホルモンの阻害作用を起こしているのではなく、周産期の脳下垂体そのものに影響し、これが性ステロイドの異常を起こしていることが裏付けられたという。
アルファ・リポ酸、性ステロイドの低下を回復
TCDD投与ラットから生まれたラットは、健康なラットと比べて生殖組織の発達に遅延が見られる他、発情までの時間も延長、交尾の回数も半減するなどの障害が見られたという。しかしTCDD投入後のラットの胎児でも脳下垂体ホルモンを注入すると、性行動はほぼ正常水準へと回復することが判ったという。
TCDDの毒性は少なくとも酸化ストレスの増加に起因すると考えられるため、抗酸化ストレス作用を示す食品の摂取でTCDDのマイナス影響を解消できないか模索していると山田氏。
実験を重ねた結果、抗酸化作用の高いアルファ・リポ酸を妊娠中のマウスが摂取すると、TCDD投与後のラット児でも脳下垂体ホルモンと性ステロイドの低下を回復させたことがわかった。しかし、同じく抗酸化作用の高いビタミンCでは回復は見られなかったという。
したがって抗酸化作用ではなく、アルファ・リポ酸の補酵素としての機能に現状注目しているという。いずれにせよ、なぜアルファ・リポ酸が効果的なのかを解明するとともに、食生活での改善提案ができるよう、実験を引き続き行ないたいと述べた。
「発達期と化学物質」
東京農工大学大学院共生科学技術研究員
準教授 渋谷淳 氏
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乳幼児は大人以上に化学物質の危険にさらされる
胎児や乳幼児は、その特有な行動や生活環境により、大人とは異なる化学物質のばく露が生じる。人体器官が未熟であることも考慮しなければならない。
胎児や乳幼児の成長過程で、さまざまな器官が段階的に発達していくが、構造や機能の成熟時期は器官ごとに異なる。内分泌系である性ホルモンは、妊娠初期は母体にのみ由来し、妊娠後期は脳の視床下部が発達する。どちらも等しく重要期で、どの期間で化学物質の影響を受けても思春期以降の生殖機能に関係する。
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