健康づくりのための食育推進共同宣言
〜生涯食べる機能を維持して、健康である
ために 「第31回健康づくり提唱のつどい」


2010年4月7日(水)、東京都ヤクルトホールで、「2010年世界保健デー記念 第31回健康づくり提唱のつどい」が開催された。これまでは日本栄養士会が社会活動の一環として主催してきたが、今年度より日本歯科医師会と日本栄養士会が連携、食と食育の重要性をより広く国民に訴求することを目的に開催された。


一口に30回以上噛んで味わう食べ方「噛ミング30(カミングサンマル)運動」を推進

「食べる」とは人を良くするという文字から成り立つ。その文字が示すように、「食べる」ことで人はより良くならなければならない。ストレスになるような食事、病気を招くような食事、寂しさや侘しさ、むなしさを感じるような食事では、本当の「食べる」には値しないのではないか。

栄養士会会長の中村氏は述べる。私たちにとって「健やかな食」とは「身体の栄養」のみらならず、味わいや寛ぎなど「心の栄養」として心身の健康を育むことに深く関わるばかりか、共に食することで人々の連帯意識が高められ、地域づくりや食文化の醸成にも寄与する。

「食べる」ことは自然の命をいただくこと。我々人間は、自然の命をいただき、生きながらえている。だからこそ私たちはより良い人生を送らなければならない。

また、日本歯科医師会会長の大久保氏は咀嚼の重要性について触れる。私たち人間には異物を侵入させないという免疫が備わっている。免疫機能があるために、人間同士の臓器移植や輸血でも不適合であれば拒絶反応を示す。

しかし、私たちは牛の肉を食べることができる。なぜならば、私たちは咀嚼をすることができるからだと大久保氏はいう。生物学者の福岡伸一氏は自書で「牛の肉を食すとき、私たちは咀嚼することで、その肉から牛の情報を消している」と述べているが、まさにそこに咀嚼の重要性があると大久保氏。

日本歯科医師会と日本栄養士会は「食べることは生きることであり、生きることは食べ続けることである」という言葉を基本に捉え、豊かな人間性を育むことを可能とする「あるべき食」や「食べ方」に対する知識と実践、食育の推進を行なうために以下の宣言を発表した。

1.生涯にわたって安全で快適な食生活を営むためには、栄養のバランスをとりながら、しっかり噛むことであり、それを通して、味わい深く、心豊かな人生を営むことを目的とした食育を推進する。

2.嚥下するまでに30回程度は噛み砕くのに必要な固さの食品や料理を選び、さらにそれを一口に30回以上噛んで味わう食べ方である「噛ミング30(カミングサンマル)運動」を推進することで、「食」と「栄養摂取」と「健康」のあるべき形を推進する。

3.食に関わる団体等と連携・恊働し、食育の重要性を広く国民に訴え、社会的な活動として、これを推進する。

「食」の専門家として歯科医師会、管理栄養士、栄養士、「食」と「健康」に関するすべての職種の専門家が、健全な食生活を実践することができる人間を育み、すべての人々が健康で心豊かな食生活を営むことができるようにその責務を果たし、国民運動である食育を広く推進したいと宣言した。

脳機能からみた咀嚼法のすすめ

大分医科大学名誉教授の坂田利家氏は「脳機能からみた咀嚼法のすすめ」と題して講演。21世紀の食のテーマは「食の暴走をとめること」ではないかという。都市化された社会で食物は氾濫し、お金さえ出せば昼夜を問わなず、食に瞬時にありつける。

食材本来の味を生かし、栄養バランスのとれた健康的な食事よりも、人工的で濃い味付け、高エネルギーで見栄えのよい料理ばかりを好むようになっている。このような環境下では、食本来の脳機能は発揮され難い。

人類は20万年に渡り飢餓と戦ってきたが、今や食物に対する畏敬の念が希薄になっている。これをくい止める方法はないのか?坂田氏はそのために、いまこそ咀嚼を見直すべきだと述べる。

人間以外の動物は、食欲が狂わないようにできている。例えば空腹のチーターはカモシカを追いかけて勢いよく噛み殺し食すが、満腹になれば、食べるのを止め、その場から立ち去る。

本来動物の脳にはそうした食調節系機能が備わっている。したがって食欲は狂わない。しかし私たち人間は前頭葉が発達しているため、「もったいない」「保存しよう」「次にいつ食べられるかわからない」、など思考を巡らせ、食欲を暴走させる。

早食いの人に肥満体型が多い

早食いだと肥満になるということではないが、肥満体型の人を調べてみると、早食いの人が多いという統計がある。食べるペースを遅らせるには、食材を固くすることで、実際にラットベースで餌の固さを調整し実験したところ、固い餌を食べるラット群は普通食や柔らかい食を食べるラット群にくらべ、食べる量もスピードも大きくダウンした。

固い餌をゆっくり噛んで食べるラット群は、咀嚼により脳内ヒスタミン神経系が賦活されていることがわかっている。ヒスタミン神経系とは満腹中枢、記憶、学習能力、睡眠/覚醒などの恒常性機能、ホルモンバランスなどを刺激したり調整したりする脳内の重要な神経系であるが、咀嚼によってこのヒスタミン神経系が賦活する。

咀嚼でヒスタミンが活性化、内臓脂肪を燃焼

またこの神経ヒスタミンは内臓脂肪を得意的に分解し、熱放散を増し、食欲を抑えることもわかっている。10分間程度デンタルガムを噛んだ後に食事をするだけでも、食べる量が減るというデータも集まりつつあるという。

咀嚼することで、ヒスタミン神経系が立ち上がり、@余計なものを入れにくくなり、A脂肪合成酵素がヒスタミンにより働きにくくなるので余計な脂肪が合成されず、Bヒスタミンが活性化することで内臓脂肪を燃やす、という3ステップで内臓脂肪にアプローチしている。

また咀嚼によって得られた満腹感は、食べ過ぎによる「苦しい」という感覚ではなく、幸福感に満ちたものであり、満腹感までも修正される。つまり咀嚼法で満腹感を修正しながら減量すれば、リバウンドの防止にもつながる。この実験結果は人間でも同様の結果が得られており、咀嚼法は内臓脂肪を削減する上で、いつでもどこでも誰にでも行なえる効率のよい方法であると坂田氏はまとめた。

日本古来の伝統食、ヒスタミンの前駆であるアミノ酸を多量に含む

日本食化超低エネルギー食療法についても坂田氏は触れる。玄米などを中心とした日本古来の伝統食は、ヒスタミンの前駆であるアミノ酸を多量に含むため、それだけでもヒスタミンを賦活させる。

さらに比較的固いものが多く咀嚼を自然に必要とするため、これら2つの側面から内臓脂肪を効率よく燃焼させる。ダイエット食は液体化されたものが多いが、幸福な満腹感を得るためにも、日本の伝統食を見直すことが重要だと坂田氏は締めくくった。


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