「タンパク質のリサイクル」〜私たちの
体にある「エコ」なシステムについて
「第29回都民のための公開講演会」


2010年4月14日(水)、(財)東京都医学研究機構 東京都臨床医学総合研究所で、タンパク質の循環システムについて公開講座が開催された、タンパク質がどのように人の疾病と関わっているのか、最新の研究報告が行なわれた。

「タンパク質分解におけるカルパイン」
東京都臨床医学総合研究所 カルパインプロジェクトリーダー 反町洋之 氏

タンパク質分解系の破綻が重篤な疾病を引き起こす原因か

私たち人間の生命を支える重要な機能素子であるタンパク質は細胞内で絶えず合成と分解を繰り返している。60兆に及ぶ細胞の2%は日々死滅・再生している。

表皮はおよそ30日、腸の粘膜はおよそ5日で生まれ変わる。白血球はおよそ3〜5日、粘膜細胞もおよそ3〜5日、血小板は10日〜14日、赤血球は4ヶ月、肝臓は1年半、骨は1年に18%程度生まれ変わる。

人が1日に摂取すべきタンパク質の量はおよそ70gといわれる。摂取したタンパク質は消化酵素によって分解されアミノ酸に変わり、体内で再び合成され(=再生)、体タンパク質になり、不要なものは分解(=処理)され排泄、あるいは糖やエネルギーとして使われる。

このリサイクルシステムが、いわゆる新陳代謝だが、主役のタンパク質分解は、栄養素の確保や細胞内に生じた、不良品、不要品の効率的な除去のために積極的に作動している。近年、このタンパク質分解系の破綻が神経変性疾患やガンなど重篤な疾病を引き起こすのではないかと研究が進められている。

タンパク質分解酵素のカルパイン、対ストレスで作用

人の体内では、タンパク質は100〜300個のアミノ酸(全20種類)が数珠のように繋がり構成されている。その一つのまとまりはドメインと呼ばれ、ドメインとドメインもタンパク質の糸で結ばれている。タンパク質分解には酵素が重要な役割を果たしているが、なかでも「カルパイン」というタンパク質分解酵素が近年注目を集めている。反町氏はカルパインを専門に研究している。

反町氏によると、カルパインは私たちの細胞内に存在し、カルシウムにより活性化される分子だが、役割の全容はまだ解明されていないという。ただ、タンパク質のまとまりであるドメインとドメインを繋ぐタンパク質の糸を切断する役割を果たすことは明らかになっているという。

私たちは生きていく上で、様々なストレスや変化に遭遇する。

それらに速やかに対応し、対策を講じなければ心身に不調をきたす。ストレスや変化を感知するとカルパインは様々なタンパク質を切断し、細胞内の環境整備を促す。

カルパイン、アルツハイマー発症との関わりも指摘

通常、タンパク質分解酵素は主にタンパク質をバラバラにする機能を持つ。ただ、カルパインはタンパク質を2〜3つに切断するのが特徴で、適切な機能を発揮する形に変換する役割があることが研究でわかっている、と反町氏。カルパインは単なるタンパク質分解酵素ではなく、「モジュレータ(変調/調節)」としての役割を果たし、筋肉、胃腸、など重要な臓器機能を支えているという。

また、カルパインの機能不全により筋ジストロフィー、胃腸疾患、糖尿病、ガンなどの疾病が発症することも解明されつつあり、近年ではアルツハイマー発症との関わりも指摘されているという。

カルパイン、様々な生物の生命維持に必要な酵素

人は14種類のカルパインを持つが、3番目のカルパイン(カルパイン3と呼ばれる)が機能しなくなると筋ジストロフィーが発症することもわかっている。また、8番目のカルパインの機能不全で胃潰瘍、10番目のカルパインは糖尿病と関係することが解明されているという。他にも、マウス実験で、1番目と2番目のカルパインが機能不全になると死んでしまうこともわかっている。

カルパインは人だけでなく、ほぼ全生物に存在することも確認されているが、酵母や植物においても、カルパイン変異による病態が報告されていて、カルパインが様々な生物の生命維持に必要な酵素であることが明らかになってきている。

しかしカルパインが実際どのように機能し、疾病の発症を防いでいるのかについてはまだ不明な点が多く、今後の研究で、カルパインの生理機能を明らかにし、疾患の発症機序や予防・治療に役立てたいと反町氏はまとめた。


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