摂食、嚥下機能は呼吸とともに生きるための基本機能で、日常生活で頻度が高く繰り返される。この機能に障害が起こると、全身に及ぼす影響は計り知れないと向井氏はいう。口腔・咽頭領域に障害が生じると、低栄養、脱水だけでなく、誤嚥による呼吸器感染や窒息などの問題が生じる。
味覚刺激は、様々な反射性活動を誘発する。末梢神経を介して、延髄の弧束核に伝達された味覚情報は、三叉神経運動核、舌下神経核、迷走神経などに情報を送り、顎、顔面、舌の運動や唾液分泌を始めとする消化活動を誘発する。
向井氏は、こうした摂食、嚥下機能領域における味覚の果たす役割を、未熟性(未熟児、低体重、早産児)、筋ジストロフィー症、摂食拒否、などといった摂食・嚥下障害疾患を抱えた人々が利用するリハビリテーションの臨床の場で、嚥下障害の機能評価と訓練に応用する試みを実践している。
母乳以外の食物を経口摂取するためには、嚥下の動きである食塊形成と食塊を咽頭へ送り込む口腔の機能発達が必要となる。この嚥下の動きは離乳期に発達するが、特徴的な動きのひとつとして、嚥下時の閉口時に舌先を口蓋前方部に押し付ける動きをスムーズに誘導する下唇の内転する動きがある。
この一連の動きを誘発する刺激として「甘味」を用いることが有効だと向井氏はいう。舌は避けて、下唇の内側に甘味物を塗ると、粘膜、唾液などにより味覚が口腔内に拡散し、舌前方部の味蕾を刺激する。すると甘味の受容と刺激唾液が分泌され、耳下腺唾液の分泌と貯留が始まる。
これが唾液を用いた嚥下機能評価、訓練となる。美味しさという快の刺激を求めて舌運動は開始され、舌先の前方移動による下唇舐めが舌運動の評価と訓練になる。こうした甘味の刺激による評価、訓練法は多くの嚥下障害に対して有効であると向井氏はいうが、快の刺激と考えられる甘味に対して拒否を示す小児も少なからずいるという。
その理由を解明するために現在ラットの実験が行なわれているが、現段階では、発達(離乳)期の口腔内遮断が、味覚伝達系の発達に影響を及ぼしているのではないかという仮説を立てている段階だと向井氏はいう。
食物物性および一口量と嚥下機能との関連
大阪大学大学院 歯学研究科 高次脳口腔機能学講座
舘村 卓 氏
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摂食嚥下障害により社会復帰、参加が妨げられている人が現在増加傾向にあるという。医療現場において、経口摂取への取り組みは近年重要視されつつも、他の医療的介入よりも遅くなる傾向があり、そのため摂食嚥下機能に関わる器官の機能低下、汚染などのマイナスの変化を起こし、結果、医原性とも云わざるを得ない摂食嚥下障害も多く見られると舘村氏は指摘する。
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