親の食嗜好が子どもの食嗜好にダイレクトに影響
食べるということは、我々人間にとって生命活動を維持するための栄養吸収を担うだけの活動ではなく、心の栄養にもなっているという視点から小泉氏はさまざまな研究を行なっている。
とくに離乳を迎える2歳頃までの幼児から児童期の子どもは、外的要因から脳の刺激や変化を受けやすく、この時期にどのような食環境で生活をしていたかが、その後の人生に大きく関与するのではないか、ということが知られるようになってきた、と小泉氏。
食嗜好は食行動に大きな影響を与えるが、子ども(幼児期、児童期)は周囲との関わりによって食嗜好が大きく変化するのではないか、ということがラットの研究でも証明されつつある。
例えば、蛋白質、糖分、塩分、カルシウムをバランスよく摂取できる環境にあるラットのグループ(母親と子ねずみ)から、母親だけをケージから移動させても、そのグループの子ねずみは同じ栄養分を摂取することができる。
しかし、糖分、塩分、カルシウムだけしか摂取しない環境で別のラットのグループ(母親と子ねずみ)を飼育し、母親だけをケージから移動させたうえで蛋白質をケージのなかに入れても、残された子ねずみは新しく加わった蛋白質という栄養素を自ら摂取しにいくことはほとんどないという結果が出ているという。
つまり、親の食行動が子ねずみにダイレクトに影響を与えているということになる。我々人間も同様で、親の食嗜好、好き嫌いが子どものその後の食嗜好にダイレクトに影響していく可能性が高いと小泉氏は指摘する。
子どもの弧食経験、大人になってから心身に影響
近年問題となっている「弧食」についても、食行動が心身にどのような影響を与えるのか、ラットベースでの実験が繰り返されている。たとえば、若年期に親や集団と隔離したねずみの行動の観察では、ねずみであっても弧食の環境で成育することにより、ねずみの体内における白血球の減少や卵巣の縮小など、ストレスによって生じる体内変化が多く報告されている。
しかし近年は、不安、鬱、社会性の低下、暴力的行為など体内変化にとどまらない身体的変化がねずみにも観察報告されるようになっており、特に幼ければ幼い時期に弧食の環境で育成したねずみに、この変化は多く見られることから、我々人間であっても、幼少期に弧食という環境で過ごすことが将来的な問題につながるのではないかということが証明されつつあると小泉氏はいう。
また親や集団から隔離して弧食の環境で成育したラットの観察で見られた、不安症/暴力的行為/鬱傾向といった症状は、弧食環境にあるときに起こるのではなく、ある程度成長してから発症することが多い。つまり子ども時代の弧食経験が、大人になってから大きな影響を与えるのではないか、ということが考えられていると小泉氏は報告した。
子どもの弧食、肥満傾向に
また、あくまでラットベースだが、幼児期に1日10分親ねずみから隔離することを3週間続けただけでも、その60日後にはその子ねずみの脂肪細胞は増加し肥満体質の子ネズミになってしまったという報告もあるという。
アメリカでは小学生未満の幼児を対象に@週に5日以の弧食はないか、A睡眠時間は10時間以内か、Bテレビを見る時間は1日2時間以下か、という3つの質問をベースにしたアンケートをとって分析したところ、3つとも「Yes」だった幼児のなかには14.3%しか肥満傾向の子どもがいなかったのに対し、すべて「No」と答えた幼児のなかには24.5%、つまり1.7倍の肥満児がみられたという調査結果が今年発表されたという。
・
・