健康食品の安全性・機能性表示の今後の方向性 〜第20回「健康食品フォーラム」

2010年6月15日(火)、東京霞ヶ関の瀬尾ホールで、第20回健康食品フォーラム「健康食品の安全性・機能性表示の今後の方向性」(主催 財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会)が開催された。

高齢社会における健康食品の役割
--栄養化学と脳科学の視点から--

慶応大学医学部 眼科教授 坪田一男 氏

アンチエイジング、「カロリス」と「抗酸化」がカギ

眼科医として数多くのレーシック手術で実績を残す坪田氏は、レーシックの手術後に患者がなんらかの若返り効果を実感していることから、アンチエイジングにも興味を持ち平行して研究を行なうようになったという。

これまで「老化」とは自然の摂理でありそれを食い止めることはできないと、なかなか介入されることのなかった領域であるが、近年は多くの研究により老化が遺伝子の生物学的プロセスであり、介入が可能だと考えられるようになっていると坪田氏は語る。

老化に対するアプローチとして、現在科学的裏付けを得ていて実践できるものは2つ知られている。その一つがカロリス(カロリーリストリクション)、つまり低カロリー食のことである。これまで多くの動物でカロリーを通常摂取量が7割程度に抑えることで、病気を防ぎ、若さと健康を保てることが証明されてきたが、近年同じ霊長類である猿でも同様の効果が報告され、ヒトにおいても研究中ではあるが、ほぼ同様の効果が期待できると考えられていると坪田氏は述べる。

もう一つは「抗酸化」で、これは近年良く知られるようになっている。活性酸素により細胞が酸化し、組織や細胞が損傷してしまうことが老化につながるため、酸化を防ぐ抗酸化物質の摂取や抗酸化酵素の働きを活性化させることがその対策となる。

レベストラロールというポリフェノールの一種である栄養素を投与することで、抗酸化のみならずカロリスと同じ効果が得られることもマウスの実験で報告されており、このように食品機能が遺伝子レベルに影響することは大きな話題となっているという。

予防医学の発展とともに機能性食品がさらに注目

ただしレベストラロールにせよ、ビタミンCにせよ、十分なアンチエイジング効果を発揮させるために必要な量の抗酸化成分を摂取するのは、容易なことではないため、やはり良質なサプリメントや健康食品の摂取などが鍵となると坪田氏。

坪田氏自身も10年に渡り80種類のサプリメントを摂取し、カロリスの他に、適度な運動や「ご機嫌であること(=ご機嫌運動)」を心がけて実践しているそうであるが、この10年で体脂肪は5%落ち、健康診断の結果を比較しても全体的に若返りといえる効果を示しているという。

これまでは薬により遺伝子発現の変化が治療として重要視されてきたが、今後は予防医学の発展とともに機能性食品による遺伝子発現の変化にもっと注目が集まるだろうと坪田氏。食べ物の場合、局所的に効くのではなく、ジェネラルに効果を発揮し遺伝子に作用するため、なかなか研究が難しいが、食物を利用したアンチエイジングの研究とその実践は今後もますます発展するだろうとまとめた。

健康食品の安全性確保について
厚生労働省 医薬食品局 食品安全部 基準審査課 新開発食品保健対策室 健康食品安全対策専門官  松井 保喜 氏

消費者のためにもより一層の安全性が確保されなければならない

国民の健康に対する関心の高まりを背景に、数多くの健康食品が販売され利用されているが、これら健康食品が消費者それぞれの食生活や健康状況に応じた適切な選択をされるように、一定の基準規格や表示基準等を定めるなどの、行政的な取り組みは以前から行なわれている。

しかしながら、健康食品の人気の高まりは、これまで一般に口にされることのなかったものを原材料とするものや、錠剤、カプセルなどの医薬品に類似した特殊な形状なものなど、多種多様な健康食品の出回りに拍車をかけており、多くの健康被害や詐欺被害といったトラブルが後を絶たない現状がある。

いわゆる健康食品といっても、法令上の定義がないため、広く健康の保持増進に資する食品として利用、販売されるもの全般を指しており、消費者のためにもより一層の安全性が確保されなければならず、そのための行政の取り組みは極めて重要だと松井氏。

健康食品の製造までの段階においては、食経験のない食材の増加など原材料の安全性の確保が改めて問題となっており、製造される製品の品質の確保を図るためにも、製造工程の適切な管理も求められている。

さらに、消費者が適切な健康食品を選択するための商品表示方法や、情報提供・相談支援を受けられる体制も未だに十分な整備が整ってはいない。健康食品の摂取による健康被害が発生した場合でも、その被害が道外製品によるものか否かの因果関係の把握が用意ではなく、現段階でも健康被害情報の分析収集は進んでおらず、類似する事案の再発防止に役立つレベルとはいえないと松井氏は述べる。

これらの現状をふまえ、平成19年7月以降、計9回にわたって「健康食品の安全性確保に関する検討会」が開催された。とりわけ第三者認証の仕組みや消費者に対する普及啓発活動、また健康食品のアドバイザリースタッフの育成などが今後の方向性として位置づけられたが、薬事法の問題など、ほかにも関連する問題は多くあるため、健康食品の安全な市場を確立するためには今後より一層の努力が必要であるとまとめた。

第三者認証制度、業界自主規制案について
キリンホールディングス健康・機能性食品事業推進プロジェクト・アドバイザー  健康と食品懇話会相談役
太田明一 氏

科学的根拠に基づいたトクホ、世界に先駆けた制度

以前厚生労働省が開催した健康食品の安全性に関する検討会によって、健康食品の安全性を担保する仕組みとして第三者認証制度の導入が必要な方策としてあげられている。

業界では第三者認証制度を立ち上げるべく連携し、今年2010年4月に(財)日本健康・栄養食品協会が認証団体として第一号の指定を受けるに至ったが、2009年に安全性以外の健康食品の監督責任は消費者庁に移り、その後すぐに発生した特定保健用食品に関する安全性への懸念問題から、健康食品の表示に関する検討会等が引き続き開催された現状があると太田氏は解説する。

業界では、保健機能食品の枠の拡大や健康食品全体を包括する表示情報提供の仕組みの構築を要望している。そしてこれらを実現可能にするために、有効性の根拠、表示、情報提供、原材料の規格基準等に関する産業界の自主基準等の導入が話し合われている。

業界サイドとしては、消費者目線はもちろん必要不可欠であるが、健全な企業はよりよい商品を提供すべく大変な企業努力をしており、そういった企業が生き残り、より良い商品を提供し国民の健康に寄与することができれば、健康食品は今後我が国に適した産業になり得ると太田氏は語る。

少子高齢化のなかで、日本の優れた健康食品は輸出や海外生産ももちろん有望であり、これからも世界に先駆けた食の機能研究を実践し、また科学的根拠に基づいたトクホ制度を実現した国として、日本の考えを国際基準にする意気込みで、国際的な整合性をはかりながら、さらに国民の健康維持、向上に貢献するものでありたいとまとめた。

栄養/健康強調表示の国際動向とこれからの食品表示のあり方
特定非営利法人 国際生命科学研究機構
事務局長 浜野 弘昭 氏

国民のための、栄養・健康戦略として表示制度へ

2003年にWHOにより「食事、栄養と慢性疾患の予防」に関する報告書が発表された。この報告書を受ける形で、2004年WHOは慢性疾患の阻止に向けて、世界をあげて正しい食生活、身体的活動を推進するために「食事、運動と健康に関する世界戦略」を採択していると浜野氏は解説する。

この戦略では、その実現に向けて、各国、地域における包括的な戦略プログラムを推進するように求めており、同報告書の「国民及び個人レベルでの食事に関する推奨事項」でも@摂取エネルギーバランスと適正体重の達成、A脂質からのエネルギー摂取の制限、飽和脂肪酸から不飽和脂肪酸へ、トランス脂肪酸の排除、B果実、野菜、豆類、全穀粒、ナッツ類の摂取促進、C糖類摂取の制限および食塩摂取の制限を掲げていると浜野氏は説明。

コーデックスにおいても同戦略の実行、実現のための作業は食品表示部会と栄養・特殊用途食品部会が行なうものとし、現在コーデックス食品表示部会及び栄養・特殊用途食品部会において、この問題の作業部会が設置され、表示すべき栄養成分や、栄養表示の義務化に関わる問題、栄養表示の判りやすさに関する問題、指摘された食品に関する表示基準等の検討などについて取り組みが行なわれている。

こういった国際的な動向からしても、日本国内ではこれまで「取り締まるための表示基準」をどのように策定すればようかという流れがあったが、食品の機能性は否定できないものである以上、今後は「取り締まるための表示基準」から「国民のための、栄養/健康戦略として表示制度へ」という、食品表示に関わる国際的な潮流にも目を向けるべきではないかとまとめた。

健康食品の表示の現状と今後の動向(私見)
神奈川工科大学 教授 田中 平三 氏

健康食品のあり方、消費者団体は厳しい視線

昨年11月25日に発足した「健康食品の表示に関する討論会」に参加していた田中氏は、健康食品のありかたについて、特に消費者団体の視線に非常に厳しいものがあるとまず語った。まずそこには、それぞれの立場で健康食品に対する考えが大きく異なる現状があるという。

学識経験者は、効果があいまいな「トクホ」は廃止するべきだという。有効性に関する論文があっても公正だとはいえないと否定的である。日本医師会関係者は、健康食品による健康被害や虚偽、誇大広告を断罪する。もちろん保健機能食品以外のいわゆる健康食品には基本否定的であるという。

日本栄養士会関係者は、健康食品の原材料、有効成分、機能及危惧情報を消費者に適切に提示すべきだと主張。消費者関連団体関係者は、薬事法を厳格に適用せよ、健康食品の効能表示、広告は禁止すべき、食品表示法の制定をすべきという立場の人が多いと、これまで田中氏が参加して感じたことをまとめた。

とにかく消費者団体を中心に、提供側(業界)以外は健康食品に関してはとにかく否定的であり、表示の問題も含めて、以前から一向に進展しない部分が多すぎると指摘。もちろん今後は特定保健用食品の手続き、審査過程にはよりいっそうの透明化が求められると田中氏。

同時にインターネットを含む広告での虚偽、誇大表示の取り締まりなども重要であるし、業界の連携、自主規制だけでなく第三者認証制度も必要であるが、やはりあきらかに食品とはいえない錠剤やアンプルなどのサプリメントの類は、食品から切り離し、薬事法の問題とも独立させた第三のカテゴリーを作るのがベターなのではないかとまとめた。

パネルディスカッション

アドバイザーのレベル、薬との相互作用など活発な意見交換

第二部では会場からの質問を中心にパネルディスカッションが行なわれた。大きく話題になったのが「海外では「サプリメント」という第三のカテゴリーがあるので、日本でもその流れを考えるべきではないか」というものである。

また「消費者団体はどれくらい消費者の声を代弁できているのか、かなり偏りがあり、特殊なものではないか」、「アドバイザーのレベルが低いという意見がよく聞かれるが、それは本当なのか」、「第三認証制度も結局自主的に行なうとなれば、それは信用を得られるのか」、「消費者団体や医療関係者との溝を埋められる方法はないのか」、「薬との相互作用について、医療関係者も業界側ももっと学ばなければならない」など、活発な意見交換が行なわれた。


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