T細胞やNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化。てんかん発作や神経系疾患、不妊治療などに利用
冬の季節、落葉した大木の枝に、目立って青々とした毛玉のような塊を持つ樹々。この植物がヤドリギ(Viscum album L)で、地面に着生する植物と異なり、宿主の幹に根を張って、そこから養分や水分を吸収しています。
宿主は、リンゴ、ブナ、カエデ、松、ニレ、カバなどが代表的なもの。葉緑体を持ち光合成ができるため、半寄生植物といわれています。冬でも青々としているせいか、欧米ではクリスマスによく飾られます。
民間療法では古くから、薬用として使われてきました。古代ケルト族、古代ギリシャでは、様々な症状に効く万能薬の役割を果たしていたことが記されています。
16世紀には、てんかんの発作や様々な神経系疾患に利用されています。また、高血圧、頭痛、関節炎、不妊治療にも使用されていたと伝えられています。
医学文献に登場したのは1906年で、動物および人の血圧降下研究に使用されたのが最初とみられています。
ヤドリギのがんに対する有効性を調べる研究は、1920年代に入って始まりました。
ヤドリギ研究は主に、製品が手に入るヨーロッパ、アジアで行われています。Iscador、Eurixor、Helixor、Isorelなどが有名ブランドで、市販製品の成分構成は、宿主の種類によって違いがあります。タイプも、水溶液、アルコール溶液、また、発酵、発酵していないなど様々。
例えば、IscadorMは、リンゴを宿主としたヤドリギから製造したもので、IscadorPは松が宿主となっています。また、発酵製品であるHelixorは水溶液タイプ。HelxorAは宿主がトウヒ、HelixorMはリンゴといった具合です。
成分は主に、アルカロイド、ビスコトキシン、レクチンなど。アルカロイドは、がんの化学療法に使用され、ビスコトキシンは細胞死滅、免疫刺激作用を持つと考えられています。
レクチンに注目した研究も多く、細胞毒素および免疫システム調節作用が指摘されています。ヤドリギのエキスからレクチンを除去すると、免疫システム調整の働きが下がると報告している研究もあります。
現在、がんに対する有効性を調べる研究では、ヤドリギの生物学応答調整物質としての働きに関心が集まっています。
動物を使ってがん細胞増殖抑制を調べた研究では、相反する様々な結果が出ています。InscadorMを使った研究では、リンパ腫とエールリッヒ腹水がんの2種をマウスに植え付け、ヤドリギで治療したところ、対照グループと比べ、腫瘍増殖が抑えられ、マウスの寿命が延びたことが分かったといいます。
また、ラットなど300匹を使った研究では、白血病、がん肉腫、乳がん、エールリッヒ腹水がんの4種に対してIscadorMの有効性を調べています。この研究では、どの用量でも、生存率および腫瘍の増殖状況に何の変化も見られなかったといいます。
乳がん患者に対して、ヤドリギエキスまたは抽出物、レクチンML-Iを使った研究では、白血球細胞の増加と損傷DNAの修復が確認できたといいます。
がん患者(がんのタイプは特定されていない)8人にヤドリギのレクチンML-Iを与えたところ、血清中のサイトカイン・インターロイキン6および腫瘍壊死因子αの増加が見られたことが分かりました。
ヤドリギ治療を受けたがん患者のT細胞を調べた研究で、松およびりんごにそれぞれ寄生したヤドリギの2種を使った。これによると、リンゴに寄生したヤドリギエキスで、著しいT細胞活性があったといいます。