2020年8月21日(金)、「夏のWeb公開シンポジウム~健康食品新時代の幕開け 免疫への可能性」(三生医薬㈱主催)が開催された。この中から、西澤邦浩氏(日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ)による講演「食による新型コロナウイルス防御、免疫賦活の可能性~感染対策を中心に」を取り上げる。
ビタミンD、新型コロナで注目
COVID-19の広がりで「免疫」への関心が高まっている。その中で世界各国が注目しているのが「ビタミンD」。
ただ、日本では、消費者庁が新型コロナに関して一番最初に注意喚起をしたのが「ビタミンD」でもある。
また、国立健康栄養研究所もビタミンDについては「現時点ではインフルエンザなどに対して効果があるとする結果と、効果がないとする結果の両方が存在している。
普段の食事で十分に摂取できている人がさらに摂取しても効果はないという報告もある」と、どちらかといえば否定よりの見解を示す。
とはいえ、世界で見ると、新型コロナに対する治験が始まっている食品関連成分で最も多いのがビタミンDである。
他に、新型コロナウイルスに対する評価がはじまろうとしている食品成分として「レジスタントスターチ」「複合ビタミン・ミネラル」「ビタミンC.D.亜鉛」などがある、と西澤氏。
血中ビタミン濃度が低い地域、COVID-19の罹患率・死亡率が高い
では、なぜこれほどビタミンDに注目が集まるっているのか。
まずは、欧州20カ国で平均血中ビタミン濃度が低い地域でCOVID-19の罹患率・死亡率が高くなっている、という生態学的研究の仮説が提言されている。
さらに新型コロナウイルス重篤化までのプロセスが次のように解明されてきている。
新型コロナウイルスはアンジオテンシン変換酵素2を介して細胞に侵入する。
細胞に侵入した新型コロナウイルスはレニンアンジオテンシンシステム(RAS)の調整不全を引き起こし、肺の損傷を進め急性呼吸窮迫症候群(ARDS)にする。
しかしビタミンDにはRASのバランスをとり、肺の損傷を軽減する作用が確認されている。またビタミンDにはマクロファージを通し、抗菌ペプチドを作り、炎症性サイトカインを抑えたり、複製を防ぐ働きも確認されている。
つまり、ビタミンDは新型コロナウイルスの感染予防に何らかの役割を持っている可能性があるといえるのではないか、と西澤氏。
そもそもビタミンDの受容体は全身の細胞にあり、自然免疫と獲得免疫の双方に関わる重要なビタミンである。
さらにいえば、ビタミンDはビタミンに分類されているが、実はステロイド・ホルモンの仲間で、近年はビタミンDが腸を介して感染防御能を高める役割などがあることも解明されてきている。
新型コロナウイルスは腸でも増殖することが解明されてきていることから、このあたりの機能も見逃せない。
日本人はもっとビタミンDについての理解を
2020年の食事摂取基準の改定で唯一摂取目安量が大きく増加した栄養素がビタミンDである(成人男女1日5.5μg→8.5μg)。米国では推奨摂取量は1日「15μg」で、71歳以上は「20μg」とされている。
つまり、日本の摂取目安量の約2倍の量である。こうしたことから米国はサプリメントでは「ビタミンD」が一番売れている。日本人はビタミンDの摂取量などの理解が非常に遅れているのではないか、と西澤氏。
新型コロナウイルス対策としてだけでなく、そもそもビタミンDは骨の健康維持や免疫維持、生活習慣病予防、認知症の予防にも欠かせない栄養素というのが世界の常識である。
この他、食物繊維を多く含む「複合炭水化物・全粒穀物」の摂取で感染症リスクが減るというデータや鼻腔で感染を防ぐ常在乳酸菌「L.sakei AMBR2」といった新しいプロバイオの可能性などもある。
米国もそうだが、日本でもサプリメントの購入に影響を与えるのは医師や薬剤師、栄養士などのヘルスケア専門家である。そうした専門家が最新の栄養学や研究成果を知り、適切な情報発信を行うことが大切ではないか、と西澤氏はまとめた。