2020年9月30日(水)、日経SDGsフォーラム【WEB配信】「トクホで考える健康新時代~トクホ公正競争規約がスタート~」(主催:日本経済新聞社、共催:消費者庁)が開催された。パネルディスカッションの中から、下田智久氏(特定保健用食品公正取協議会 会長)の「公正競争規約策定で変わるトクホの未来」を取り上げる。
健康食品では初導入の「公正競争規約」
健康食品では初の導入である「公正競争規約」。ここまでには長い道のりがあった。今回、導入に至った背景や経緯を下田氏が解説した。
すでに8、9年前、高齢化が進み消費者の約6割が健康食品を利用していた。当時、健康食品市場規模は2兆円超、右肩上がりだった。しかし「健康食品は信頼できない」という声が、有識者だけでなく消費者からも挙がっていた。
当時、特定保健用食品(トクホ)制度や日健・栄協認定のJHFA制度やマークはあったが、それらの知名度は低く、制度として不十分であるとの認識から、健康食品の表示に関する公正競争規約の導入の検討を始めた。
しかし、「健康食品」の定義が難しいこと、業界の統一化が図られていなかった。そのため断念したという経緯があった。
2013年、健康食品業界に規制緩和の波
その後、食品の機能性評価の検討が継続的に行われ、平成23年には消費者庁の委託事業として「食品の機能性評価モデル事業」が進められた。
この時、調査の対象となったのは11成分。日健・栄協は受託事業者として「制度調査専門チーム」と「機能性評価専門チーム」を作り、国内外のさまざまな制度の実態調査や学術論文の調査などを行った。
この際に「機能性評価基準」というものが概ね定まり「機能性の科学的根拠情報の評価基準」「機能性に関する科学的根拠を評価するための学術情報の収集と選別基準」「設定した評価基準により選別した学術情報の評価を実施」することなど土台が整った。
2013年には規制改革会議がスタートし、健康食品業界にも規制緩和の波が訪れた。その際に、健康食品には「トクホ(市場規模5200億円)以外に、栄養機能食品やその他健康食品があり、1兆8000億円と市場規模が大きい」ことなどを政府に説明した。
そして「新たな機能性表示食品制度の要望」を嘆願し、平成27年4月に機能性表示食品制度が誕生した。
機能性関与成分の取り扱いがまだまだ少ない
機能性表示食品制度はスタートから比較的順調ではあったが、届出受理までの時間がかかりすぎること、届出の不備や差し戻しの理由が分かりにくいこと、生鮮食品も可能であるのに増えないことなど幾つか問題があった。
これらについては第三者機関による調査機関やサポート機関が認められ少しずつ改善されていった。
一方、新たな課題としては表示を認める機能性関与成分の範囲の取り扱いがまだまだ少なく、国民の健康増進に寄与する機能性成分や日本独特の機能性素材を取りこぼしている可能性があった。
他にもトクホにはある適正広告自主基準がないことなども問題視されていた。
しかしながら、広告や表示に関しては機能性表示制度とトクホにはほとんど差がなく、トクホと比較すると機能性表示の方が申請から許可まで明らかにスムーズで参入しやすい。そのためトクホではなく機能性表示食品制度参入への企業が増えていった。
実際、2019年は機能性表示食品の届出許可が882件であったが、トクホは22件。今年度トクホはコロナの影響もあるが1桁台が予測されている。市場もやがて機能性表示食品がトクホを追い越す可能性が高いのではないかという声が多い。
トクホ活性化へ、公正競争規約を導入
とはいえ、トクホの制度は世界に類を見ない優れた制度であることは間違いない。国民の健康の維持増進のためにも制度を廃れさせてはいけないと業界全体として考えは一致している。ではどのようにすればトクホが活性化するか。
その取り組みの1つが今回の「公正競争規約の導入」であった。これによりトクホの信頼性がさらに向上することが狙いだ。
一度は断念した「公正競争規約の導入」であったがトクホ取得企業の74%は日健・栄協に加盟している。
まとまった業界に成長していたことや、過去十年以上、広告に関する自主基準の作成や審査会の運用などの実績があったこと、そして範囲をトクホに絞ったことが「公正競争規約の導入実現」をスムーズにした。
また、トクホ活性のためにもう一つ検討されていることが「疾病リスク低減表示の拡大」。これは令和元年度「疾病リスクの低減に関する表示に関わる調査事業」として実際に動いている。
非常に画期的なマーク
具体的には米国では17成分、EUでは14成分が「疾病リスク低減成分」として認められている。これに対し、日本は「カルシウムと骨粗鬆症」「葉酸と神経管閉鎖障害」の2成分のみである。
長寿国日本を支える健康に良い食品(お茶、海藻、魚油、大豆タンパク質など)が疾病リスク低減トクホの成分の候補として検討されている。
「公正競争規約」により誕生したトクホ協議会の事業のうち、官公庁と連携することや新たに誕生した公正マークを普及することは特に重要と考えている。
これまでは一律トクホマークのみであったが、新しいマークは保健用途の領域も表記可能となっており、非常に画期的なマークとなっている。
現在は150社が加盟しているが、会員増の努力により安定的な運営を続けることでトクホを今一度盛り上げていきたい。
また、機能性表示食品への取り組み、具体的には「自主的適正審査の実施による実績作り」「消費者庁及び、公正取引委員会との連携強化」「会員組織作り」などにも力を入れていきたいと話した。