2020年11月29日(日)、web配信により日本食育学会秋季シンポジウム「食育のピンチをチャンスに~みんなでつなげる食のレガシー」が開催された。この中から勝野 美江氏(内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局 企画・推進統括官)の講演「日本の食文化発信の取り組みについて~東京大会を契機とした食のレガシー」を取り上げる。
東京オリンピック、開催を前提に準備
新型コロナウィルスの感染拡大が収まらない状況の中、延期となっている2020年度東京オリンピック・パラリンピック。現時点では2021年7月23日(金)~8月8日(日)に開催予定となっている。
これについて、本当に開催できるのか、不安の声が多方面から寄せられている。
しかしながら勝野氏を含め、組織委員会で仕事を進めるチーム全員は、開催を前提とし、新型コロナウィルスがどのような状況になったとしても東京オリンピックが安心して開催できるよう、日々準備を進めているという。
またその一環として先日国会で祝日法の改正も行われた。
オリンピック・パラリンピックでの飲食提供については、2012年のロンドン大会を参考にどれくらい必要かなどの計算も行われている、と勝野氏。
例えば、大会全体では約1,500万食以上を提供、選手村では約200万食の提供を見込んでいる。メニューについては選手への栄養価だけでなく、安全面や衛生面の配慮も行っているという。
「持続可能な食材調達基準」が設定
主要言語でのアレルギー表示や成分表示、開催国の伝統料理に限らず西欧料理・アジア料理・アフリカ料理等の提供や、様々な宗教的食習慣への対応なども決められている。また、ドーピングコントロールも十分に行う。
かつての東京オリンピックでは冷凍食品が国内で普及するきっかけとなった。今回は「持続可能な食材調達基準」が食事だけでなく全ての物品サービスに設けられている。
この基準はオリンピック・パラリンピック閉会後も、国民の食生活における新たなレガシーとして継続されていくことを願っている、と勝野氏。
同基準は、以下の3つを満たした食材が使用条件となっている。
1.食材の安全を確保
2.周辺環境や生態系との調和のとれた農業生産活動を確保
3.作業者の労働安全を確保
つまり「食べる人、自然環境、作る人に優しい」が証明されている食材であるということ。
この基準を満たしているかは基本的にASIAGAP、GLOBALGAP、そして今回組織委員会が新たに認めたJGAPという認証を取得しているかどうかで証明されるという。
日本の食文化の良さを発信
また、農産物・畜産物・水産物(加工・養殖それぞれ)全てに細かい基準が定められている。
例えば、国産を優先的に選択することや、アニマルウエルフェアといって食材となる動物への配慮などもスキームの中に組み込まれているという。
今回の大会食には「日本の食文化の良さをあらためて発信する」という基本戦略もある。
また、47都道府県全ての食材や食文化・伝統食を披露・提供する場を設ける。被災地の食材をPRする場も作り、復興した姿を見てもらうことなども計画している。
特に、福島県は震災による風評被害が甚大であったが、現在は「GAP取得日本一」を宣言し、県内の農業高校は全てGAP認証を取得、オリンピック大会への食材提供を意識し「持続可能な食材作り」にどこよりも熱心に取り組んでいる。
また、コロナ対策も求められ、座席数の削減や、予定していた選手村でのクローク廃止、混雑状況のリアルタイム速報のスキーム、飛沫対策なども行なっている。
食材の「持続可能性」意識の高まり
こうした準備を進める中で、食材の「持続可能性」についての意識も高まってきている。
オリンピックでの食事提供をイメージしながら各都道府県庁の食堂や、ANA、パナソニック、東京海上、大日本印刷といった企業の社員食堂でも「持続可能性」に配慮して生産された食材を活用したメニュー提供の取り組みやイベントなどが開催されている。
またホストタウンになっている自治体でも「持続可能性」を意識した食材や大会での食事を意識したおもてなしを取り入れながら各国の選手や関係者との交流を進めている。
オリンピック大会は開催年だけのイベントではない。準備から開催後の期間も含め、特に食事提供においては日本の食文化をより磨き、そのレベルの高さや素晴らしさをPRできる機会となっている。
大会時だけでなく、この経験を今後もずっと生かしていけるように、特に「持続可能性に配慮した食料」ということを一人ひとりが意識していけると、安全で美味しく健康的とされる日本食のレベルがまた一つ持ち上がり、さらに世界から愛されるようになるのではないか、と話した。