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2021.3.17睡眠、脳機能と健康への影響~ウェルネスフード推進協会セミナー

2021年3月17日(水)、web配信にてウェルネスフード推進協会セミナー「睡眠の質とメンタルパフォーマンスの関係性、対応する食品開発のトレンド」が開催された。この中から裏出良博氏(第一薬科大学薬学部教授 東京大学アイソトープ総合センター特任研究員)の講演「睡眠と脳機能について」を取り上げる。

睡眠を客観的に測定する


睡眠の研究で難しいのは、寝ている間、本人には明確な自覚や意識がないことである、と裏出氏。人は意識が明確でない時のことを詳しく思い出し正確に語ることはできない。

そのため睡眠を客観的に測定する方法が必要と考えられるようになり、今から100年ほど前に頭蓋骨の表面に電圧をかけて脳波を測定する方法が編み出されたという。

現在、人の脳波は睡眠時と覚醒時では明らかに異なることがわかっている。

覚醒時はベータ波だが、これが「脳の休息や熟睡感を与えてくれるノンレム睡眠」になるとシータ波、睡眠紡錘波、デルタ波、さらに深いデルタ波とノンレム睡眠にも4段階あり、「体の休息・夢見の最中のレム睡眠」ではシータ波といったように脳波は変化する。

ちなみにレム睡眠(rapid eye movement sleep, REM sleep)は米国シカゴ大学のユージン・アセリンスキーとナサニエル・クレイトマンという二人の研究によって1953年に発見されたという。

レム睡眠、まだ知られていない非常に重要な役割

レム睡眠の最中は急速な眼球運動を伴い、夢を見ていることが多い。健康な成人の睡眠であれば、就寝直後から60分程度かけて段階的にノンレム睡眠を深めていき、徐々にレム睡眠に変わり、またノンレム睡眠とレム睡眠が交互に90分~110分のセットで4~5回繰り返えされる。

レム睡眠中、例えば空を飛ぶ夢を見ている時は脳の視覚野が活動している。また、論争するような夢を見ている時は言語野が活動し、明晰な夢を見ているときは前頭前野も活動している。

夢によって活動する脳が違っているということが研究によって解明されている。

また、レム睡眠を除去すると、翌日以降の睡眠でレム睡眠が増えることなどもわかっている。このように、レム睡眠にはまだ知られていない非常に重要な役割がある可能性がある。

レム・ノンレムに関わらず、睡眠が私たちの健康にどれくらい重要かは、睡眠不足による弊害を考察すれば一目瞭然である。

睡眠時の脳の作業は主に3つ

睡眠不足による弊害の代表的なものに「判断力の低下」があり、これにより仕事での作業ミスが増える。また認知機能が低下するために健忘症や物忘れも多くなる。

ストレスが蓄積することで鬱のような精神的な疾患の原因になり、免疫力が低下することで感染症のリスクが高まる。さらに近年は生活習慣病(糖尿病や肥満、高血圧症)や認知症の原因にもなることもわかってきている。

睡眠時に脳が行なっている作業は「1、記憶の消去と定着」「2、成長ホルモンの分泌」「3、老廃物の排泄」の主に3つ、と裏出氏。3つの睡眠機能のうち成長ホルモンの分泌は健康維持に特に欠かせない。

私たちの成長ホルモンは睡眠時に最も多く分泌され、徹夜をした場合は激減することがわかっている。

成長ホルモンにはさまざまなメリットがあり、60歳以上の高齢者であっても成長ホルモンを0.03mg6ヶ月投与すると、脂肪量が大幅に減少し、筋肉量・骨密度・コラーゲン量は有意に増加することが臨床試験で確認されている。

睡眠中、脳の老廃物の排泄が亢進


また2013年頃からわかってきていることが、睡眠による「3、老廃物の排泄」で、睡眠中に脳脊髄液の流量が著しく増加し、それに伴い認知症に関与することで知られるアミロイドβなどの脳の老廃物の排泄が亢進することが確認されている。

近年は睡眠に問題を抱える人が増えており、睡眠改善作用を持つ天然物質やそれらを利用したサプリメントなどにも注目が集まっている。

例えばバーベナに含まれるハスタトシド、しじみに含まれるオルニチン、サフランに含まれるクロシン、朴の木(ほおのき)に含まれるホノキオールなどは睡眠作用について有用であることが確認されている。

ここ数年の機能性表示食品では「ぐっすり感」や「目覚め」をサポートする成分としてグリシン・亜鉛酵母・清酒酵母などに人気が集まっている。

オクタコサノール、ストレス性の睡眠改善

サプリメントの販売に対して医薬品レベルの厳しい審査があるとされる韓国では「カジメポリフェノール」が人気になっている。

カジメとは済州島付近の海洋で取れる1メートルくらいの海藻で、このポリフェノールを摂取することで睡眠時にGABA受容体を活性化することで睡眠の質を高めることが臨床報告されている。

インドのアーユルヴェーダでは「アシュワガンダ」が抗酸化作用や強壮作用、抗ストレス作用で有名だが、この植物に含まれる「トリエチレングリコールにも睡眠誘発作用があることが確認されている。

また、サトウキビや米糠、蜜蝋などに含まれる長鎖アルコールであるオクタコサノールは、運動機能の改善などが確認されているが、ストレス性の睡眠改善効果もある。

これらの機能性成分の有効性の確認や、睡眠中に特異的に起きる脳機能の確認、それを健康維持に役立てるために、ウエアラブル脳波系の開発も進んでいる。

ウエアラブル機器やサプリメントについては実用化されていないものもあるため、今後の研究と実用化、有効利用が期待されるとまとめた。

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