2021年9月2日(木)、Web配信にて「東京フードテクノロジーウィーク2021セミナー」が開催された。この中から東さやか氏(エヌピーディー・ジャパン㈱クライアントデベロップメント部アソシエイトディレクター)の講演「植物性ブロテインの海外動向と、日本における浸透について」を取り上げる。
市場調査、世界19各国で事業展開
NPDグループは米国に本社を置く市場調査会社で、設立は1966年、現在世界19各国で事業展開しており、世界各国で1600人以上の従業員を擁している
POSデータ、レシートデータ、消費者データを主に取り扱い、年間1200万件以上の消費者調査を実施している。
国内の各種メディアで取り上げられる「中食・外食関連のデータ」の中にはエヌピーディージャパンによるものが多い。
本記事で取り上げる数字やデータもすべてNPDグループのCRESTをはじめとした消費者調査によるものである。
代替肉・植物ミルクのアメリカの動向
近年さまざま場面で言及されることが多い「代替肉と植物ミルクなどの植物性プロテイン」について、まず米国ではどのような盛り上がりを見せているのか。
NPD社の独自調査によると、米国では消費者のうち週1回以上植物性プロテインを利用しているのは約17%、この利用者のうち約89%は非ベジタリアン(非ビーガン)で、一般の人の17%が週1回程度のペースで植物性プロテインを利用している。
1人当たりの家庭での利用回数は、植物性ミルクは年21回程度の利用で乳製品の6%、代替肉については年間4回で動物肉の1.4%。代替ミルクの方がやや上回る使用頻度になっているという。
全体的に増加傾向
どれくらい消費が伸びているかについて、出荷量から調査したデータ(2019年4月と2020年4月で比較)によると、植物由来タンパク質が+16%、植物ベースの牛肉類似体が+82%、鶏肉植物ベースの類似体が+25%、従来品植物ベースのタンパク質(穀物、ナッツ、野菜、豆腐、テンペなど)が+78%、と全体的に増加傾向にある。
米国では植物性タンパク質は「定番のオプション」の1つとして定着している。代替ミルクについても出荷量で見るとアーモンドミルクが+31%、ソイミルクが-3%、ココナッツミルクが+14%、オーツミルクが+2094%と、特にオーツミルクがコーヒーショップで豆乳に代わる定番になっている。
「心と体の健康のため」が2割以上
植物ベース肉の消費場所については家庭では22%、飲食店で78%と、飲食店での消費が多いが、植物ベースミルクについては93%が家庭で消費されており、植物ベースミルクは使いやすさからも家庭での浸透が高い。
米国で消費者は「一体何のために、どんなモチベーションで植物性プロテインを食べているのか」。この調査結果では「心と体の健康のため」が2割を超え一番多い回答になっている。
代替肉は「環境やサスティナビリティの観点から」選ぶ人も多いと予測されるが、現状では5%程度で、多くの人は健康のために選んでいる。
代替肉を利用しているコア層は23~54歳の世代が特に多いが、代替ミルクはシニア層(74歳以上)の利用が多く、23~38歳も増えている。
現状はまだ「お試し感覚」
中国では外食・中食における全プロテインの中で植物性が占める割合は1.5%、ただしリテンションレート(2回以上利用している割合)は68%と高めである。
利用者は30代のグループ客が主で、店を選んだ理由としては「立地」や「価格」という理由が多いが、代替肉を食べた店については「お目当ての料理があったから、バリエーションがあるから」と答える人が多く、代替肉を食べたくてそのお店を選んでいる人が多いことがわかる。
代替肉や植物性ミルクについて「環境に優しいと思う」と回答している人は約63%、「一過性のブームではない」と思っている人が約28%だというが、現状はまだ「お試し感覚」である。
30代のグループ層が植物性プロテインを試すきっかけは中国版YouTube「we-media」が大きな役割を果たしていて、プラントベース由来の食品を食べた人の約48%の人が「we-media」から情報を取得していると回答している。
代替肉・植物ミルク、日本での浸透度は
日本でも植物性プロテインの利用が主に外食の場面で少しずつ増加傾向にある。とはいえ外食・中食での代替肉は1%、代替ミルクは3%。(2021年1~6月)とまだまだ市場としては小さい。
代替肉・代替ミルクともに利用者は15~29歳の若い層の男性に多い。これは主にコンビニや外食での代替肉・代替ミルク利用機会が多い。
アメリカでも若い層の方が環境やサスティナビリティに強い関心を持っているため、日本でもこの層をメインターゲットにするのは商機になる可能性がある。
とはいえ、日本では代替肉はまだ「お試し」の段階で、目新しいものとして流行敏感層がトライしているレベルである。今後植物性プロテインが市場に定着するためにはより具体的な「解決策」、つまり消費者にとっての「価値の提供」が不可欠だ。
日本で植物性ブロテインが普及するためには
日本において植物性プロテインがすでに定番オプションとなっている米国レベルで普及するには、「体験」「機能」「解決策」の3つの提供が不可欠といえる。
体験としては「同等のおいしさ、犠牲を伴わず、代替となる」必要がある。健康のために味を犠牲にするのではなく「我慢しなくてもお肉と同じように美味しく、それでいて健康」という体験が必要。
機能についても「従来の卵や牛乳、チーズなどと同様の機能」を提供する必要があり、それにプラスして「食感、歯応え、ジューシーさなど本来のものと限りなく近いものを消費者が期待」していることを意識しなければならない。
「解決策」については「なぜ取り入れる必要があるのか」「どのように生活に取り入れるべきか」「どんなメリットがあるのか」「どんなシーンで使うのか」といった、「消費者にとっての価値」、つまり「消費者にとってのハッピー」を丁寧に訴求する、コミュニケーションが重要であろう、と東氏。
消費者が感じる価値を訴求することが最重要
少し前に「ポテサラ論争」が話題になったが、惣菜が提供しているのは「時間」である、と訴求することで消費者はそこに「妥協」や「手抜き」ではなく「価値」を感じられるようになる。
「ノンアル市場」も「微アル市場」もゼロからのスタートであったが、「なぜ取り入れる必要があるのか」「どのように生活に取り入れるべきか」といったコミュニケーションを地道に行うことで市場を開拓し確立してきている。
中国では「we-media」が重要な役割を果たしているが、日本でもSNSなどのツールや人物を使うことで「共感」を喚起し、まずはトライアルを促すことが大事だ。提供すべき価値としてはやはり「ヘルシー」が最適であろう。
いずれにせよ植物性プロテインにおける消費者が感じる価値を訴求することが最重要だとまとめた。