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2022.2.24食品開発、腸や免疫との関係を視野に~アイメックRDオンラインセミナー

2022年2月24日(木)、web配信によりアイメックRDセミナーが開催された。この中から、内藤裕二氏(京都府立医科大学大学院 生体免疫栄養学講座)の講演「食品の免疫研究と網羅的解析」を取り上げる。

これからは「Well-Being」


これからの食品研究にはいったい何が求められているのか。一言でいえば「食によってWell-Beingを達成することだ」と内藤氏は話す。

Well-Beingとは身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、WHOでも提唱している概念である。

これまで人類は「Happiness」、つまり単一的で持続しない瞬間的な幸せを求めてきたが、これからは「Well-Being」、つまり持続可能で多面的な幸せを求めるフェーズに突入している。

世界166ヵ国を対象としたWell-Being調査(世界幸福度ランキング)では、日本は60位あたりをうろうろしており、これだけ豊かな社会生活が営めているのにWell-Being度は低いことが世界的にも問題視されている。

2050年、世界の人口は98億人に

先進国に住む私たち日本人はこれまでの瞬間的幸福や快楽を追求するあり方を先陣を切って変えていかなければならないことはSDGsの観点からも指摘されている。

日本は少子化が深刻化しているが世界のマーケットは逆で、2050年には世界の人口は98億人にまで増加することが予測されている(現在78億人)。今の先進諸国のような食生活を今後30年以上続けることはもはや不可能とされている。

もし地球に住むすべての人がアメリカ人のような生活を求めたら地球は5つなければリソースがないとされるほどだ。

地球は1つしかなく、私たち人間は人間だけの健康や幸せを考えるのではなく、地球の健康があるからこそ人間の健康が実現するという考え方、つまり、ONE HEALTHの考え方を食品研究の根底に据えなければならない、と内藤氏。

健康な高齢者、食物繊維の摂取量が多い

そもそも栄養学も変化し続けている。かつては「栄養欠乏をどう補うべきか」という時代があった。

しかし、近年は「栄養過多時代に何をいつどのように補うか」という時代に変わり、そして今は「人生100年時代の健康栄養学」を考えるようになっている。

今や食品栄養学は「医学」よりも重要だと考えられるようになりつつある。それは食が免疫を動かす大きな要因になっているからだ、と内藤氏。

2017年~2020年に行われた京丹後長寿コホート研究では、京丹後市に突出して多い百寿者の免疫力の高さにも注目が集まった。

この地域の健康な高齢者は普段の食生活から食物繊維の摂取量が多く、またこの食物繊維から酢酸を作る腸内細菌を多く持つことが解明された。

そもそも日本人の腸内細菌は他の人種と比較しても酢酸産生菌の占有率が高いという特徴があるが、京丹後市の健康な高齢者はその傾向が特に強かったことが解明され、やはり日頃の食生活が健康維持に重要なことは間違いなさそうだ。

最新の腸内細菌研究では酢酸には腸管バリアの機能維持に作用することや、腸管の創傷治癒促進作用があること、IGA抗体分泌刺激やウイルス感染症抑制にも働いていることがわかってきていて注目されている。

「小腸」研究に注目が集まる


またこのコホート研究も含め、京都府立医科大学医学倫理審査委員会では16件の腸内細菌叢研究をデータベース化し統合的に解析したことで、日本人の腸内フローラは大きく5つのエンテロタイプに分類できることを提示。

これまで薬も健康食品ももちろん食品にも「効果がある人とない人」「個人差」が大きな問題として存在していた。

しかし、5つのエンテロタイプを検証することでエンテロタイプごとに罹りやすい疾患や効果が出やすい乳酸菌などもわかるようになってきた。

現在は、個人の健康管理にも役立つよう「エンテロタイプ検査サービス」のベンチャーが立ち上がったところだ。

これまではブラックボックスとされてきた「小腸」にも注目が集まりはじめている。大腸や腸内細菌叢の研究はこの10年で大きく進歩したが、小腸についての研究は進んでいない。

しかし最新の小腸研究では、例えば脂肪の吸収には小腸の腸内細菌が重要であることや小腸のα-ディフェンシンという腸内ペプチドは加齢によって減少するが、このペプチドは腸内細菌代謝物や食品成分の影響を受けていることなどがわかってきた。

そのため、食品開発において、小腸をターゲットにしたものはほとんどないため是非注目してほしいという。

老化のスピード、明らかな個体差

さらに100年時代のWell-Beingを考えるにあたり年齢の定義も考え直す必要に迫られている。

これまでは「暦年齢」でのみ判断・分類されることが多かったが、生物学的年齢には個人差があることがわかってきている。

老化のスピードには明らかな個体差があり、早い人は1年間で2歳以上生物学的に加齢が進むのに対し、遅い人は1年間で0.4歳程度しか加齢が進まないほどの開きがある。

この生物学的年齢については、腸内細菌叢やその代謝物から「腸年齢G-age(gut clock of aging)」を測定することで、ある程度の生物学的年齢を推計することができる、と内藤氏。

G-ageを進める要因は「腸内細菌の多様性の低下」「酪酸酸性菌の減少」「不健康な食事」「抗生物質や胃酸分泌抑制剤の使用」「人工甘味料」「環境汚染」などである。

逆に腸年齢の老化を抑制する要因は「運動」「腸内細菌叢の多様化」「ポリアミン、短鎖脂肪酸、胆汁酸、アミノ酸などの腸内細菌代謝物」などである。

いわゆる腸活の重要性はこれまでの研究でも知られているが、あえて「腸年齢」という視点から腸の重要性や免疫との関係を提案することで100年時代のWell-Beingに貢献できるのではないかと話した。

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