2022年5月18日(水)~20日(金)、東京ビッグサイトにて「ifia JAPAN 2022」が開催された。同展示会セミナーより、赤星良一氏(RDBコンサルティング代表)の講演「海外進出のハードル~日本と異なる食の安全性ルールと定義」を取り上げる。
コーデックス、国際社会で共通の食品規格
日本の食品を海外展開したいと考える企業が増えているが、そのためにはコーデックス規格を理解しておく必要がある。しかしながら、近年はコーデックス規格を理解しているだけではうまくいかない事例が多く報告されている。
コーデックス規格があるにも関わらず、なぜ輸出先・各国ごとに細かなルールが存在しているのか、その背景についても考えてほしい、と赤星氏。
コーデックス規格とは1962年に各国での自由貿易を実現し、食の安全を担保するためにWHO(世界保健機関)とFAO(国際連合食糧農業機関)が共同で作ったルールである。
日本を含む世界187カ国とEUが加盟し、国際社会で共通の食品規格として世界的に認められている。
しかしこのルールとは別に、各国で細かなルールが定められており、特に「食品添加物」に関するルールは自国の食品を他国に輸出する際にハードルになることが多い。
州ごとに食品ルールが異なるケースも
ほとんどの国において、国ごとに使用可能な添加物や使用可能量が決められているため、輸出を検討した際は輸出国の食品添加物などを事前に調べる必要がある。
ただ、それは容易なことではない。日本の場合、食品添加物についてはリスト化されており厚生労働省が一元管理している。
そのため、それを見ればすぐにわかるが、このように整然と管理されているのは世界的に見ても珍しい。
例えばインドには省庁が50以上あるが、食品に関係しているところだけに絞っても10以上の省庁が関わっている。
それぞれの省庁でバラバラに管理されているため全部をチェックしなければならない。あるいはインドもそうだが国によっては州ごとに食品ルールが異なるケースも少なくない。
コーデックス以外に各国の食品ルール
多くの国が、食品添加物をはじめとした食品関連のルールや基準について整理整頓ができていない状況で、他国に商品を輸入したい場合は、現状は現地のコンサルタントを使うケースがほとんどである。
特に、輸出国で食経験がないものを展開したい場合は、安全性を示すデータを届け出る仕組みも各国ごとに異なるため、多額の費用がかかる。
そもそもなぜ、コーデックス以外に各国の食品ルールがあるのか。表向きには「食文化の違い、宗教、人種間の遺伝子の違いなどがある」とされているが、根底には「食の世界戦略と自国の農業(産業)保護のため」がある。
もちろん表向きの「食文化の違い、宗教、人種間の遺伝子の違い」は大きい。実際、人種間によってかなり遺伝的体質は異なる。
例えば、欧米人はアジア人より糖尿病になりにくい体質(インスリンをたくさん出せる体質)だが、日本人などのモンゴロイドはインシュリンが効きにくい体質で、痩せていても2型糖尿病になる人が多い。
また、欧米人はアルコールが強い傾向にあるが、日本人や南中国人の40%くらいはアルコールをまったく受け付けない。
「中国毒入り餃子事件」がきっかけに
他にも、食の安全や食品偽装を防ぐために自国ルールは強化されていく。特に2008年に起こった「中国毒入り餃子事件」は各国の独自ルールが強化されるきっかけになった。
すでに中国から大量の加工食品や冷凍食品を輸入していた米国は、この事件をきっかけに、2009年から米国内だけでなく海外でも関係する食品工場の視察を開始し、2011年には食品安全強化法が成立した。
農務省管轄の食肉類を除く全ての食品が対象に、輸出される食品については製造や加工書など詳細な登録書を提出し、資料を提出した翌年くらいにはFDAの視察と調査(3日)を経て、必要があれば改善指導や評価が行われる仕組みにもなっている。
背景に「自国の産業を守る」ため
近年は世界中に食品が流通するようになっている。そのため、米国に限らず、特に食経験のない食材やリスクが高いとみなされる食品添加物などに対しては、アレルギーに対する反応や毒性データ、体内での吸収、代謝、排泄に関するデータなども輸出先の国のルールに沿って届け出る必要もある。
欧米でもヌーベルフード(新規食品)のルールが強化されていて、1997年以前に十分な食経験がなかったものについては特に厳しい。
ただし、これは「食の安全面の配慮」は表向きの見せ方であり、やはり背景には「自国の産業を守る」ことがあった。
1990年頃にアメリカで遺伝子組み換えの植物(種子)から作られた原料が、農薬がヨーロッパに大量に流入するタイミングでヨーロッパが自国を守るために作った仕組みが多い。
日本酒のほとんどが海外に輸出されていない
ルールが厳格化することで安全性が担保されるのであればそれは必ずしも悪いことではないが、一度ルールができてしまうと改正はなかなか厳しいという現実があるためその辺りも配慮しなければならない。
ヨーロッパでは日本食ブームが起こっており、日本酒も各国で人気、日本からの輸出量も増え、ますます世界に展開したいと考える酒蔵や酒造メーカーは多い。
しかし、欧米ではワイン(アルコール度数12度程度)をベースに作ったルールがあり「アルコール度数15度以上で酒税が高くなる」「エタノールが入っているアルコールは酒税が高くなる」(アルコール度数15度未満、エタノール不使用のアルコールに比べ約70倍酒税が変わる)。
そのため、日本酒の中でも本醸造・吟醸・大吟醸のほとんどはエタノールが使われているため海外には輸出ができない。
世界で楽しまれている日本酒は「純米酒」に留まってしまっている。また日本酒の中にはアルコール度数15度を超えるものは少なくないが、それらも酒税が高くなるのでほとんどが輸出されていない。
積極的にルール作りに関与
各国の独自ルールはアップデートされていくであろうし、すでにコーデックスでも大豆や小麦をベースにした擬似ミート(プラントベースミート)・IPS細胞の培養肉・昆虫食・藻類・海藻・3Dプリンターフードなどについてはガイドラインを策定すると表明している。
日本では当たり前に食べている海藻なども、ルール次第で欧米に輸出できなくなる可能性があるが、まさに今、ルールが作られようとしているタイミングで、日本人も声をあげて積極的にルール策定に関与する必要があるのではないか、と赤星氏。
誰かが法律を作って私たちがそれを守る立場、という姿勢ではなく、自分たちで自分たちが使いやすいルールを作っていこうという気持ちが必要である。
日本の優れた食品が世界市場で戦えるように、自分たちも積極的にルール作りに関与してビジネス環境を整える、という姿勢が必要ではないか、とまとめた。