2022年7月22日(水)~29日(金)、東京ビッグサイトにて「ウエルネスライフジャパン2022」が開催された。同展示会セミナーより、不二製油グループ本社㈱の講演「いま注目のプラントベースフード~持続可能な食生活へのパラダイムシフト」を取り上げる。
食糧難の解決が目下の課題
1950年に創業された不二製油株式会社。現在は世界14カ国で事業展開しているが、不二製油グループとしても世界的トレンドである「プラントベース」に力を入れはじめているという。
そもそも製油業なので業務用チョコレートや乳化・発酵素材などを手がけてきたが、大豆については大豆油ではなく大豆加工食品事業を手がけてきたというのが特徴だという。
不二製油が大豆加工食品を創業当初から手がけてきたのは、創業者の先見性によるもので、現在もパーム、カカオ、大豆が不二製油グループの3大原料だが、これらをよりサステナブルに輸入することなどが目下の課題だと話す。
というのも世界の人口はこの100年で急激に増えており、食糧難が目下の課題であるためだ。
世界の人口、2050年には97億人超え
世界の人口は2011年に70億人を突破したが、今年11月には90億人を突破、2050年には97億人を超えることが予測さえている。
急激な人口増で食糧不足も深刻化。にもかかわらず、森林伐採などによる環境破壊は限界に達し、農地を増やすことも現実的ではない。
実際に、温暖化は深刻の一途を辿り、ヨーロッパやインドでは40度を超える日も増えている。
温暖化の原因は、森林伐採だけでなく、温室効果ガスによる部分も大きい。しかし、温室効果ガスは車・航空などの運輸部門によるものは全体の25%に過ぎない。
農林畜産業から25%で、このうち畜産が60%、さらに畜産の中の2/3が牛(特にゲップ)によるものである。
温室効果ガスを減らすためには農林畜産業、特に食肉について見直すことは急務となる。
世界で「タンパク質クライシス」
すでに世界では「タンパク質クライシス」と呼ばれ、2050年に深刻化すると考えられている。
そこでEat_lancet委員会は「地球にも人にも健康的な食事のあり方、Planetary Health Diet」というガイドラインを策定。
赤身肉を食事から減らし、タンパク質はプラントベース由来をメインに変えること、食事の中で野菜やナッツ類の摂取量を増やすこと、量よりも質を重視すること、食品ロスを減らすこと、これらを世界各国でコミットすることが求められている。
世界的にビーガンが尊敬される立場になってきているが、すでに大豆食文化をもつ日本人は欧米のビーガンたちには「最先端」と考えられている。
豆腐やソイミルク(豆乳)など、大豆から生まれる食文化の研究は世界から注目されている。しかも大豆は水の使用量が少なく、温室効果ガスの排出も畜産より少なく、環境負荷が非常に少ない。
栄養面でもタンパク質・炭水化物・脂質がバランスよく含まれ、機能性成分も素晴らしい。
美味しさの課題が未解決
日本にはもともと大豆食の文化があるが、今後も大手コンビニやハンバーガーチェーンなどでも大豆を使用した加工食品のバリエーションを増やすことが予測され、ムーブメントの気配がある。
ちなみにヨーロッパではドナウ川の流域など限られたところでしか大豆を作ることができず、北米などからの輸入に頼っているが、今後は自分たちでも安心・安全な大豆を作っていこうという取り組みが始まっているという。
イギリス、オランダ、ドイツはプラントベース食品の需要がヨーロッパの中でも非常に高い。
中でもオランダはダントツで、大手小売業でもプラントベース食品が最も良い場所で販売されている。2030年には売り場の60%がプラントベースに置き換わることが発表されている。
いずれにせよヨーロッパでは政策や法律からプラントベースにシフトしているため動きが早い。
プラントベースの普及や重要性を理解している人は増えているが、美味しさの課題はなかなか解決できていない現状がある。
食感やコクなどに物足りなさ
ソイミートはやはり食肉と比較すると食感やコクなどに物足りなさを感じてしまう人が多い。
また、現在市販されているプラントベースの代替肉にはかなりの量の調味料や添加物が使われているケースも多い。
物足りなさを追加し、よりリアルな肉に近づけるためには仕方のない加工ではあるが、これでは代替肉が食肉に置き換わることは難しい。
不二製油では独自の研究で、代替肉(特にソイミート)に決定的に足りていないものは「動物性の出汁(チキンエキス、ポークエキス、ブイヨンなど)」であると仮説を立て、油脂とたんぱく質を混ぜた「出汁」に当たるものを開発。
現在、一風堂のプラントベースラーメン「赤丸」に採用してもらっているが、コクや満足感はあるのに胃もたれはせず、それでも動物性出汁由来スープと遜色ない仕上がりに消費者からは驚きの声が上がっているという。
日本の大豆食文化に貢献
また、これまでは大豆ミート製造中に油を加えると、テクスチャーや硬さが失われたしまうことが大きな課題であったが、今月より大豆と油脂の加工技術提供が可能になった。
大豆ミートに油脂を入れると、大豆の美味しさを生かしつつ、肉のような繊維感、噛みごたえ、口溶けが実現したという。
これによってビーフシチューに使うブロック肉のようなものも誕生させることができていると紹介。また豆乳を脂肪分の多い部分と低脂肪の部分に分離させる独自技術も開発した。
これにより脂肪分が多い部分はバターやホイップクリームに、低脂肪部分は脂質がほぼ含まれないことで酸化せずに発酵させることが可能になりチーズに加工しやすくなったという。
特に若い世代はエシカルやサスティナブルな食品に興味を持ち始めている。
ブームではなく新たな食文化としてもともとある日本の大豆食文化を新しい形でさらに発展させることに貢献したいとまとめた。