2022年7月22日(水)~29日(金)、東京ビッグサイトにて「ウエルネスライフジャパン2022」が開催された。同展示会セミナーより、楠本修二郎氏(カフェ・カンパニー 代表取締役社長)の講演「日本の勝ち筋は「食」にある~市場規模117兆円の日本の「食」の未来戦略」を取り上げる。
日本の食産業は117.3兆円
長引くコロナで飲食業界・食品業界は大打撃を受けているが「食産業」として一丸となり「時代」や「あり方」が大きく変わっていくことを「楽しむ」方向に持っていきたい、と楠本氏は話す。
楠本氏はカフェを中心に80店舗超の運営やコミュニティ・事業プロデュースを行なってきた実績がある。
2021年には「日本の愛すべき食を未来につなぐ」を目標にしたグッドカンパニーを設立、また内閣府の政府委員会や職の復興の会の代表理事の歴任など、自社事業の枠を超え「日本の食」という大きなテーマで動きはじめていると話す。
楠本氏は日本にはエネルギー資源もGAFAもないが、「日本食がある」と確信しているという。日本の自動車産業は62兆円規模で世界を牽引しているが、実は食産業は連携していないだけで117.3兆円もあるという。
内訳は「農林漁業」が12.5兆円、「食品製造業」が38.1兆円、「関連流通産業」が32.5兆円、「外食産業」が29.2兆円、そして「資材供給産業や県連投資」の合計4.9兆円だ。
これまでは連携してなかった多岐にわたる食産業だが、今こそ連携し「リブランディング」し、それを世界に発信していくことで、エネルギーやGAFAがなくても十分に世界で戦える、投資してもらえる、人口減にも問題なく対応できる、そんな勝ち筋が見えるという。
日本食の強みをブランディング
日本食の強みは「おいしく」「健康的」「サスティナブル」という3要素が揃っていること。この3点を徹底的にブランディングして、世界に発信していくことが大事だ、と楠本氏。
この3点は日本人だけが勝手に思っていることではない。美味しさについては、ミシュランの星付きレストランが一番多く掲載されているのは日本であるし、日本人の平均寿命は世界一である。
また和食は野菜が豊富に使われているだけでなく、出汁や発酵、地域性など特質すべきサスティナブルなポイントが多い。和食を作るための地球環境負荷は低く、CO2排出量も少ないことがよく知られている。
日本食のネガティブなファクターは塩分が多めであることと、精製された食材が使われすぎている2点のみで、これらは時間をかけて改善していくことは可能だ、と楠本氏。
実際「世界一の長寿食」と評される地中海食も「スローフード」を提唱し、20年かけて精製されたものを極限まで減らし、かつてのレシピを復活させ、良い面を磨き、ネガティブな面は改善していった。これにより世界一と再評価されるまでに至っている。
循環型社会を再び実現
日本も「スローフード」などに取り組めば、問題とされる2点はすぐに解決されるはずだという。日本食の良さを壊してしまう要因は他にも大きく5つあると楠本氏は指摘。
例えば「農業・漁業の担い手不足」。賃金も上がらず産業として衰退傾向にある。しかし例えばノルウエェーでは大胆な解決策を実行したことで漁業者の所得(年収)が900万円にまで上がっている。
「日本の健康や地域生活を支えたおばあちゃんのレシピや伝統料理の消滅」にも危機感を持っているし、「物流や設備の老朽化」「食育プログラムの欠如」「老舗店や有名店の廃業」なども問題点としてある。
しかしいずれも食品業界全体で連携し、テクノロジーを活用することで解消する部分が多い。
また日本の人口減は深刻でネガティブに捉えられるが、実は江戸時代の特に「藩」のあり方を学べば、むしろ人口が減った方が完全サーキュラー型社会(循環型)を再び実現することができるのではないか、と楠本氏。
コミュニティ同士が連携するあり方
これからは多くて15万人程度の藩のようなコミュニティ同士が連携するあり方を目指した方が自給率100%も実現するし、フードロスを解消し地産地消を実現しやすくなる。
しかも日本の国土は実は大きい。日本の海岸線は長く排他的経済水域は第6位、地政学的にもあらゆる食の資源には恵まれている。
さらに日本は実は製鉄技術が優れていることも見逃されがちだ。鉄を制した民族はこれまでも成功していることは歴史が証明している。
日本の包丁や鍋などの鉄を使った調理器具は旨味や栄養を逃さず、素材の良さや美味しさを引き立てる日本食文化を支える世界に誇れる調理器具だ。
切り方一つで味を変えられる民族は世界で日本人だけなのではないか。楠本氏はあらゆる点から「日本は美味しい国」だと分析し断言する。
観光目的の70%は「日本食」
コロナ禍が終息した後に行きたい国ランキングで、日本は欧米の人にとっては2位、アジアの人にとっては1位だという調査データもある。
しかも観光目的の70%は「日本食」。世界中の人に期待され、憧れられている日本の良さ、特に日本食の「おいしくて」「健康的で」「サスティナブル」という3要素を意識し、磨き、将来に備えることで日本はこれからも世界で勝てる国でありつつづけられる。
そのためには地域・地方が元気にならなければならない。北海道と九州では個性も食文化も全く異なるが、それぞれがそれぞれの「おいしくて」「健康的で」「サスティナブル」という3要素を磨き上げ、世界中の人が「日本」ではなく「日本のそれぞれの地域」にいきたくなることが大切だ。
人口減少してもそこに地域活性があり高付加価値(美味しい)をつけることで、経済は衰退しない。そのような事例はイタリアやスペインの事例にもある。もちろんその価値を海外で展開していくことも可能だ。
実際、世界には約15万軒の日本食レストランがある。2005年はわずか2.5万件だったが、わずか10年で10万軒以上増えている。
食を起点に農業・漁業・流通・観光が一体化
いずれにせよ、これからの日本は食を起点に農業・漁業・流通・観光が一体化することで、まずは地方が元気になり、世界に対し日本の食をもっと売り出していけるはずだ。
どれだけ地方が元気になるか、世界の人がどれだけ地方に行きたがるかが、日本の将来を大きく変えると言っても過言ではない。
地方が盛り上がるには、食産業が盛り上がる必要があり、ノルウェーのように一次生産者の人が儲かるようになる仕組みも整えなければならない。
今、世界にはさまざまなフードテックが誕生しているが、そこには「便利」や「人手」に変わることがあっても「美味しくする」技術はない。日本には伝統的に「美味しくする技術」がある。
特に「発酵」や「伝統」「調理器具」、そして「鮮度」はその鍵となる。鮮度の良い食材をこれほどうまく扱えるのだから「鮮度保持技術立国」を目指すのもありだろう。
「日本の美味しい」を共に作っていける仲間が一人でも増えるようこれからもアクティブに活動したいと話した。