2023年5月17日(水)〜19日(金)、東京ビッグサイトにてifia JAPAN2023 HFE JAPAN2023が開催された。今年は「お!見つかる」をテーマに効率的な生産が実現できる食品成分や、製品価値を向上させる原料、新たなビジネスチャンスや研究開発のきっかけといった、さまざまな「発見」となる食品素材、食品添加物、機能性成分などが一堂に集結した。ここでは出展社プレゼンテーションから「【基調講演】運動と栄養(食品)による健康増進の新たなエビデンス」を取り上げる。
立命館大学スポーツ健康科学部 教授 家光素行
さまざまな機能性表示食品やサプリメント成分が登場する中で、最も重要なのが「エビデンス」であるが、家光氏は成分単体としての機能性や作用機序のエビデンスはもちろん、健康維持に不可欠な「習慣的な運動」との併用によってより高い効果が得られるかどうかのエビデンス研究を行っていると話す。ここではさまざまな加齢性疾患に対し、習慣的な運動と機能性成分を併用することで効果が上がることが確認された「クーガ芋」と「クロレラ」について解説が行われた。
家光氏は性ホルモンの研究を長く行ってきたが、その研究をする過程で、心血管疾患・骨粗鬆症・認知症・サルコペニア・性機能障害・精神神経障害といった、加齢によって生じる不調の多くの要因に性ホルモンが関与していることがわかってきたと解説。特にDHEAという性ホルモン前駆体が重要で、このDHEAは体内でテストステロンやエストロゲンに変わり心身にさまざまな影響を与える物質であると説明。最新の研究では肥満や糖尿病、サルコペニアの人は健常者と比べてDHEAの血中濃度が低く、性ホルモンの分泌が少ないことがわかってきているという。とはいえDHEAは20歳をピークに男女関係なく減少するものであり、DHEAの体内合成の低下を緩やかにすることが「健康維持」のキーになるのではないかと仮説を立て、さまざまな研究を行っていることを紹介。
まず「DHEAをラットに直接経口投与することで糖尿病やサルコペニアの予防効果はあるのか」について調べる試験を行なったことについて「DHEAの経口摂取のみでも血糖を下げる効果や筋肉量を増やす効果が確認されたが、運動を併用させたラットの方が大きな優位性を示し、DHEA摂取については運動との併用の方がより効果が高いことが示唆された」と解説。運動と併用して効果が高まるメカニズムについては、DHEAが骨格筋の中で作用している可能性が高いと示唆。そこで、骨格筋の細胞培養試験を行い「培養細胞にDHEAを添加したところ、培養細胞から性ホルモンが分泌されることが確認できたと」解説。つまりラットの体内において、経口摂取したDHEAが血中から骨格筋に取り込まれ、そこから性ホルモンが発現することで糖利用の改善や脂肪燃焼効果、筋代謝などに関係しているのではないか、と家光氏。ちなみにヒトの体内ではコレステロールからも性ホルモンは合成されるが、骨格筋培養細胞にコレステロールを添加しても性ホルモンに関与する物質の発現は認められなかったという。
これらの試験から、DHEAが骨格筋に取り込まれると、骨格筋の中で性ホルモンが作られ、そこに運動が加わることで、さらなる性ホルモンの発現が起こることが推測される。逆に加齢とともに、性ホルモンの前駆体DHEAの分泌が低下することで、骨格筋への取り込みも低下し、性ホルモンの合成能力が低下。それに伴い糖代謝の低下や筋肉合成量の低下が生じ、糖尿病やサルコペニアなどの発症につながるのではないか、と解説した。いずれにせよ、性ホルモンは加齢性疾患の予防に非常に重要だと言えそうだ。しかし日本ではDHEAの補充は現状認められておらず、医師が必要であると判断したケースのみ特異的に補充療法が可能となる。またアスリートは特に注意が必要でDHEAはドーピング対象物質でもある。
そこで家光氏らのグループでは、DHEAに類似した食品成分がないかをスクリーニングし研究を重ねてきた。現在発見されているのが「ジオスゲニン」という成分で、これがDHEAとほぼ同じ化学構造をしているという。DHEAを直接接種することができない以上、類似成分を食品から接種することで「予防」や「維持」に役立てたいと考えるが、ジオスゲニンが含まれる食品もなかなか見つからなかったという。現在ジオスゲニンが豊富に含まれることがわかっている唯一の食品が「クーガ芋(トゲドコロ)」だ。クーガ芋とはヤムイモの一種で東南アジアからベトナムなどで栽培されている食用芋で日本では生産量が非常に少ないが沖縄で栽培されている。ちなみにヤムイモはジャマイカの主食として有名な芋で、ウサイン・ボルトが「自分の強さの秘訣は主食のヤムイモ」と語るほど、ヤムイモは天然ドーピング食材としてアスリートを中心に注目されているという。自然薯や山芋も仲間ではあるが、クーガ芋にだけ圧倒的にジオスゲニンが含まれることがわかっているため、家光氏らのグループではクーガ芋から糖質を極力取り除きジオスゲニンが高濃度に含まれる「トゲドコロ粉末(クーガ芋粉末)」を作成しヒトへの効果を調べる臨床試験も実施。対象はアスリートと高齢者で、アスリートは一般の人に比べて性ホルモンが不足しがちな傾向があるが、8週間夕食後に「トゲドコロ粉末」と週に3日の運動(レジスタントトレーニング)のでプラセボと比較して筋肉量が増加し、血中性ホルモン濃度も向上、インスリン感受性が高くなるなどの有効性が認められたことを報告。同じ試験を高齢者に行なったところ、やはり同様の効果が見られたことを報告した。
クロレラについては、古くから抗酸化作用やマルチサプリメント効果が知られているが、近年新たな知見として、クロレラが骨格筋へ取り込まれることでタンパク質GRUT4が有意に発現することがわかったと報告。特に2型糖尿病モデルのラットにおいて有酸素トレーニングとクロレラの長期摂取を併用することで、クロレラが骨格筋で作用し、クロレラ摂取だけと比較しても有意に空腹時血糖値及びインスリン感受性指標の改善効果が見られたと説明。
今回、クーガ芋やクロレラなど、もともと生理活性作用が高いことが示されている成分を、健康の維持に不可欠な要素「運動」と併用することで得られる効果について科学的根拠に基づく方法で示したが、他にも運動と組み合わせることでより高い効果が出る機能性関与成分は多くあるのではないか、と家光氏。健康の維持やアスリートの競技力の向上には「運動だけ」「栄養だけ」といった偏りではなく「両面からのアプローチ」が必要であるため、引き続き運動によって効果が底上げされる機能性成分の研究を行いたいと話した。