2023年6月16日(金)、日比谷コンベンションホールにて第8回日本黒酢研究会がリアルでは4年ぶりに開催された。ここでは招待講演「発酵で健康」(発酵学者 東京農業大学名誉教授 小泉武夫)を取り上げる。
発酵学者 小泉 武夫
発酵食品には大きく5つの特徴があると小泉氏は話す。その5つとは「①腐りにくく保存性が高まる」「②滋養成分、栄養成分が蓄積されることで、人が摂取すると免疫効果が高まる」「③特有の香りや匂い、味覚成分が高まる」「④究極の自然食品である(添加物が一切入っていない)」「⑤歴史性・文化性が高い」である。特に①の「発酵することで腐りにくくなる」については、いまだに100年以上前のチーズが発見され食されることもあるし、日本にも40年ものの「さんまのなれずし」などの発酵食品が存在している。小泉氏自身もなれずしはもちろん、3年以上前の冷蔵保存した納豆を食べたことがあるそうだが、いずれも非常に美味しく食べられたと述懐。さらに発酵食品が私たち人にもたらす健康作用が素晴らしく魅力的で「腸内環境を整え免疫力を高める」「代謝を上げて太りにくくしてくれる」「老廃物の排出に役立つ」「抗酸化作用でアンチエイジングに働きかける」「イライラを抑える」など、これほどまでに人の健康と若々しさをサポートしてくれる食品はないのではないか、と小泉氏。小泉氏自身はもうすぐ80代の誕生日を迎えるそうだが、極めて健康で肌や髪の状態も良く、コロナにもならず、日々健やかに過ごせているという。特に女性から褒められるのが「加齢臭が全くしない」ということだそう。これは「毎日食べている発酵食品の効果としか考えられない」、と話す。日本では納豆や醤油、味噌、漬物、麹、黒酢などが発酵食品として有名であるが、隣国の韓国ではキムチが発酵食品の代表で、キムチも「ユネスコ無形文化遺産」に登録されているという。韓国の国立大学でもキムチの研究は盛んに行われ「食欲の亢進」「風邪の予防」「ダイエット効果」「強壮・強精」「整腸作用」「抗癌作用と免疫賦活作用」などのエビデンスが報告されていると解説。実際、マウスの実験ではがん化させたマウスに発酵微生物を摂取させることで腫瘍が小さくなる、消える、など有用性がいくつも報告されていて、発酵食品の研究は各国が力を入れているので、特に「発酵食品と免疫」に関する論文や医学データがどんどん集まっていると解説した。また発酵食品の健康効果にはいずれも「継続」が重要で、1〜2ヶ月なんの変化が起こらなくてもそこで諦めずに継続すると、3ヶ月、4ヶ月目から変化が出てくるケースが多いという。しかも継続するほどに発酵食品に愛される体になるという。つまり、毎日味噌汁が飲みたくなる、漬物が食べたくなる、納豆が食べたくなる、といった具合だ。
日本でも和食の健康効果が注目されているが「一汁一菜」とは「ご飯・味噌汁・漬物」のことで、「一汁一菜」の3品の中に2つの発酵食品が含まれていることからも、日本人と発酵は切っても切れないと小泉氏。他にも日本にしかない発酵食品の一つである「麹」については「麹文化」をユネスコの無形文化遺産に提案するところまで話が進んでいるという。「壺作りの黒酢」についても世界に例のない技術でありぜひユネスコを目指してほしいと小泉氏。食酢には「コレステロールの低下」「糖尿病予防」「高血圧症の予防」「肥満の予防」「骨粗鬆症の予防」「アレルギー予防」などが報告されているが、「黒酢」は食酢よりも医学的に優れていることが報告されていて、中でもミネラル量の多さ、必須アミノ酸の豊富さなどは食酢と比べ物にならないことを解説。黒酢も優れた発酵食品の一つであり自然食品で次世代に残すべき食文化だと説明。 WHOはかねてより各国に「健康平均寿命」を発表するように話しているが、日本はどういうわけか「平均寿命」を公表しているという。本当に健康でいられる平均寿命(いわゆる健康寿命)は男性の場合69 歳くらいで、女性の場合71歳くらいで、日本が本当に「健康長寿の国かは怪しい」と指摘。日本は医療の進歩のおかげでいくらでも長生きさせられるようになっているが、必ずしもそれが幸せかどうかはわからない。医療のあり方を見直し、日本の食文化、中でも発酵食品の素晴らしさを見直す必要があるのはまさに「今」ではないかとまとめた。