特定非営利活動法人

HOME > 「食」のトピックス > あなたのお腹は大丈夫?腸内環境から考えるあなたの健康未来

2023.7.31あなたのお腹は大丈夫?腸内環境から考えるあなたの健康未来第27回腸内細菌学会学術集会 市民公開講座 腸活のすすめ

2023年6月27日(火)、タワーホール船堀にて「第27回腸内細菌学会学術集会 市民公開講座 腸活のすすめ」が開催された。ここでは医薬基盤・健康・栄養研究所の國澤 純氏による講演「あなたのお腹は大丈夫?腸内環境から考えるあなたの健康未来」を取り上げる。

医薬基盤・健康・栄養研究所 ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長 國澤 純

腸活・腸内細菌・腸内環境・善玉菌といった言葉が広く知られるようになり、健康維持・増進における「腸」の働きが注目されているが、腸の機能は実に幅広く、近年になってからは肌の状態や脳機能、さまざまな病気の発症とまで関係していることが解明されてきている。それに伴い病気を薬で治すという考え方から病気を腸内細菌で治そうという「マイクロバイオ製薬」の考えも登場してきていると、國澤氏は説明。日本でもニュースで取り上げられたが、米国では便移植が注目されていて、当然日本でも研究が進められているという。便移植による治療効果は一般的な医薬品の治験と比較しても非常に高いが、それでも100%の効果ではない。そこで日本では便移植の発想から一歩踏み込み「腸内細菌」を元に医薬品やヘルスケア食品などを作ろうという流れがあり、さまざまな製薬会社や食品メーカー、ヘルスケアメーカーが共同で腸内細菌を元にした新たな産業を作り出していこうという流れもあるという。

腸内細菌叢がどのような状態になっているのかは、個人差が非常に大きく、医薬品でも健康食品でも「効く」「効かない」の差が出てしまうのは、個人個人が持っている腸内細菌叢の働きに左右されているところが大きいという。例えば、パーキンソン病の薬(レポドバ)が効かない人の小腸内にはレポドバを分解する腸内細菌が多くいることがわかってきた。そこで、お薬手帳などに自分の持っている腸内細菌叢を明記しておくことで、医師も薬剤師もその人により効果を発揮する医薬品を処方しやすくなるのではないか、と話す。また、國澤氏らの研究チームでは日本中から「食事などの生活習慣に関する調査データ」と「糞便や血液などのさまざまな生体サンプルの分析データを用いた研究を行なっており、これに「基礎研究による疾病のメカニズム解明」を連動させた研究を行なっているが、その結果の一つとして腸内に「ブラウティア菌」と呼ばれる細菌が多くいる人は糖尿病や肥満になりにくい傾向があることがわかった、と解説。さらにブラウティア菌からどのような物質が産生されているのかを調べたところ、脂肪の蓄積を抑制する働きや炎症を抑える働きのある物質(オルニチンやアセチルコリンなど)のほか、乳酸や酢酸、コハク酸なども産生されていることがわかったという。しかしブラウティア菌は酸素に触れると死んでしまうため、直接摂取することは難しく、日本人の多くが持っているブラウティア菌をどうすれば増やせるのか、増やすための食材は何なのか?などについても研究を進めているという。

ブラウティア菌は「痩せ菌」などと呼ばれメディアでも取り上げられたため、最近は「腸内細菌叢」を調べたいと希望する人が増えているという。かつては「人種によって異なる」とされてきた腸内細菌叢であるが、日本人だけで比較しても大きく5パターンくらいに分類できることがわかってきたという。國澤氏らの研究グループでは、日本中からさまざまな属性の人の腸内細菌を収集しているが(後少しで1万データに届きそう)、自治体の健康診断などと協力して収集した場合は、参加者に必ず数回参加してもらい、「現状を把握してもらう」だけでなく「フィードバックをして行動変容に繋げる」アドバイスをしているという。例えば瀬戸内海のある地域での調査は、いかにも野菜や魚をメインに摂取するイメージがあったが、実際に調べてみるとそのエリアの30代〜40代は東京の参加者よりも魚や野菜の摂取が低いことがわかり、大阪でも野菜の摂取量が全国平均より大幅に少ないことがわかったという。このような情報を情報提供者にフィードバックをすることで、参加者は食行動を変えようとする。今後は腸内細菌の計測をより簡易的に行えるようなシステムを構築し、スーパーの店頭や道の駅など、食材を買う場所で自分の腸内を知ってもらうことで、買い物から行動変容に繋げたいと話す。

「どんな菌がどれくらいあるのが理想ですか?」「どの菌を取ればいいのですか?」という質問を受けるが、「良い腸内細菌叢」とは「多様性が豊富であること」だという。というのも、腸内細菌は1つの菌ですべてのことができるわけではなく、共同で働く菌がほとんどで分業でこそ力を発揮するからだ、と國澤氏。腸内細菌はリレー選手のように働いている。腸内細菌の多様性を高める、さまざまな菌が満遍なくいるという環境を作るために、偏食を避け、いろいろな食材を食べるというのが一番良いと話す。さらに食事をとる時には「自分たちの食べたい物を食べている」「栄養をとっている」という考えだけでなく「腸内細菌にどんな餌を与えたら喜ぶか」と考えてみるだけでも良いのではないかと話した。

その上で、新しい栄養学を提案していく必要もあるだろうと國澤氏。腸内細菌や腸内環境に合わせた食事の提供や薬の処方ができるように「精密栄養学」「プレシジョンニュートリション」と呼ばれる提案ができることを目指しているという。現在、多くの研究者や協力者、そしてさまざまなサポートによって豊富な腸内細菌データの収集と解析を行なっているが、得られた知見を元に「腸から健康になれる社会」を作り上げることを目標としているという。腸内細菌を病者と健常者の違い、年齢差、地域差、遺伝的要因、運動や睡眠の影響などさまざまな視点から分析していくことで、食品成分を元に菌が作りだす有用な代謝物「ポストバイオティクス」をより効果的に見つけ出し、それを自然な形で体内で作り上げていくようなアドバイスができればと話した。

最近の投稿

「食」のトピックス 2024.11.18

栄養・機能性飲料のグローバルトレンド

「食」のトピックス 2024.11.11

食による免疫調節と腸内細菌

「食」のトピックス 2024.11.5

地域住民におけるDHA・EPA、アラキドン酸摂取量と認知機能の関連

「食」のトピックス 2024.10.21

大豆のはたらき〜人と地球を健康に〜

「食」のトピックス 2024.10.15

ゲノム編集食品最前線

カテゴリー

ページトップへ