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2023.8.21腸内環境のキープレイヤー「短鎖脂肪酸」がもたらす健康効果とその展望

2023年7月12日(水)、オンラインにて株式会社メタジェン主催ウェビナー「腸内環境のキープレイヤー「短鎖脂肪酸」がもたらす健康効果とその展望」が開催された。

腸内環境が重要であることは多くの人に周知される事実となっていが、腸内環境研究が進むにつれ、腸内で作り出される「短鎖脂肪酸」に鍵があるのではないかと注目が集まっているという。これまでは腸内細菌に注目が集まっていたが、腸内細菌が食物繊維を分解することで作り出す代謝産物である短鎖脂肪酸にこそ、さまざまな健康効果があることがわかってきているからだ。

私たちの体の中には常在菌と呼ばれる菌が豊富に存在している。口腔内には約1.1兆個(約700種)の細菌が、皮膚には約200個(約1000種)の細菌が存在しているが、腸内には約40兆個、細菌種としては約1000個という圧倒的な数の菌が存在している。腸内細菌は、私たちが食事から摂取する食物繊維を餌とし、それを分解することでさまざまな代謝産物を作り出しているが、代表的な代謝産物が「短鎖脂肪酸」である。短鎖脂肪酸には主に「酢酸」「プロピオン酸」「酪酸」の3種類があり、いずれも「肥満抑制効果」「免疫賦活作用」「耐糖能改善」「アレルギー抑制」「便通改善」「腸管バリア機能向上」「炎症抑制」「持久力向上」といった機能性が確認・報告されているという。

短鎖脂肪酸が全身に作用するメカニズムも解明されつつある。短鎖脂肪酸は腸内で産生された際、腸管上皮細胞から吸収され血液に乗って全身に行き渡る。もちろんその際に腸内では腸管免疫や腸管バリア機能にポジティブな影響を与える。さらに、体内には「FFAR3」「FFAR2」「GPR109A」といったGタンパク質共役受容体と呼ばれるものが存在し、酢酸・プロピオン酸・酪酸のそれぞれが各受容体と結合することで免疫機能に作用することが解明されていると説明。さらに短鎖脂肪酸は免疫細胞であるIg Aを産生するB細胞の分化を誘導し免疫力増加に貢献し、制御T細胞の分化を誘導することでアレルギー抑制にも貢献する。また好中球や好酸球の制御にも関与しているという。

免疫を向上させたいというニーズが高まっているが、短鎖脂肪酸は腸管内では免疫力の向上効果を発揮するという。腸管内には粘液による物理的なバリアと、腸管で作られるαディフェンシンなどによる物質のバリア、そして腸管上皮細胞同士の結合(タイトジャンクション)によるバリアが保たれているが、この腸管バリア機能が壊れると「過敏性腸症候群」「炎症性腸疾患」「動脈硬化促進」「糖尿病」などさまざまな疾病リスクが高まることが指摘されている。しかし短鎖脂肪酸が腸内に十分量存在することで腸の粘液であるムチン産生が誘導され、タイトジャンクションが強化され、タイトジャンクションを壊すタンパク質の発現が抑制されることでバリア機能の恒常性が維持されると説明。実際、食物繊維の摂取で、非アルコール性脂肪肝疾患の患者の腸管バリア機能が改善した事例なども報告されてきているという。他にもプロバイオティクスであるガラクトオリゴ糖にも腸管バリア機能を改善する効果が確認されており、いずれも短鎖脂肪酸が関与している可能性が高いとした。

短鎖脂肪酸と「耐糖能」の関係にも注目が集まっている。耐糖能とは血糖値を正常に保つ機能のことで、食後に上昇した血糖値を正常に戻す体の機能のことである。耐糖能異常が起こると、血糖値が上昇したまま戻らず、慢性的な高血糖状態になりやがて糖尿病となるが、腸内で産生された短鎖脂肪酸が血液に乗って全身に巡ると、各臓器や組織にある短鎖脂肪酸受容体に結合し、グルコース代謝が変化することがわかってきたという。具体的には膵臓ではインスリン分泌が促進され、筋肉ではグリコーゲン生合成が増加、肝臓ではインスリン非依存的にグリコーゲンの生合成が行われるという。食物繊維が豊富な大麦の摂取で耐糖能改善効果が確認されているが、いずれも短鎖脂肪酸が増加することで耐糖能を改善するのではないかと説明。大麦にはβグルカンが豊富に含まれるが同じくβグルカンを豊富に含むアラビノキシランの摂取でも耐糖能改善効果が示されたと説明(マウスの試験による)。 このように短鎖脂肪酸についての機能やメカニズムが少しずつ解明されてきていることで、現在は短鎖脂肪酸を活用した機能性表示食品も登場しはじめている。例えば株式会社ニコリオの「ラクビ プレミアム」は機能性関与成分を「酪酸菌」とし、ヘルスクレームは「継続接種により善玉菌と短鎖脂肪酸を増やし、便秘気味の方の腸内細菌を改善する機能、BMIが高めの方の低下をサポートする」としている。他にも「小麦由来アラビノキシラン」「大麦若葉由来食物繊維」などを機能性関与成分とし、ヘルスクレームとして「善玉菌である酪酸菌を増やし、お腹の調子を整える」「血糖値の上昇を緩やかにする」と展開する事例があることを紹介。これまでの「善玉菌」「悪玉菌」「プロバイオ」「プレバイオ」から発展した「短鎖脂肪酸」の効果について引き続き注目してほしいとまとめた。

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