2023年8月23日(水)に行われたセミナー「ウェルビーイング視点で考える、これからの食と健康のあり方」が非常に好評だったため、9月25日〜10月10日の期間限定でアーカイブ配信が行われた。「ウェルビーイング」をキーワードに、食はどのようなあり方を目指すべきか、ここでは新渡部文化短期大学客員教授 堀 知佐子氏の講演を取り上げる。
新渡部文化短期大学客員教授 堀 知佐子
食べ物と健康が大きく関わることは言うまでもなく、管理栄養士として、堀氏自身もその重要性を発信する活動を精力的に行なっている。
マクガバンレポートなどでも言われるように、これまで日本は「長寿国であるから日本食は良い」とされてきた。本当のところ、私たち日本人の健康や長寿はこれまで日本人が食べてきたものが要因なのか?日本人は何を食べて長寿国になったのか?このことについて数々の研究が進められている。そのような研究の先駆けと言えるものに、東北大学名誉教授である近藤正二氏による調査がある。近藤氏は昭和10年から46年まで北海道から沖縄までの日本中を歩き回り、日本全国の990町村で食べ歩いて調査を行なっている。研究当初、日本人は脳卒中で亡くなる人が多く、その要因を調べることが最大の目的であった。それまでは「遺伝・気候・大酒・重労働」が原因だと考えられていたが、日本中を歩き回り現地の人と膝を突き合わせ食生活や生活習慣を知ることで「食生活」こそ、疾病の大きな要因ではないかと近藤氏は確信したという。最終的に「長寿村」と呼べる町村では、「雑穀・緑黄色野菜・海藻・大豆など食物繊維を常食とし、重労働」の傾向があり、一方「短命村」では「白米の多食・切り身魚の多食・野菜不足」が顕著であったと報告された。ここ数年「炭水化物抜きダイエット」「低糖質ダイエット」などが話題であるが、昭和初期から「糖質制限」「食物繊維の重要性」という考え方があったのだ、と堀氏は指摘。また「米どころに長命なし」という言葉もあり、野菜や大豆が少なめで米ばかり大食することは日本人の長生きの妨げになることも昭和初期から知られていたと解説。
最近は、果物だけを摂取することも短命につながることがわかっている。果物は野菜の代わりにはならず、ブドウ糖より7倍の速さで体内にてメイラード反応を発生させ、身体中の細胞を早く老化させてしまう。しかも果糖は肝臓でしか代謝されないため、肝臓に負担となる。管理栄養士として、果物は朝摂取してほしいと話している、と堀氏。また海藻については毎日少量で良いので食べる習慣を身につけてほしいと話す。海藻を常食している地域では明らかに脳卒中が少なく、これは塩の害を打ち消すマグネシウムの効果が海藻に期待できるからだと説明。最近では海藻を「シーベジブル」といい、もっと食べようという動きか世界で起こっている。朝食に温かい味噌汁を飲むことは、発酵食品・大豆・海藻・野菜などを補うだけでなく、腸を温め、カリウムで余計なミネラルを排泄するなど健康効果があまりにも大きい。具沢山の味噌汁であれば、塩分を気にせず飲み干して良いと堀氏。そして何より日本人の健康を支えてきた食材は「大豆」であろう。日本人は他国より多く大豆製品を摂取している。大豆の主な効果は3つで「癌のリスクを下げる」「コレステロールの数値改善」「満腹度を上げる(食べ過ぎの抑制)」である。何より、和食とは発酵食品から成るものが多い。日本人が使用する代表的な調味料も全て発酵食品だ。味噌・醤油・酒・味醂・酢・鰹節これらの調味料でより良いものを選ぶだけで流行りの腸活にも貢献できる。
私たち日本人が健康を維持するために食べるべき食事は「ご飯/魚と肉/豆・野菜・海藻」で、この典型的な食事は弥生時代からほぼ変わっていないという。「糖質控えめ」「脂質ほどほど」「食物繊維たっぷり」というのが弥生時代から変わらない、人間の健康に貢献する、そして私たち日本人の健康や長寿に貢献してきた食事のスタイルだ、と堀氏。
とはいえ、私たちの体には個体差がある。自分に合う食事、自分に必要な食材を見つけるために「食選力」を身につけてほしいと話す。食べたいものを、いつ、どうやって、どのように、何と合わせて食べるか、この辺りを考えながら食べることは「パートナーフーズ」に出会えるメリットもあるという。パートナーフーズとは、例えば「朝にグレープフルーツを食べるとお腹の調子がいい」とか「朝にコーヒーを飲むと目覚めが良い」など、自分で体感できて、自分と相性が良いと確信できる食品だ。それは自分にしか見つけられない。 また、食事とは必須栄養素を摂取するために食べる行為を指すだけではない。友人や家族との時間の共有であり、コミュニケーションの時間であり、おいしさで幸せホルモン(オキシトシン)が分泌され、感謝の気持ちも溢れるまさにウェルビーイングな時間である。美味しく食べたほうが免疫力も上がることはよく知られる通りだ。栄養成分値はあくまで指標として活用し、それぞれが「食選力」を身につけ「美味しいと幸せになる」を大切にしてほしいと話した。