2024年5月22日(水)〜24日(金)、東京ビッグサイトにて食品素材や食品添加物に関する情報が一堂に集結する「ifia JAPAN2024国際食品素材/添加物展」が開催された。食品加工において不可欠な素材や添加物について、安全性や美味しさは常に研究改良されているが、その最前線についてさまざまな情報が発信される場となった。ここでは「レスベラトロール 抗酸化から長寿効果まで」について取り上げる。
ぶどう由来レスベラトロール協会・顧問 山梨大学ワイン科学研究センター 客員教授
レスベラトロールとはブドウの果皮や赤ワインなどに豊富に含まれるポリフェノールである。植物におけるレスベラトロールの作用は、植物の抗カビや抗紫外線のために合成が亢進し、それらからの防御に関与すると考えられている。この食物由来の抗酸化物質は現在さまざまな方面から注目を集めている。近年は「SIRT1(サーチュイン)を活性化させる植物由来物質」としてレスベラトロールが同定されており、その活用に注目が集まっている。
そもそもレスベラトロールが注目されたのは、1992年に赤ワインに含まれるレスベラトロールがフランス人に虚血性心疾患が少ない理由ではないか、という「フレンチ・パラドックス」が世界的に知られたことがきっかけであった。さらに1997年にレスベラトロールの抗がん性に関する論文が掲載され、2006年にはマウスにおいてレスベラトロールがサーチュインを活性化し寿命を伸ばすという論文が報告されるなど、レスベラトロールはこれまで何度も脚光を浴びている。
さまざまな機能性が知られるレスベラトロールであるが、高い抗酸化作用を有することは間違いない。しかし、近年、多くの抗酸化成分が、体内に摂取され抗酸化作用を働いた後、成分そのものが酸化し、酸化ラジカル(活性酸素)に変換されてしまうことが報告されるようになっている。抗酸化成分といえども、活性酸素に変換されてしまうと逆に体内で酸化を促進させてしまうケースもある。そのため最近のサプリメントは高度に精製せず、原料に近い形で商品化することで、成分が活性酸素化することを抑制するように設計されているものが増えている。この点でも、ぶどう由来のレスベラトロールは構造が複雑で安全性が高いと言えるのではないか、と佐藤氏。これまでレスベラトロールは「抗がん作用」「認知機能改善作用」「動脈硬化抑制作用」「血圧改善作用」「脂質改善作用(悪玉コレステロール低下作用)」「脂肪肝改善作用」「2型糖尿病改善作用」「骨密度改善作用」など多数の健康効果が報告されているが、やはり最も注目されているのが「サーチュイン活性」についてであろう。
サーチュイン(SIRT1~7)は抗老化因子と呼ばれ、通常は「飢餓」や「カロリー制限」によって活性化することがわかっている。近年、レスベラトロールがサーチュイン(SIRT1~7)遺伝子を活性化することが報告された。SIRTは「ヒストン脱アセチル化酵素」であり、SIRTが活性化するとDNAの保護蛋白であるヒストンのアミノ酸が脱アセチル化され、アルカリ性が高まる。DNAは酸性であるため、脱アセチル化した塩基酸ヒストンはDNAとの親和力が高まるため、遺伝子の発現が抑制される。飢餓のような過酷な状況では、SIRTが活性化、DNAの活動が抑制され、DNAの安定性が高まる。これが結果的にDNAの損傷抑制に繋がり、直接的に長寿につながることが解明されている。SIRTはヒストン脱アセチル化酵素であるが、この反応に補酵素の「NAD+(ニコチンアミドアデニン・ジヌクレオチド)」が必要であり、NAD+の存在もサーチュインを活性すると考えられている。つまり、サーチュインの脱アセチル化には補酵素NAD+が必要であるが、通常NAD+は体内でビタミンB3からNMN(ニコチンアミドモノクレオチド)が合成され、NMN からNAD+が生合成される。最新の研究ではレスベラトロールによりSIRTを誘導し、SIRTの脱アセチル化に必要なNAD+を上昇させるNMNを同時投与すると、レスベラトロール単独投与するよりSIRTの効率的誘導が得られる可能性が考えられ、研究が進められているという。 レスベラトロールは過去20年間、がん、更年期症状、糖尿病、メタボリックシンドローム、心血管疾患など、24種類以上の症状に対し200以上の研究が行われてきているが、1日1gまでの摂取で一般的に忍容性が高いという事実以外は、どの症状に対しても同意を得ている論文はないという。ただし、レスベラトロールは一貫して炎症マーカーを減少させ、代謝異常を改善させ、ヒトの健康に役立つことを示唆する臨床エビデンスはこの20年で増え続けている。一方、医薬品レベルとはいえないのが現状であり、臨床試験を含むさらなる研究が求められている状況だ、とまとめた。