特定非営利活動法人

HOME > 「食」のトピックス > 黒酢研究の40年とこれから

2024.7.3黒酢研究の40年とこれから第9回 日本黒酢研究会

2024年6月21日(金)、日比谷図書文化館コンベンションホールにて「第9回 日本黒酢研究会」が開催された。今回は黒酢研究に限定させず広く「健康長寿と発酵食品」をテーマに、3名の専門家が公演を行った。ここでは北海道医療大学薬学部 薬剤学(製剤学)教授 柴山 良彦氏による「黒酢研究の40年とこれから」を取り上げる。

北海道医療大学薬学部 薬剤学(製剤学)教授 柴山 良彦

酢は調味料として身近な食品でもあるが、中でも日本の壺作りの黒酢は高い機能性を有することが注目され40年以上研究が行われている。

米酢のうち、茶褐色の酢が黒酢と広く認知されているが、酢は製造方法の違いにより2種類に大別される。2種類の製造方法とは、壺を用いて屋外で発酵させる方法と、大規模な設備を用いて製造する方法で、壺作りの黒酢は前者によって作られる。壺作りの黒酢は江戸時代由来の伝統的製法による食酢で、原料は蒸し米・米麹・地下水のみ。野天に並べた薩摩焼の壺という1つの容器の中で糖化→アルコール発酵→酢酸発酵と進み、酢酸発酵後の熟成期間には6ヶ月以上の時間をかける世界でも珍しい発酵方法を用いて作られる。発酵過程で酢酸菌等の微生物を添加しないが、黒酢に含まれる微生物は特徴的だ。米麹由来の微生物には乳酸桿菌、乳酸球菌、ペディオコッカス、酵母などが、壺由来の微生物に耐酸性乳酸菌や酢酸菌などがあり、黒酢にはこれらが多様に含まれている。発酵の過程で色が自然に茶褐色に変化することから、坂元醸造株式会社により1975年に「黒酢」と命名された。

黒酢の健康効果は経験的に古くから認められていたが、1980年代に科学的に解明され、最近では臨床研究も活発に行われるようになっている、と柴山氏。黒酢の機能性の鍵となっているのが黒酢に含まれる成分だ。食酢の成分は共通の主要成分である酢酸(4〜5%)以外は原料や製法の違いにより大きく違ってくる。黒酢は、他の食酢と比較して窒素化合物(アミノ酸、ペプチド、アミノ酸誘導体)の含有量が多く、逆に炭水化物が非常に少ないという特徴がある。窒素化合物の大部分はアミノ酸であるが、黒酢はアミノ酸が結合したペプチドやアミノ酸誘導体などが含有されていて、これらの物質が機能性に結びついている。有機酸は、酢酸以外に微量の乳酸、プログルタミン酸、クルコン酸、リンゴ酸、コハク酸が含有されているが、クエン酸はほとんど含まれていない。これらの有機酸が黒酢特有の香味などとなっている、と柴山氏は解説。そして、黒酢の機能性は酢酸が有する血圧低下作用や疲労回復作用だけでなく、黒酢に含まれるアミノ酸や有機酸などの有機物が作用している。代表的な機能として次のようなものが知られている。

まず【脂質・糖代謝に関する機能】で、血中コレステロール、中性脂肪の低下、脂肪合成阻害や脂肪酸排泄促進により高脂血症を改善。また、体重・BMI・臀部周囲および内臓脂肪低下、血糖値上昇の抑制などの機能を発揮することが確認されている。そして【抗酸化作用】として、フリーラジカル除去、NK細胞の活性化や脂質過酸化レベルの低下などが確認されている。他にも【血液・循環器への機能】として、血液流動性の向上、高血圧の改善などが確認されており、最新の研究では大腸がん、肝細胞癌の抗腫瘍効果、アレルギー症状の改善、記憶機能の改善、熱ショックタンパク質発現亢進、肝細胞障害の抑制など、次々と機能性が確認・報告されている。 このように黒酢にはさまざまな機能性が確認されているが、医薬品と食品の違いを理解しておく必要もある、と柴山氏。医薬品は薬理反応や細胞機能の変化までの時間が「秒」「分」「時間」と短いのに対し、食品の場合は反応時間が「月」や「年単位」だけでなく場合によっては世代間を超える可能性まで示唆されるようになっている。近年「ゲノムインプリンティング」という言葉が知られるようになっている。「ゲノムインプリンティング」とは、遺伝的刷り込みとも言われ、哺乳類に特徴的な現象で、ゲノムインプリンティングは遺伝情報を恒久的に変化させず、世代ごとに新たにプログラムされる遺伝とは異なる現象である。食品による遺伝子発現の変化や細胞機能の変化はゲノムインプリンティングの変化に影響を与える可能性が示唆されているという。そのため、食品による機能性の有効性を評価するには医薬品よりも観察期間が長期でなければならない、と柴山氏。真の有効性を評価するのが困難な場合、短い知見で評価できるサロゲート(代替)ポイントが用いられる。例えば高圧薬の場合、血圧を下げることがサロゲートポイントであるが、本来は高血圧に伴う死亡や障害の発生を防止することがエンドポイントで真の目的だ。黒酢を含む食品の機能性研究も、サロゲートポイントだけでなくエンドポイントで考えて検証していく必要に迫られているのではないか、とまとめた。

最近の投稿

「食」のトピックス 2024.11.18

栄養・機能性飲料のグローバルトレンド

「食」のトピックス 2024.11.11

食による免疫調節と腸内細菌

「食」のトピックス 2024.11.5

地域住民におけるDHA・EPA、アラキドン酸摂取量と認知機能の関連

「食」のトピックス 2024.10.21

大豆のはたらき〜人と地球を健康に〜

「食」のトピックス 2024.10.15

ゲノム編集食品最前線

カテゴリー

ページトップへ