2024年7月16日(火)〜18日(木)、東京ビッグサイトにてウェルネスフードジャパン2024が開催された。国内外の健康食品・機能性食品素材産業の業界関係者が4万人以上足を運び、活発に情報交換が行われた。
(国研)農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 食品健康機能研究領域長 日下部 裕子
食品には大きく3つの機能がある。栄養(一次機能)、嗜好(二次機能)、そして生体調整機能(三次機能)である。この3つのうち「生体調整機能」に関する研究は最後に着手されたものであるが、ここ20年でさまざまな知見が積み上がり今は成熟期に入っている、と日下部氏は話す。農研機構でもこれまでは機能性表示農産物の研究開発や普及、納豆や玉ねぎ・大麦などに含まれる機能性成分の特定、それらに関するコホート研究などを実施し、数々の成果を上げてきた。そしてようやく現在、一次機能と三次機能を分けずに「健康な食事」「健康需要の延伸に貢献する食の開発」「パーソナルヘルスケア食の開発」に力を入れる段階に到達してきた、という。
日本人の平均寿命は世界で最も長く「日本食が日本人の健康の鍵を握っているのではないか」と世界から注目される。しかし、日本食は我が国固有の食文化であるのに厳密な定義が難しい。日本の11地域の一般住民9万人の食事を18年間追跡調査した研究によれば、日本食らしい食事をしているほど全死亡リスク、循環器疾患死亡、心疾患死亡のリスクが低い傾向にあると発表されている。ここでいう日本食らしい食事(日本食パターン)とは「ご飯、味噌汁、魚、肉、牛乳(乳製品)野菜、海藻、豆類、果物、緑茶」など、多様な副菜と主食を合わせた食事を指す。この「日本食」を具体的に定義すれば、世界に日本食をパッケージ提案することも可能ではないか、と日下部氏。
一方、日本食の課題としては、果物が少なく塩分摂取が過剰傾向にある点だとわかっている。ここは改善の余地があるが、それでも日本人の食事は十分豊かで多様性があり、健康に貢献するものだと言えそうだ。しかしここ10年で健康に関する課題も変化し、かつてはメタボリックシンドロームなどが指摘されていたが、近年は「睡眠障害」「慢性疲労」「腸内環境の乱れ」など新たな課題が深刻化し、これらの課題に「食」で対策していくことが求められている。そこで農研機構と協力企業では現在食品の健康増進効果に関する科学的エビデンスの獲得、腸内マイクロバイオームのデータ取得、健康情報統合などによる、データベースの構築に着手しているという。この背景には、私たちのライフスタイルや生活様式がダイナミックに変化し、特にコロナ後の新しい生活様式の中で健康状態を良好に保つ食生活を維持するためには、データやエビデンスに基づいた、あらゆる人々に寄り添う「パーソナルで、おいしく、健康によい新たな食」の提案が求められているからだ、と日下部氏。
現在農研機構では、日本の農産物等を用いて、病気の予兆となる自覚症状の「軽度不調」を改善する「パーソナルヘルスケア食」を開発している。具体的には、継続して収集した個人の健康情報(心拍数や睡眠記録、脳波、腸内マイクロバイオーム、食事摂取頻度、既往症、生活習慣など)と、食品に含まれる機能性成分がもたらす健康効果の関係を明らかにすること。その後、栄養・健康機能性に優れた野菜等を活用して軽度不調の改善に貢献する食事をよりパーソナルに提供するという流れだ。個人の健康情報を元にした「パーソナルヘルスケア食」は、個人が特別な意識しなくても美味しく食べるだけで健康になるものが理想で、それを目指しているという。すでにパーソナルヘルスケア食のお弁当は開発済みだ。 日本人の寿命は確かに長いが、栄養調査によれば食事バランスの良い食事を取れている人は5割を下回っている。尿検査などの簡単な検査で、年齢や不調、個別の悩みに応じた、その人にあったバランスの良い食事システムが提案できるようになる時代は近い。農研機構は、そのシステムの社会実装に向けて日々取り組んでいる、と語った。