2024年9月28日(土)に品川インターシティホールでリアル開催、そして10月15日(火)~24日(木)にはオンライン開催で、「第26回ダノン健康栄養フォーラム」が開催された。今回のテーマは「腸内細菌から健康を考える」で、4名の専門家が腸内細菌研究の最前線について講演を行った。ここでは東京大学大学院 農業生命科学研究科の八村敏志氏による講演「食による免疫調節と腸内細菌」を取り上げる。
東京大学大学院 農業生命科学研究科 食の安全研究センター 免疫制御研究室 教授 八村 敏志
腸は私たち人にとって最大級の免疫臓器としても知られるようになった。そして私たちが食べ物を摂取すると、さまざまなプロセスを経て腸管から吸収されるが、主に腸管上皮に存在する腸管免疫は特徴的な反応を起こしており、この反応こそが私たちの健康状態を左右しているのではないか、と考えられるようになっている。
食品が免疫系に作用することは間違いない。これまでの研究で、免疫系に作用する食品成分としてアミノ酸・脂質(DHA・EPAなど)・糖質(多糖類・オリゴ糖など)・ビタミン・ミネラル・乳酸菌やビフィズス菌・機能性タンパク質やペプチド・ポリフェノールなどが確認されている。そして、食品成分には直接腸管細胞や免疫細胞に作用するものと、腸内細菌やその代謝物を介して、免疫系に作用するという2通りの経路を持つことがわかってきている、と八村氏。そもそも腸管には500〜1000種類、40〜100兆個もの腸内共生菌が存在しているが、腸内細菌がなければ「腸管免疫系は発達不全を起こす」ほか、「Ig A抗体産生量が低下する」、「経口免疫寛容が誘導されにくくなる」、「アレルギーが起こりやすくなる」、「腸内の炎症が起こりやすくなる」などの不具合が生じ、それが疾病の原因となることも確認されている。特に腸内細菌とアレルギーについては「衛生仮説」からスタートし、アレルギー患者の腸内細菌叢の解析研究が進むにつれ、アレルギー患者と非アレルギー患者では明らかに腸内細菌叢の組成が違うことが確認されているが、腸内に有益な効果をもたらす生きた微生物である「プロバイオティクス」や腸内細菌叢の改善を介して有益な効果をもたらす「プレバイオティクス」を意識的に食品から摂取することでアレルギー抑制が実現するのではないかという研究は今も続いている。
まず、腸内細菌の餌になることで知られる代表的なプレバイオティクス食品として、難消化性オリゴ糖(フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラフェノースなど)がある。難消化オリゴ糖を摂取すると腸内ではビフィズス菌が増殖する。マウスを使った試験では、難消化性オリゴ糖を摂取させたマウスの腸内には、腸内細菌を介してTh1細胞が増えることでアレルギー反応が抑制されることが確認されている。さらに最近の研究では、高食物繊維食も非常に有益なプレバイオティクスであることがわかっており、食物繊維を摂取することで腸内細菌によって酪酸が産生され、この酪酸によっても制御性T細胞が誘導され、腸内や体内で炎症が抑制されるというメカニズムも解明されている、と解説。
一方、プロバイオティクスは、どちらかといえば腸内細菌を直接取り入れよう、という考えに近い。例えば、妊娠中の母親及び新生児期に乳酸菌を直接摂取させた場合、子どもが2歳の時点でのアトピー性皮膚炎発症率が低下するといった研究報告が知られている。乳酸菌(プロバイオティクス)がアレルギーを抑制するメカニズムは、プレバイオティクスと同様にTh2細胞の働きが抑制することが大きいが、腸管内の樹状細胞を刺激し制御性T細胞に働きかけているという違いがあると解説。また、お茶に含まれるメチル化カテキン(茶ポリフェノール)のアレルギー抑制効果のメカニズムについては、腸内細菌を介してというよりは、ヒスタミン放出のシグナルの伝達系を直接抑制するメカニズムが解明されており、腸内細菌とは別の経路でアレルギーが抑制できる食品もあることがわかってきた、と説明。
通常の風邪、季節性インフルエンザ、新型コロナウイルスなど、私たちは常に感染症罹患の危険に晒されているが、基本的に年齢(乳幼児や高齢者)やストレス過多など、免疫が弱っている時に感染しやすい。感染症も腸内免疫で防御することが期待されているが、乳酸菌を摂取すると樹状細胞が刺激され、体内にIgA抗体が増加することで、インフルエンザなど感染予防効果が期待できることがわかっている。
また炎症抑制についても腸内細菌叢との関係が研究されている。加齢や肥満などで私たちの体内は至る所でさまざまな炎症が起こるが(慢性炎症)、これは加齢性疾患や生活習慣病(糖尿病・動脈硬化・メタボリックシンドローム)などの原因となる。八村氏らの研究グループでは漢方やハーブに含まれる「β-elemene(ベータエレメン)」を肥満マウスに投与する試験を行ったところ、ベータエレメンの経口投与で、マウスの脂肪組織において炎症性マクロファージが減少し、制御性T細胞が増加することで脂肪組織における炎症が抑制されることが確認できたと説明。しかし、高脂肪食を摂取することで腸内細菌叢は変化してしまう。肥満になると、腸管に炎症が起こりバリア機能は低下、腸内細菌叢は乱れ(ディスバイオーシス)、有害物質が体内に入りやすくなることで全身の炎症につながる。マウスが高脂肪食を摂取する際にベータエレメンを同時に摂取させることで腸内細菌叢のディスバイオーシスを多少抑制することが確認できているという。他にも植物性乳酸菌「L.plantarum(ラクトバチルス・プランタルム)」という乳酸菌の摂取(経口投与)で、肥満による腸内細菌叢のディスバイオーシスが解消され、炎症が緩和することやバリア機能が増強されること、脂肪細胞の炎症抑制作用があることが確認されている、と解説。 いずれにせよ食品による免疫調整機能は「直接作用」と「間接作用」経路があるが、例えば回腸で乳酸菌は直接作用しながらも、腸内細菌やその代謝物も作用する部位であることがわかってきている。食品成分は腸内細菌やその代謝物を介して免疫系に作用し、感染や免疫疾患、生活習慣病など私たちの健康にさまざまなかたちで大きな影響を及ぼしていることは間違いない、とまとめた。