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2024.12.20腸内フローラ・多様性とエコシステム第32回腸内フローラシンポジウム2024

2024年11月1日(金)、東京都港区のピアホールにて、公益財団法人ヤクルト・バイオサイエンス主催の「第32回腸内フローラシンポジウム2024」が開催された。本年は「腸内フローラ・多様性とエコシステム」をテーマに国内外の7名の専門家が腸内細菌叢研究の最前線について講演した。ここでは南オーストラリア保健医療研究所のGeraint Rogers氏の「神経変性と加齢に伴う認知機能低下に対する腸内細菌叢の影響」を取り上げる。

「神経変性と加齢に伴う認知機能低下に対する腸内細菌叢の影響」

南オーストラリア保健医療研究所 Geraint Rogers

英国出身のGeraint Rogers氏は、現在は南オーストラリア保健医療研究所でマイクロバイオーム&宿主健康プログラムディレクターを務めている。ロジャー氏はオーストラリアの高齢者施設と提携し、腸内細菌叢と認知機能の関連について長期間調査も行っている。また、人間の健康とマイクロバイオーム(ヒトの体に共生する細菌・真菌・ウイルスなど)の幅広い関係についても多角的に研究している第一人者だ。

オーストラリアも高齢化は深刻で、高齢者における疾病の多くが「慢性疾患」であり、この慢性疾患については症状が起こる前段階での食事や生活習慣の介入による予防が重要である、というのが世界共通の認識となっている。ロジャー氏はこれまで高齢者に多く見られる「慢性肺疾患」「急性感染症」「高齢者における神経変性(主にアルツハイマーやパーキンソン病)とフレイル」のいずれも、マイクロバイオーム、特に腸の健康状態(腸内細菌叢の状態)のネガティブな変化によって起こりやすくなることを確認している、と話す。ここでは主にアルツハイマー(認知症)を取り上げるが、そもそも高齢者はすでに複数の疾病に罹患していたり、治療の一環で抗菌薬に長期間暴露している背景があり、抗菌薬などの薬剤をほとんど使用していない若者のマイクロバイオームと比較するとその状態が大きく異なり、特に、抗菌薬を多く摂取している高齢者ほど全身の常在菌の量が少なく、腸内では短鎖脂肪酸や酪酸の量が少なくなっており、マイクロバイオームの働きが弱くなっている傾向にあり、これは世界中の先進国の高齢者に見られる傾向であると解説した。特に認知症の症状が進行している高齢者ほど腸内だけでなく全身の常在菌が少ない傾向が強いという。先進国の高齢者は、高齢になる程薬剤を多剤併用する傾向にあり、また特に抗菌剤を摂取することで腸内細菌の多様性は失われやすく、これが認知機能低下にも大きく影響しているのではないか、ということだ。

実際、腸内細菌叢の多様性が失われ、腸内のマイクロバイオームの機能が低下すると、まず顕著に現れるのが「GABA(γアミノ酸)の生成能力の低下」だと指摘。ここ15年ほどで腸内細菌の働きがどんどん解明されてきているが、脳の神経物質のセロトニンや心を落ち着ける働きがあるGABAなども腸内細菌が産生していることが解明されており、これが「脳腸相関」の仕組みであることもわかってきている。アルツハイマーは「アミロイドβ」が大脳皮質や海馬に凝集することが要因の一つと考えらえているが、体内でGABAの産生が低下すると海馬に多く含まれるはずのGABAの量も低下し海馬のGABAの量が低下すると論理的思考、ワーキングメモリー、記憶力などが低下することが確認されている。また若年性アルツハイマーを起こしているマウスは体内でGABA抑制の異常促進が起こっていることも確認できているという。また、私たちの健康の維持に重要なメカニズムにオートファジーがある。オートファジーとは細胞が細胞内を正常に維持するために細胞内の老廃物や有害物などを分解し排除するシステムであるが、高齢者の腸内ではGABAだけでなくさまざまなアミノ酸が合成されないため、オートファジーに関連するアミノ酸も十分量が産生されず、オートファジーがスムーズに進まないことで体内に老廃物が溜まりやすくなる、と解説。これは脳内にアミロイドβが蓄積することとも関連している可能性があるとした。 抗菌薬だけでなく、食習慣、生活習慣の蓄積で高齢になるほどマイクロバイオームや腸内細菌叢の多様性は失われやすくなり、特に腸内細菌叢の多様性が失われることで免疫と密接に関係する短鎖脂肪酸や酪酸が作られにくくなるだけでなく、アミノ酸の産生も下がり、それがオートファジーを低下させ体内に老廃物を蓄積させることが認知症やさまざまなフレイルの原因となっている可能性があるのではないか、とロジャース氏。地中海食など理想的とされる食事の介入でこれらがどこまで予防できるのかは今後検討の余地があるが、将来的にはマイクロバイオームの注入で慢性疾患の予防や症状の緩和につながる可能性があるとした。特に多くの先進国で課題となっている認知症については、腸内細菌叢の改善やマイクロバイオームの注入で予防する方法が確立される可能性もあるのではないか、と話した。

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