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2025.1.14腸管免疫と食事因子に関する研究

2024年11月9日(土)、オンラインにて日本栄養・食糧学会関東支部 第113回シンポジウム「腸管免疫と食事因子に関する研究」が開催された。ここでは国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 庄司俊彦氏による「機能性農産物による免疫機能の制御」を取り上げる。

機能性農作物による免疫機能の制御

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 庄司俊彦氏

庄司氏は国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)の食品研究部門に在籍し、食品成分を研究することで食品産業につなげる仕事をしている。高齢化社会の進行に伴い消費者は健康の維持・増進に関心を寄せており、中でも「美味しく健康」を実現する食生活のニーズが高まっている。農研機構はこの社会的ニーズに応えるべくさまざまな取り組みを行っているが、中でも「機能性表示農産物」の社会実装は大きな成果の一つだ、と話す。農産物の機能性表示食品登録は加工食品よりもハードルが高く、さまざまな分析や測定などにかなりの手間がかかるため、農研機構では分析や届出の支援、具体的な商品化の支援も手掛ける。すでに機能性農産物として農研機構が関与した農産物として「りんご」「みかん」「へちま」等の実績を紹介。近年は新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、消費者は感染症等の予防のために免疫機能を維持・改善する食品成分に関心が集まっている。農研機構としても、農産物による消費者の免疫機能向上の実現は一つの目標だという。いずれは日本産農産物の輸出拡大に貢献することも視野に入れながら、動物試験やヒト介入試験に取り組んでいる、と話した。

そのうちの一つが「りんごポリフェノール」だ。りんごポリフェノールは、ポリフェノールという言葉からも「抗酸化」、つまり体の錆を防ぐ効果が期待されるが、実は抗酸化機能だけでなく、腸内細菌に与える影響も見逃せないことがわかってきている、と説明。りんごの皮にはアントシアニン、ケルセチンなども含まれていて、果肉の方にはクロロゲン酸類やカテキン類、プロシアニジン類が含まれている。りんごポリフェノール(りんご由来プロシアニジン=APC)は、抗酸化作用はもちろん、認知機能の改善、内臓脂肪の減少、コレステロール低下、紫外線による炎症、抗アレルギー作用(花粉症など)、そしておもしろいところでは育毛、生活習慣予防などの機能性が確認されている。ただし、他のポリフェノールと同様、りんごを摂取してもポリフェノールは分子量が大きく体内ではほとんど吸収されない。吸収されないポリフェノールがなぜ健康効果を発揮するのか、長年研究されてきているが、最近わかっていることとして、APCは吸収されずに大腸まで届くことで、腸内細菌によって代謝され、その一部がフェノール酸やフェニルバレロラクトンなどに変化し、これが体内に吸収され機能を発揮するのではないか、と解説。現在、APCを代謝させる菌種の特定なども進められているという。APCの機能性のメカニズムを確認するために、肥満マウスにAPCを投与する試験を行った事例を紹介。2匹の肥満マウスそれぞれに低分子のAPC(吸収率が高くなるように設計)と、高分子のAPC(ほとんど吸収されないように設計)を経口投与させた場合、どちらも重量増加は抑制されたという。つまりAPCの吸収率は関係なく、APCによって腸内に何かが起こっている可能性が高いということだ。腸内細菌叢を解析してみると、肥満マーカーの比率がどちらのマウスも大きく下がり、腸内にはアッカーマンシアなどの細菌が増加していることが確認できたという。アッカーマンシアは乳幼児期から腸内に棲息する菌の一つで、肥満や糖尿病だけでなく長寿とも関係する菌と注目されているが、消化管の粘膜表面のムチンと呼ばれる粘膜物質を好む菌であり、APC摂取で腸管のムチンが増えることとも関係しているのではないか、と解説。APCについて37本の論文のシステマティックレビューを行ったところ、APCが機能性を発揮するためにはだいたい12週間の継続摂取が必要(1回あたり300g〜600gの摂取)で、いずれも血糖値の上昇抑制、肥満抑制などの効果が報告されている。しかし、腸内細菌に具体的にどのような影響を与えるのかについての論文がなかったため、農研機構では一日一個のりんごを12週間摂取するヒト介入試験を実際に行ったという。日本人の腸内細菌はいくつかのエンテロタイプ(腸内細菌叢タイプ)に分類できるが、りんご摂取で脂質代謝にどのような変化があるかを調べたところ、バクトロイテス属が多いエンテロタイプの人に特に高い効果があることが確認できたという。APCに限らず、食品成分の機能性の効果が感じられる人とそうでない人の個人差があることは、エンテロタイプによる可能性が高いのではないか、と解説した。 大麦に含まれるβグルカンの免疫に関する機能の研究成果についても解説。ユーグレナ、きのこ、大麦など、食品ごとに含まれるβグルカンの種類(結合組織や構造)は異なるが、ユーグレナやきのこ類と異なり、大麦やオーツ麦に含まれるβグルカン「(β-1,3/1,4)グルカン)」の免疫調整機能については報告がないため、ヒト介入試験と研究を行ったという。多くの論文では200g〜900gのβグルカンの摂取(日)で効果があるとされ、作用機序としてはβグルカンが腸管を刺激することで免疫発現していると考えられている。2023年の春に8週間、農研機構が開発したダイシモチ種の「もち麦100g」を使用し、対象群には通常の白米を一日100g摂取してもらう試験を行った。ちなみにこのダイシモチ(100g)には1.8gのβグルカンが含まれている。体調スコアは大麦群の方で有意に症状改善が示唆され、鼻水・鼻詰まりのスコアも大麦群の方で有意に症状が軽くなっていることが確認されたが、いずれも最終週での結果であったという。またNK細胞の活性に関する調査も併せて行ったところ、大麦群ではNK細胞の向上は見られなかったが維持があり、一方、白米群は低下が見られたという。NK細胞のベースラインが中央値以下だった人を限定して調査すると、NK細胞が低下していて大麦を摂取した人たちのNK細胞の活性が確認できたと説明。また大麦群は排便の改善が確認されており、現在、糞便中から腸内細菌叢の変化を確認する調査も行っているという。βグルカンの効果については短鎖脂肪酸が関係している可能性が高いと考えられており、βグルカンによる腸内細菌の活性により腸管レセプターに刺激を与えIgA産生などに関与していることが考えられる。しかし、まだまだわかっていないことが多く、腸内細菌の役割について、そして農産物の食品成分が腸内で機能性を発揮するメカニズムについて引き続き調査したいと話した。

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