
2025年3月24日(月)、アイメックRD主催のオンラインセミナー「免疫研究フロンティアと機能性食品ビジネスの未来~」が開催された。健康寿命の延伸に対する関心が高まる中、免疫機能の維持・向上という新たな課題がさまざまな角度から研究されているが、本セミナーでは「食と免疫研究」をテーマに3人の専門家が免疫研究の最前線について講演を行った。ここでは京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座 教授 医学博士 内藤裕二氏による「免疫老化研究の最前線〜食による健康長寿へのアプローチ」を取り上げる。
京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座 教授 医学博士 内藤裕二
日本人の主な死因はがんが圧倒的に多く、次いで心疾患、脳血管疾患、肺炎、老衰が挙げられる。肺炎は誤嚥性肺炎を含めると脳血管疾患を上回り、死因の第3位となっている。肺炎は免疫が関係する疾患であるが、高齢になるほど罹患率が高くなり、これは加齢とともに免疫が低下することで感染症リスクが増加することとも関係しているだろう。加齢とともに免疫が低下することは一般的によく知られているが、加齢で免疫が低下する原因は未だ解明されていない。また、日本では結核が過去の病気と認識されているようだが、実は依然として年間約1万人の感染者が確認されていて、世界的には「低蔓延国水準」と位置付けられている。国内の結核感染者は特に西日本に広がっている傾向にあり、大阪や京都、和歌山などで低蔓延が続いていることは忘れてはならない、と内藤氏。
結核も感染症の一種であるが、さまざまな感染症予防において最も重要なのがワクチンだ。しかしワクチンについては賛否両論さまざまな意見があり、その重要性が必ずしも認知されてはいない。今年の4月より「帯状疱疹ワクチン」が65歳以上の方を対象に助成が開始されるが、その存在や効果についての理解も十分とは言えないだろう。帯状疱疹も感染症であるが、人に移るものではなく(過去に水疱瘡にかかったことがない人には移ることがある)、水疱瘡と同じウイルスが再活性することで発症する感染症だ。帯状疱疹は顔や体の片側の神経に沿った部分にピリピリとした痛みが走り、その後に赤い発疹が現れるのが主な症状だが、実は認知症やパーキンソン病との関連が指摘されている。最新の研究によれば、帯状疱疹のワクチン接種が認知症予防につながる可能性も研究されている。さらに、似たような感染症である麻疹(はしか)は、感染すると私たちヒトの獲得免疫全体を低下させることが知られるようになり、その結果、他の感染症へのリスクも増加することがわかっている。日本とは違い、米国では幼少期に麻疹の予防接種が義務付けられていないこともあり、現在麻疹が大流行しており、日本でも当然注意が必要である。また、パンデミックとなったCOVID-19であるが、感染後に脳卒中のリスクが高まることが報告されており、長期的な認知機能への影響について現在研究が進められている。感染症といえば風邪やインフルエンザのようなものをイメージし軽く見てしまう人も多いが、いくつかの感染症においてはワクチンで予防することが重要であり、もし感染した場合、将来にわたって、何らかの影響が残る可能性を考えなければならない、と内藤氏。
とはいえ、日本も含む高所得国では、感染症よりも肥満関連疾患(いわゆる生活習慣病)が死因の上位を占めている。例えば日本の成人男性の約4割がBMI25以上の肥満に該当し、肥満に伴う糖尿病の増加は特に問題視されている。肥満関連疾患は感染症と無縁のように思われているがそんなことはない、と内藤氏。かつて糖尿病患者の死亡原因は壊死や血管疾患とされていたが、現在は糖尿病からのがんや感染症による死亡が増えており、これも免疫力の低下と密接に関係していると言える、と指摘。特に糖尿病患者の40%ががんで死亡しており、男性では糖尿病による免疫低下からの肺がんになるリスクが特に高いことがわかっているという。また、糖尿病からの慢性腎臓病(CKD)も増加しており、これも免疫力低下に直結することがわかってきている。
そして最新のプロテオーム解析(生体のタンパク質の網羅的な解析)を用いた研究によれば、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が免疫機能の維持に寄与していることが示唆されており、特に酪酸産生菌が多い人は重症感染症の罹患率が低いことがわかってきている。つまり腸内細菌叢を高める食事は糖尿病や腎臓病の予防にも繋がり、免疫力を高める食事につながると言えるだろう。腸内細菌叢の変化が生物学的年齢の指標となる可能性が示唆されていて、さらに研究が進めば老化のエイジングクロック(Aging Clock=老化の進行度合い)を測定することで、免疫力の測定もより効果的に実現できそうだと話す。
健康長寿の地域として知られる京都府京丹後市では、健康長寿の秘訣として住民の免疫機能の高さが注目されている。同地域の多目的コホート研究によると、インフルエンザや肺炎の罹患率はわずか1.6%であり、免疫が非常に高いことが示されている。特に腎機能マーカーであるシスタチオンCが年齢と強い相関を示しており、免疫指標としての可能性が指摘されている、と解説。現在、食品の機能性分析にはCyTOF技術が活用されはじめており、腸内細菌をターゲットにした食事の重要性は今後ますます科学的な証明に基づくだろう、と解説。 日本における主要な死因の多くは免疫機能の低下と関係しており、感染症予防(ワクチンの正しい理解)と生活習慣や食事の改善という双方向でのアプローチが不可欠だ。今後の研究により、免疫機能の測定や指標が確立され、機能性成分による介入についてもより具体的に解明されることが期待される、とまとめた。