2025年11月26日(水)〜28日(金)、東京ビッグサイトにてウェルネスフードジャパン2025が開催された。ウェルネスフードジャパンは、健康食品・機能性食品・サステナブルフード・サプリメントなど健康食品・素材を持つ企業が世界中より出展する日本最大級の展示会で、健康食品や機能性食品素材業界関係者などが全国より3日間で4万人以上来場し、熱心な商談や意見交換、最新動向の調査などが行われた。ここでは城西大学薬学部の片倉賢紀氏による講演「脂質を通して美と健康を研究する」を取り上げる。本講演では、特に「脂質(脂肪酸)」に焦点を当てた研究の現状と、今後の展望について語られた。
城西大学 薬学部 准教授 片倉賢紀
城西大学薬学部は、薬剤師を養成する薬学科、研究開発を行う薬科学科、管理栄養士を養成する医療栄養学科の3学科で構成されている。この3学科併設は日本で唯一であり、薬だけでなく栄養にも強い人材の育成を目指しているからだ、と片倉氏。そして片倉氏が所属する薬科学科では、医薬品のみならず機能性食品や化粧品の研究開発も行っているという。
本題である「脂質」について、片倉氏はその定義の曖昧さを指摘。糖質やタンパク質が構造によって定義されるのに対し、脂質は「生物の体内に存在し、水に溶けにくく有機溶媒に溶けやすいもの」と定義されている。これは極めて曖昧と言える。その中でも「脂肪酸」は、大きく2つに分類され、常温で固体の「飽和脂肪酸(バターやラードなど)」と、常温で液体の「不飽和脂肪酸(オリーブオイルや魚油など)」に分類される。片倉氏は、特にDHAやEPAといったオメガ3系脂肪酸(不飽和脂肪酸)を中心に研究を行っていて、また一般的にも脂質の研究といえば不飽和脂肪酸であることが多い。
オメガ3摂取の現状と「魚離れ」
オメガ3の代表といえばDHAやEPAであり、その健康効果も広く知られるようになっている。そしてDHAやEPAを含むサプリメント市場は世界中で急成長しており、認知機能だけでなく、皮膚の健康(美肌)やアレルギー対策、血液の健康を目的に摂取する消費者も多い。この辺りの研究は出尽くしているような印象もあるが、例えば皮膚の健康にはオメガ3よりもオメガ6の方が重要であるというエビデンスも出てきていて、まだまだ解明されていないことも多く残っているという。
世界ではどれくらいオメガ3が摂取されているか、「オメガ3摂取量マップ(Omega-3 Map)」というものを提示。日本は比較的摂取量が多いエリアに属しており、これは北欧諸国と同程度である。世界的に見て「日本はオメガ3が十分摂取されている国」とされているが、実情は漁獲量および魚介類摂取量ともに年々減少しており、2008年以降は肉類の摂取量が魚を大きく上回っている状況が続いている。特に若年層の魚離れが顕著で、このような食生活でオメガ3が十分に摂取されているかは懸念があると片倉氏。実は、世界的には健康志向の高まりにより漁業生産高は右肩上がりだ。しかし日本では生産高が下がり続けており、魚を食べる機会自体が減っているのが現状で、まずは日常の食生活のあり方、つまり魚食を復活させていくような工夫が必要かもしれない、と話す。
一方で「魚を食べれば健康」というイメージも、もはやイメージだけのものになっている可能性があるので注意が必要だと指摘。魚に含まれるDHA・EPA量にも変化が生じているからだ。実は魚自身はDHAなどを合成できず、プランクトン(生物濃縮)によって体内に蓄積している。かつてはどの養殖魚でも餌には魚粉を使用していたが、コスト高騰により植物性の餌への切り替えが進んでいる。その結果、同じ魚(サーモンなど)を食べても、昔に比べてDHAなどの含有量が半減しているケースが報告されているという。こうした状況を受け、魚以外からDHAやEPAを供給源にしようというマーケットも登場している。例えば、DHAを産生する「オーランチオキトリウム」などの微細藻類(びさいそうるい)の活用や、DHAを産生するように遺伝子組み換えによって改良された植物キャノーラ(ナタネ)などは、すでにアメリカなどで実用化されている。
このような現状がある中で、片倉氏らの研究室では、不飽和脂肪酸を用いた腎不全予防の研究を行っているという。最新の研究では、不飽和脂肪酸を摂取することで腎不全の進行(繊維化)を抑制できることが判明し、 また、腎不全になると目や心臓など全身の臓器に悪影響が及ぶが、オメガ3の摂取により、網膜機能の低下や心臓の繊維化が改善することも確認されたことを報告。やはり、どんな形であっても良質なDHAを日々適量摂取することは健康維持に効果があると言って良いのではないか。もちろん魚食が難しければサプリメントという選択肢も考えられる。そこで市販のDHAサプリメントを研究室で分析したところ、多くのサプリメントでは表示通りのDHA量が含まれていることが確認でき、サプリメント由来のDHAにも期待が持てるのではないか、と片倉氏は話す。しかし、ほとんどのサプリメントにはそれ以外の脂肪酸も多く含まれていることが同時に確認できたという。しかもその脂質の種類や含有量は製品ごとに大きくばらつきがあったという。研究用の純粋なDHAとは異なり、食品としての脂質にはさまざまな脂肪酸が当然混ざった状態であるため、単一成分ではなく「脂肪酸バランス」としての機能評価が必要であると片倉氏は指摘。
また、近年普及している「代替肉(大豆ミートなど)」についても言及があった。大豆由来の製品はリノール酸(オメガ6)が多くなる傾向がある。よく知られるように、オメガ3とオメガ6は体内での働きや役割が異なり、それぞれの摂取量、つまりバランスが何よりも大事である。理想的な比率は、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸が2:1とされるが、現在の日本人のオメガ6:オメガ3のバランスは、10:1ともいわれ、代替タンパク質の摂取量増を目指していくのであれば、そこに含まれる代替脂質の摂取量や脂質バランスの検討は今後課題になるのではないか、と指摘。 片倉氏は「パーソナライズド(個別化)」の重要性にも触れた。既存のサプリメント提案システムは、AIなどを活用し非常に優れたものが登場しているが、ほとんどのケースで脂質の観点が欠けているという。今後は、個人の体質や体調、年齢、性別等に合わせ「どの脂質をどのバランスで摂取すべきか」を提案する技術や、天然素材・遺伝子改変素材を含めた多様な脂質供給源の研究開発が必要になっていくであろう、とまとめた。

