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2026.3.161.5万人の腸内細菌データが導く「精密栄養」の最前線~健康・美容に活かす食とヘルスケアの新たな戦略~健康博覧会2026

2026年2月25日(水)〜2月27日(金)、東京ビッグサイトにて「健康博覧会2026」が開催された。44年以上にわたり健康・美容産業のハブとして進化を続けてきた「健康博覧会」であるが、昨年の2025年は約3万人以上が来場し、今年も約460社の出展社と約3万6000人の来場が報告された。国内外の大手からスタートアップ、異業種まで多数の来場者が訪れる健康・美容・ウェルネス分野の国内最大級B to B展示会。ここで行われた出展社セミナーの一部を取り上げる。

(国研)医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所 副所長
ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長(兼) 國澤 純 氏

「健康のために食物繊維を摂っているのにお通じが改善しない」「テレビで紹介された健康食材が自分には効かない」。こうした悩みが解決する時代を迎えているという。今、栄養学の世界では「一律の健康法」から「個別の最適解」へと変化を迎えているが、その中核を担うのが、1.5万人規模のデータ解析から導き出された「精密栄養学(プレシジョン・ニュートリション)」という考え方である。

私たちは食に対して、単なるエネルギー補給(第一機能)や、美味しさ(第二機能)だけでなく、ますます「食べて健康になりたい(第三機能)」という期待を強めている。しかし、科学的に有効性が認められた食材であっても、その効果を享受できる「レスポンダー(反応者)」と、一生懸命食べても効果を感じられない「ノンレスポンダー(非反応者)」に分かれるのが現実である。精密栄養学とは、その人の遺伝子、ライフスタイル、そして何より「腸内環境」を科学的に分析し、メカニズムに基づいて個人に適した食事を提案する学問である。「なぜ、あなたにはこの食材が効くのか、あるいは効かないのか」を予測し、個別のアドバイスを行うことが、これからの健康長寿の鍵となる、と國澤氏。

腸内環境を整える「腸活」がこれほど注目されるのは、腸が単なる消化管ではなく、全身の健康を司る司令塔だからだという。腸は「蠕動(ぜんどう)運動」というポンプのような動きを絶えず行い、食べたものを消化・吸収し、不要なものを排泄する。この動きが停滞すると、いわゆる「カチコチの腸」になり便秘を招く。さらに重要なのが、腸内にひしめく膨大な数の「免疫細胞」である。免疫細胞は腸の中を歩いたり、猛スピードで走り回ったりしている。腸は、これらの免疫細胞が「何に反応し、何に反応すべきでないか」を学ぶ、いわば「教育現場」だ。 例えば、花粉症の時期に特定の菌を摂取して症状が和らぐのは、腸で「花粉に過剰反応してはいけない」と学んだ免疫細胞が、血流に乗って鼻の粘膜にたどり着き、そこで炎症を抑える働きをするからである。腸内環境を整えることは、アレルギーや感染症、さらにはがんやメンタル疾患の予防にまで直結している、と解説。

現代人に圧倒的に不足している成分が「食物繊維」だということもよく知られるようになった。かつて食物繊維は「食べ物の残り」と呼ばれていたが、今やその認識は過去のものとなった。食物繊維は、腸内細菌(善玉菌)によって分解され、「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」という驚異的な健康物質へと作り替えられる。短鎖脂肪酸、特に「酪酸(らくさん)」には主に2つの大きな働きがある。1つ目が「腸のエネルギー源」で、このエネルギーがあるからこそ腸の蠕動運動の燃料となり、排泄を促す。2つ目が「免疫の司令塔」で、暴走する免疫を抑え、全身の炎症を鎮める役割を果たす。しかし、ここで重要なのが「菌のリレー」という概念だと國澤氏。食物繊維を口に入れれば自動的に短鎖脂肪酸ができるわけではない。お腹の中では、複数の菌がバトンを繋ぐ共同作業が行われている。「第1ステップ」として、納豆菌などの「糖化菌」が、食物繊維を「糖」に分解する。すると「第2ステップ」としてビフィズス菌や乳酸菌が、その糖を材料に「酢酸」や「乳酸」を作る。さらに「第3ステップ」として、酪酸菌が、その酢酸や乳酸を受け取り、最終的な「酪酸」を合成する。もし腸内にビフィズス菌が極端に少なければ、第2ステップでリレーは途切れてしまう。いくら食物繊維(材料)を投入しても、最終ランナーである酪酸菌にバトンが届かず、酪酸は作られない。これが「精密栄養」の視点から見た、個人差の正体である、と解説。

研究を進める中で、リレーの最終走者である「酪酸菌」の多くは、自分で「ビタミンB1」を作ることができないこともわかったと言う。ビタミンB1は、本来は人間が食事から摂取すべき栄養素だが、多くの腸内細菌は自給自足が可能である。しかし、なぜか酪酸菌はこの能力を欠く。マウスを用いた実験では、ビタミンB1を欠いたエサを与えると、腸内の酪酸菌が激減し、酪酸の生産が止まってしまうことが確認された。 つまり、食物繊維を摂るだけでは不十分であり、豚肉や大豆、玄米などに含まれるビタミンB1をしっかりと摂取し、酪酸菌の生存環境を整えることが「戦略的な腸活」には不可欠だ、と説明。

腸内環境において、理想的な状態とは何か。その答えは「多様性(ダイバーシティ)」にある、と國澤氏。特定の菌が突出しているよりも、カラフルで多種多様な菌が共生している方が、外敵や環境変化に強い。

そのために意識したい腸活が「食習慣をマンネリ化させない」ということだ。同じブランドのヨーグルトや同じ銘柄の納豆ばかりを食べ続けると、特定の菌だけが優遇され、多様性が失われてしまう。定期的に種類や銘柄を変え、腸内の菌たちに異なる刺激を与えることが肝要である。そして「一度冷ましたごはん」を食べる、というのもおすすめの腸活だという。白米は血糖値を上げやすいため敬遠されるが、一度炊いたご飯を冷ますことで、デンプンが「レジスタントスターチ(難消化性デンプン)」という物質に変化する。これは食物繊維と同様、腸内細菌の格好の餌となる。おにぎりや冷や飯は、実は優れた腸活メニューなのだ。最も推奨されるのが「毎日の味噌汁」、と國澤氏。調理のコツは「頑張らない」ことだ。冷蔵庫を開け、2〜3日前に使って余っている野菜、キノコ、海藻、豆腐などをすべて刻んで放り込む。味噌汁は大抵の食材を受け入れ、味を整えてくれる。 納豆が苦手な人は、味噌汁に入れて「納豆汁」にすると匂いが和らぎ、さらにキムチを加えれば発酵食品の相乗効果が得られる。毎日違う具材を食べるだけで、自然と多様な栄養と食物繊維が摂取できる。

この精密栄養学を社会全体に普及させる取り組みが、内閣府のプロジェクトなどを通じて進んでいるという。かつて、腸内細菌の全容を調べるには数週間の時間と、数万円の高額な費用が必要であった。しかし現在「抗体技術」を用いた画期的な簡易検査キットの開発が進んでいる。これは、コロナ禍の抗原検査のように、特定の菌(ビフィズス菌など)の有無を短時間で安価に判定できる技術で、すでに大阪万博の関連プロジェクト等で数万人規模のデータ収集が行われ、実用化の段階に入っている。また、将来的には「個別提案型レストラン」や「スーパーの腸活コーナー」「自宅トイレでの腸内環境チェック」など、より手軽に自分の腸内環境を把握し、それに応じた食事を意識して摂取するのが当たり前になる時代が来る、と話す。 2万人のデータによって、一人ひとりのお腹の中に異なる物語(菌のリレー)があることがわかり、これによって「一人ひとりの健康の最適解」が異なることが解明した。まずは、自分の腸内細菌叢を知ることからはじめる必要がある。精密栄養学が個人レベルで実現すれば、私たちは迷うことなく自らの手で健康をデザインできる時代を生きられる、とまとめた。

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