心の病を訴える人が増えている。とくに若年層を中心に、パニック障害が急増しているという。職業や生活環境、さらには食糧など、いろいろな原因が考えられるが、医師や患者はこうした状況にどう対処したらいいのか。ホリスティックを中心とする内科、心療内科、精神科のクリニックの院長として、連日多くの患者と接している降矢氏に伺った。
降矢 英成(ふるや えいせい)
赤坂溜池クリニック院長
< 略歴 >
東京医科大学卒業。同大学第3内科、LCCストレス医学研究所心療内科、帯津三敬病院などを経て現職。 日本心身医学会認定医。日本心療内科学会登録医。日本代替・相補・伝統医療連合会議(JACT)認定医。NPO法人日本ホリスティック医学協会副会長。
医師は患者の心身両面から診ないといけない
赤坂溜池クリニック院長 降矢 英成 氏
— たくさんの患者と接しておられて、最近とくにお感じになる病状や特徴などをお聞かせください。その原因は何だとお考えでしょうか
降矢:私は、心療内科を中心に診療していますので、ほかのことはあまりわかりませんが、私のところでは、呼吸が苦しくなったり、あわてたり、死んでしまうのではないかと思ったりする「パニック障害」が、非常に増えています。
過呼吸とか過換気とかいった症状は以前もありましたが、10年くらい前まではあまり言われていませんでした。
こうした症状などで心療内科を訪れる患者は、職業でいえば学校の先生やIT関係の仕事をしている人がとくに多いです。時代によって、この危険業種は変わっているのだと思います。
教師は、ストレスがたまりやすく、ウツ傾向になる人が多いのですが、これは、昔と違って教師になるという価値観や魅力が薄れてきたことと、教育の制度がよく変わることが原因ではないでしょうか。
IT関連のシステムエンジニアは、長時間にわたって機械的な仕事を続けるというハードワークが、心に負担をかけていることに因ると思います。
こうした職業からくる原因のほかに、一般的な医療の面で、健康増進という点から考えて、最近食品の質が落ちていることが気になります。農作物などは、形は昔と同じでも、成分や栄養素が少なくなっている。これは、土壌がやせてしまったことや、農薬を使いすぎていることなど、環境の問題に起因していると考えます。
— これは大きな問題ですね
降矢:汚染されて栄養分がなくなってしまった土壌を元に戻すには、何十年もかかるでしょう。それまでの間は、足りない部分を補うものを栄養学的に摂らなくてはいけません。
基本的に補うものとしては、ビタミンやミネラルなどが中心ですが、それでも足りないときは、症状に合わせてハーブなど免疫賦活のサプリメントを摂ったほうがいいでしょう。
私自身の健康法として、心のコントロールと癒し的に森林療法をやっていますが、いま、生体の情報伝達にかかわるものとして糖鎖に注目しています。
胃液が濃くて歯が強かった原始人は食べて消化できたものが、現代人にはできないので、不足してしまうのです。糖鎖は、自然治癒力を高めるだけでなく、治りにくかった慢性病にも効果があります。
健康増進の意味から、喜ばしくない現状を憂い、環境や農業、食品の面から、昔のように普通の栄養素が入っている食品が早くできるよう期待しています。
— 病気になるということ、治すということは、そもそもどういうことでしょうか
降矢:病気になる原因は、さまざまです。人や病気によってちがいますし、2つ3つの原因が重なっている場合もあります。一律ではありません。ですから、治し方についても、単純ではありません。幅があります。
医師は、患者の病状だけを診るのではなく、ホリスティックの観点から患者と人生観や価値観などをよく話し合いながら、患者本人がどういう治し方を希望しているか、どんな人生の目標をもっているかしっかりやりとりして、治療方法を決めた方がいいでしょう。
— それは、先生のところの方針ですね。もう少し詳しくお聞かせください
降矢:私のクリニックは、「日本ホリスティック医学協会」の会員である医師や看護師、心理療法士などの医療関係者の有志が出資・運営しているのが大きな特徴で、心療科目は、内科、心療内科、精神科。治療法は、心理療法からカウンセリング、食事療法、食生活指導、鍼、指圧、カイロプラクティック、リフレクソロジー、アロマテラピー、波動診断などなど、多岐に亘っています。
私どものクリニックは、先ほども述べたとおり、複数のそれぞれの専門家が患者の人生観や健康観に合わせてやりとりしながら治療方法を決めるというやり方をとっています。時間がなくて、現代医学の薬を使って治療を進めるというのも一つの方法ですが、私どもは現代医学の便利なところだけを押しつけるのではなく、時間をかけて自然治癒力を上げることをまず考えます。
現代医学には現代医学のいいところがありますが、それを一方的に押し付けるよりも、自然治癒力を上げるために、ホリスティックの見地から、心、体、スピリットのすべての面から考えて習慣づけをするようにしています。
— ところで、先生が最初からホリスティック医療の道を選ばれたのは、なにかきっかけがあったのでしょうか
降矢:医大を受験する頃、悩みが原因して心と体の不調を感じるようになり、そんな自分を患者に置き換えたとき、医師は患者の心身両面から診なくてはいけないと感じました。これが最初のきっかけでしょうか。
それから、医学生の頃、従来の神経科に代わって心療内科という言葉が報道され始めたり、漢方に人気が高まったりして、おのずとこの方面に興味を持ちました。
現代医学のいいところをベースに、漢方や心療内科を組み合わせるのがいいのではと思った訳です。アンドルー・ワイル博士の「人はなぜ治るのか」という本の影響もありますし、ホリスティックという当時は新しかった言葉に興味を持ったのも、きっかけです。
心身医療はホリスティックのベースだと思いますし、心身相関の影響を医師がもっと理解したら、患者にとっていいことだと思います。
— ところで、がん対策基本法の施行や健康診断の義務化など、医療の環境は激変していますが、こうした傾向をどうお思いでしょうか
降矢:医療費は上がっているし、がん患者は減っていない。治癒率は上がっているが、死亡者や患者は増えている。こうしたことを考えると、本当の医療をやるには予防や健康増進にもっと予算をつぎ込むべきだと思います。ですから、 国を挙げてのこうした施策はいいことだと思います。
生活習慣病という言葉が出てきたのはいいことですし、メタボリックシンドロームという言葉は現実をわかりやすく表現しています。
個々人にとっては、薬を飲むのではなくて、運動をしたり食生活を見直したりといった習慣づけはとてもいいことだと思います。
また、健康増進は個人と医師と国だけではできませんから、これに企業や健保に義務を課したことは評価できると思います。
— 最期に、先生はサイモントン療法に精通されておられるそうですが
降矢:心身医療はがんを中心に置いていませんが、心身相関とがんを考えると、サイモントン博士の「がんのイメージコントロール」にたどり着きます。イメージという、心よりもぼうようとしたところで健康に左右されるというところが特徴です。
日本では、一部誤解もあり、メカニックで理論的すぎるなどと批判されたこともありましたが、日本では日本に向いた方法を考えて実践すればいいでしょう。要は、大切なのは心のケアという考えに立って、患者の心の悩みや不安にちゃんと答えてあげることだと思います。