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2012.1.11「食」による「予防医療」、報道のあり方を問う~医療費34兆円、疾患予防に対する「食」の役割を見直す時

UBMメディア株式会社 代表取締役社長・エグゼクティブ会議事務局長 牧野 順一 氏

国民医療費が年々膨れ上がっている。今や税収37兆円に対し、医療費が34兆円。生活者は「疾患への予防意識」を高め、医療も「治療」から「予防」へと大きく舵取りを行う必要性が叫ばれている。疾患予防といえば、やはり日頃の「食」が重要なカギとなる。今、アメリカでは現代栄養学の修正を迫るような書籍『THE CHINA STUDY(ザ・チャイナ・スタディ)』)が話題になっている。UBMメディア㈱代表取締役の牧野順一氏らに「食」をベースにした予防医療、報道のあり方などを伺った。

【 鼎談 ” 「食」による「予防医療」、報道のあり方を問う” 敬称略 】
牧野順一:UBMメディア㈱代表取締役 健康産業新聞など業界専門誌を発行 健康博覧会、食品と開発展、統合医療展など開催
佐藤八郎:(株)グスコー出版代表取締役 『フィット・フォー・ライフ』など話題の健康関連書籍を出版。09年12月に『葬られた「第二のマクガバン報告」(上)』を上梓、各方面で反響を呼ぶ
浜野夏企:(株)グラフィックアーツ代表取締役 国内外の健康情報を集約したHealth Net Mediaを運営

「食」による「予防医療」、報道のあり方を問う~医療費34兆円、疾患予防に対する「食」の役割を見直す時

事務局:医療費が34兆円とうなぎのぼりで、そのうち国の税収さえ超えかねない状況です。病気の予防には、やはり適切な「食」の摂取が大切で、中でも、健康食品はビタミン・ミネラルや栄養成分の欠落した加工食品の欠陥を補う、人々の健康維持に有益なものといえます。また術後の栄養補給においても重要な役割を果たします。ただ、薬事法や健康増進法による表現上の規制で、生活者に健康食品が正当に評価されていない側面もあるのではないかと思われますが。

浜野: 先日、「都民フォーラム」に参加して、都の発行している健康食品に関する冊子やリーフレットを見て驚きました。「健康食品ウソ?ホント?」という冊子には冒頭から「健康食品は生活習慣病やがんなどの病気の治療に効果があるのよね—×ウソ」、「誤解していませんか?健康食品」というリーフレットには「健康食品は、病気や体の不調を治すものではありません」と謳っています。実際、国内の健康食品といわれるものを全て検証したうえでこうした判断を下されたのか、薬事法で冊子やリーフレットにそうしたことを謳うよう指導しているのかどうか、あまりに精緻さに欠ける表現で、よくここまで言い切れるものだと。

事務局: 健康食品の業界ではこうしたことにどのように対応されていますか。

牧野:2007年12月に、エグゼクティブ会議というのを発足しました。健食の販売メーカーの7割くらいが集まっています。きっかけは、その年の4・13事務連絡で、「サラサラ」とか「スッキリ」という表現が薬事法違反だと指摘されたことです。

ただ、これは通知・通達の類ではなく単に広告専門官、1役人の事務連絡でした。それで、こうしたことは放っておけない、薬事法の解釈上、ものが言えないというのはおかしい、適正な表示が必要ではないかということになりました。もちろん法は遵守しなければいけません。しかし、行政が法を拡大解釈して乱用しているとすれば問題です。法治国家にあってはならないことです。都の職員が法律の枠を超えて取り締まることができるという状況を作っているのは皆さんの責任でもあると、企業の方々に呼びかけました。

健康食品業界を正しく指導するという名目で、都がやっていることは健食叩きではないか。僕らは言葉狩りといっていますが、例えば、「階段の上り下り」という表現も薬事法違反だといいます。何故かと聞いたら、総合判断だと。総合判断というのは、全体的にみての判断であって、ひとつを持って薬事法違反というのはおかしいと指摘しました。

事務局: 薬事法による表現規制で、健康食品の本来の役割が十分に果たせてないのでは。もちろん、玉石混交といわれるように、全ての健康食品が有用というわけではありませんが。

浜野:健食については、昭和46年の薬務局長通知以来、疾患への有効性が立証されても、販売に際してはそれを標榜できないことになっています。言葉足らずの遠回しな表現にならざるを得ません。昭和46年というと、今から40年前です。この間、エビデンス(科学的根拠)のある健康食品も登場しています。時代錯誤の法に縛られ、はたして国民に不利益がもたらされなかったか。国も「治療」より「予防」を主軸にしなければ、財政が立ち行かないところまできています。この40年間、「食」による「予防医療」をないがしろにしてきたツケが今回ってきているのではないか。

牧野:企業はもちろん法を守らなければいけませんが、大事なのは、法が現実にそぐわなければやはりそれを変えなければいけないということ。それをきちっと主張しないと何も変わりません。

事務局: 「フードファディズム」という言葉があります。健康に関わる食品が槍玉にあげられますが、「メディアによる食の情報を過大評価し、自身で正常な食の栄養管理ができなくなること」らしいです。

浜野: 高齢化社会の到来や国民の健康志向の高まりもあって、90年代あたりからTVで健康情報が盛んに流れるようになり、一方的な押しつけ情報で「フードファディズム」が生じがちだったかもしれませんが、今はネットでいろいろ調べられます。視聴者にメディア・リテラシー(読み解く力)がついた分、「フードファディズム」に陥ることもなくなったのではないかと思います。

佐藤:TVの健康情報番組が次第に減っていきましたが、それもネットの影響だと思います。TVのあの情報は本当かなって、後でそのHPを見るとそこだけ載っていなかったりして、いいかげんな情報だということがわかってくる。以前ある番組で、アメリカの砂糖の消費量は日本の倍で、日本は砂糖の摂り方が少ないからガンが増えているなどといっていました。それで、1日にこれだけ摂りましょうと出てきたのがショートケーキに団子、まんじゅうです。ネットではみごとにその部分がカットされていました。

浜野:健康情報は薬事法や健康増進法の規制であいまいにならざるを得ない。そこから、「フードファディズム」へとつながることもあります。視聴者のリテラシーに期待するしかありませんが、もうひとつ問題なのは、国や行政機関による「フードファシズム」ともいうべきもの。

佐藤:これが正しいという押しつけですね。

浜野:国民の健康にとって本当に有益な情報が、国や行政機関にゆがめられていないか。「小さなウソは見抜けるが大きなウソは見抜けない」といった、意図的な情報操作が行われていないかということです。日本の「食育」は、栄養政策は、本当にそれで正しいのかということです。

事務局: アメリカで今、『THE CHINA STUDY(ザ・チャイナ・スタディ)』という本がベストセラーになっています。09年12月に、佐藤社長のグスコー出版で、翻訳版が『葬られた「第二のマクガバン報告」(上)』というタイトルで出版され、各方面で反響を呼んでいますね。食品・製薬・医薬業界と癒着していた米政府が国民に有益な大規模疫学調査の結果を表に出ないよう故意に抑えつけてきたということで、この本の中で、アメリカのゆがんだ栄養政策の内実やそれによってどれほど国民の健康がないがしろにされてきたかが紹介されているといいますが。

佐藤:『葬られた「第二のマクガバン報告」』は、上、中、下の3部作で、上巻を昨年12月に発刊しました。上巻では、T・コリン・キャンベル博士の中国での大規模疫学調査の結果から、肉や牛乳の動物性たんぱくがガンを促進することが判ったということを紹介しています。中巻では、食事を変えたことで、ガンが減り、糖尿病も骨粗しょう症もアルツハイマーも改善されたということが症状別に出てきます。結論はみんな同じ。動物性たんぱくを減らせば病気の改善が進むということです。下巻では、なぜそうした研究成果がこれまで世に出てこなかったのか、その内幕が明らかにされています。数多くの既存の団体が自らの利益を守るためにその情報を潰しにかかったのです。

浜野:なぜ穀菜食が良いのか、なぜ肉がだめなのか、マクロビでもさんざんいわれてきたことですが、何かと異端扱いされてきました。分析学的カロリー現代栄養学がようやく、なぜ動物性たんぱくがダメなのかということに目覚めたということです。

事務局: タイトルにある『~マクガバン報告』というのは、健康食品業界の方々にもなじみ深いものだと思います。1975年にアメリカ上院のマクガバン議員が「健康と食物」に関する世界的な大規模調査を行い、「マクガバンレポート」として発表し、アメリカの栄養政策の見直しが始まりました。残念なのは、その後に続くはずの、国民にとって有益な疫学研究の成果が、何らかの圧力で、ことごとく闇に葬られてきたのではないかということです。本来ならば、正しい食事改善で病気の予防ができて、アメリカも日本もここまで国民医療費が高騰して国の財政が圧迫されるような事態に至らなかったかも知れません。

牧野:「マクガバンレポート」が出た当初、僕らは大変驚きました。その後、「食物・栄養とガン」の研究レポートが出て、その流れで、1990年くらいに、国立がん研のDr.ピアソンが国家プロジェクトということで、「デザイナーフーズ計画」を立ち上げました。それで、ピアソンを呼ぼうとしたのですが、突然首を切られたのか、プロジェクトそのものがなくなっていました。その頃、日本では機能性食品の議論が始まったばかりで、みんな「デザイナーフーズ」に関心を持っていました。フードピラミッドの頂点ににんにくやブロッコリーが入っていて、すごいといっている間にアメリカに行ったらピアソンはどこにいるのということになって。つまり、これでいえば、葬られたということなのかな。

佐藤:キャンベル博士らによる「食物・栄養とガン」レポートが公表されたのが1982年でしたが、このレポートも医師たちによる国立ガン協会や、また米国食肉協会などから潰しや中傷に遭います。結局、政府の食事指針に反映されることなく葬られ、この情報を知った国民もどちらの情報がいったい正しいのか、本当のところは知らされないままでいるわけです。そうした経緯は『葬られた~』の下巻に出てきます。

牧野:日本にはこの手のことを研究したり、評価したりする学者がいない。野菜でガンのリスクが半減するとか、そういうものが世に出てこない。本来ならばこうしたデータをヘルスクレーム(健康強調表示)にして国民に示さなければいけない。この本の内容をどういうふうにとらえるかは本人次第ですが、いろいろな選択肢があっていいわけで、そこだけは残しておかなければいけない。

浜野: これを読むと、肉や牛乳は、せいぜい酒やタバコのような嗜好品の類にカテゴライズされたほうがいいくらいのものでしかないことがわかります。嗜好品だから摂りすぎると弊害が出る。それでも肉や牛乳が大好きだという人は、食べたいだけ食べ、飲みたいだけ飲めばいい。最終的には、「自己責任」です。個々人が自分の体でその代償を支払うことになる。不幸なのは、なにも知らされないで、体に良いと思い込んでせっせと摂っていること。本当に必要な情報が産業界や政府の画策で、操作・隠ぺいされて表に出ていない、あるいはゆがめられていることが怖い。国や公の機関による「フードファシズム」などあってはならない。正しい栄養学が開示されないといけない。

事務局: 国民の医療費が34兆円に膨れ上がっています。これからますます「予防医療」の必要性が高まるわけですが、医者は治療だけではなく、どうしたら病気を「予防」できるかということを患者さんに的確に指導しなければ医療費の高騰をくい止めることはできないでしょう。3人に一人がガンで亡くなるといわれます。ガンの「早期発見・治療」が大事といいますが、もっと大事なのは「早期予防」ではないでしょうか。医療従事者には「早期予防」という観点から的確な指導をしていただきたいものです。「予防」ではお金にならないといわず、本来病人が出ないようにすることが医者の務めなわけですから。

佐藤:一番幸せな国はお医者さんが貧乏している国だといいます。僕の知っている歯医者さんですが、治療した後、おやつを果物にしなさいとか、食事を変えなさいと指導するといいます。そうすると、再発・来院が激減するらしいのです。そのお医者さんに、患者さんが少なくなったら困るのじゃないですかと聞いたら、噂を聞いて他の町からも人が来るだろうし、もし日本中にそれが広がって、日本の人達の患者が減り、歯医者が儲からなくなったとしても、それで虫歯がなくなるからいいじゃないですかといっています。

浜野:「治療医」ばかりじゃなくて、「予防医」という職業があってもいい。もちろん、日頃の「食」による病気予防です。金にはならないけど。医者が栄える、ということ事態よくよく考えてみればおかしい。「治療」に研究費や労力を注ぐ前に、まずやらなきゃいけないのは「食」による「予防」の研究です。それを、徹底的に研究して病人を1人も出さないこと。それがまず医者の果たすべき役割ではないでしょうか。

日本で、医者は病気予防のための栄養学というものを知らないのか、知っていてもやろうとしないのか。本気でこの世から病人をなくそうと考えているのか。患者もコンビニのように安易に病院を利用して大量の薬剤をもらう前に、どうしたら国の医療費を無駄に使わないで済むか、「薬剤」ではなく、「正しい食事」で体がどう変わるか、この『葬られた~』を読んで、もっと真剣に考えたほうがいい。国も医療費の削減を本気で考えているのなら、もっと「予防」の研究に力を入れるべき。健食企業も健康食品を国民がもっと利用しやすいような価格で提供したらどうか。

牧野:先日、元ニューヨーク医科大学臨床外科教授の廣瀬先生の講演をうかがったのですが、先生は輸血をあまりしないで手術をするということです。そのベースにあるのが患者の体に異物を与えないようにするという考え方です。「最高の医療」を施すとよくいいますが、そうではなくて、患者さん一人ひとりに「最適な医療」を施すことが大切だと。

ただ、患者さんも医学(西洋医療)こそ最高のものであるという考え方が染みついているし、医療サイドも患者に最高の医療を施すべきという発想があって、日本では、医学も薬学も、みんな最高のものを目指しすぎているから、患者の希望や意見が反映できなくなって、結局患者不在の治療になっているという感じがします。アメリカは消費者優先の国ですから鍼灸でもサプリメントでも患者にとって一番最適なものを提案します。

東京慈恵会医科大の大井先生は、幼児の神経管障害について、病気にならないのが一番、葉酸で予防が可能であれば、ぜひ、葉酸を普及してくださいとおっしゃっています。 そうした予防だけでなく、術後の栄養学のようなものがあると良いのですが、日本には今これがありません。

事務局: 患者に「最適な医療」を施すために、患者にとって何がベストなのか、 医者はチーム体制でさまざまな側面から検討を行うという統合医療が必要になりますね。

牧野:伊藤忠商事の丹羽会長も講演で、これからは医療も統合の時代だとおっしゃっていました。日本の鉄道や信号機は海外から評価が高いのですが、求められているのは交通システムのようなネットワークで、例えば、医療にしても、事故で骨を折ると病院を転々としたりということがありますが、一つの病院で医者と薬剤師と栄養士がチームでやっていくようなネットワーク医療、統合医療が必要だと。そうした統合医療の実現のためにも今、日本が変わらないとだめです。

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