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2013.10.18アーユルヴェーダは病気ではなく、病人を診る医学

富山県国際伝統医学センター次長 上馬場 和夫 氏

21世紀には、万人に効果的とされる西洋医学的処方から、個人の体質に基づいた医療が主流になるいわれる。アーユルヴェーダでは古来よりそうした個人の体質に基づいた医療を実践してきた。アーユルヴェーダの研究で知られる富山県国際伝統医学センター次長の上馬場和夫氏にアーユルヴェーダの概要、機能性食品に求められるアーユルヴェーダ的処方などを伺った。

上馬場 和夫( うえばば かずお)

<略歴>
昭和53年広島大学医学部卒業後、東西医学の融合をライフワークとすることを目指して国家公務員共済組合連合会 虎の門病院内科に入局。幅広い西洋医学的知識を身に付けた後、日本で初めての東洋医学研究所である北里研究所付属東洋医学総合研究所に入所。漢方医学や鍼灸の臨床、漢方薬理の研究に従事する。その際、インド伝統医学アーユルヴェーダに出合い、東洋医学の融合が可能であることを直感する。そして、北里研究所にて臨床薬理の研究に携わりながら、アーユルヴェーダの現代医学的研究に取り組む。平成11年4月より、世界の伝統医学を研究する公的機関としては日本で初めての「富山県国際伝統医学センター」に赴任し、ライフワークを遂行。日本臨床薬理学会評議員、日本アーユルヴェーダ学会理事、日本アロマテラピー協会顧問、日本ホリスティック医学協会理事。 富山県国際伝統医学センター 次長。医師、医学博士。 

アーユルヴェーダは病気ではなく、病人を診る医学

富山県国際伝統医学センター
次長 上馬場 和夫 氏

— アーユルヴェーダの概要について

土地、場所、体質、体調を考慮に入れた精緻で巧妙な伝統医療

上馬場: アーユルヴェーダはインドの土壌に生まれた伝統医学ですが、生命の科学という意味を持ち、普遍的な理論を説いています。ですから、どこであっても応用できます。インドの医学書には土地とか場所とか体質とかを考慮に入れ、生活をしなさい、薬草を使いなさい、マッサージをしなさいというようなことが明記されてます。アーユルヴェーダは、いわゆる身土不二に従い、生活し、医療行為を行うというもので、非常にパーソナルな部分を大切にした医学です。

アーユルヴェーダでは私達の身体にはヴァータ、ピッタ、カパ(あるいはカファ)という3つのエネルギーが存在しているといいます。ヴァータは風のエネルギー、ピッタは火のエネルギー、カパは水のエネルギーです。この3つのエネルギーがバランスよく働いている時、人は健康な状態でいられるといいます。
このバランスに食べ物がいろいろと影響します。例えばスパイシーなものを食べると、火のエネルギーが増えて、身体が熱くなります。火のエネルギーが少ない時にこれを摂るといいわけですが、エネルギーが多い時に摂ると、さらにエネルギーが増えてバランスが崩れます。

そういうことで普通の食べ物でも食べ方を間違うと病気になってしまいます。例えば、健康食品をこの理論に当てはめてみますと、青汁は冷性が強く、体を冷します。アーユルヴェーダでいうとヴァータとかカパの特性を持っています。ですから、身体が冷えて、ヴァータとかカパのエネルギーが多い時に、青汁を飲むとさらに身体が冷えてしまいます。

そうなると、いくら飲んでも体調は良くなりませんし、逆に病気を招くことにもなりかねません。反対に体に火のエネルギーが増えている時は、青汁がいいわけです。これは中国でも同じです。中国では食べ物を陰陽で分けますが、青汁を陰陽でみると陰の特性を持っています。

— アーユルヴェーダは中国漢方と類似した点が多いようですが

アーユルヴェーダのヴァータ、ピッタ、カパは中国漢方の気、血、水に近い

上馬場: 中国の伝統医学は今から3千年前、あるいは2千5百年前に誕生したといわれます。 インドの伝統医学はもっと古く、紀元前7世紀、あるいは10世紀にすでに医学書が著されているといわれています。眼科の治療はインドの方が進んでおり、インドから中国に渡ったことは確かです。また中国で発達したものもあります。経絡学説がそうです。ツボとかエネルギーの流れの理論は中国のほうがインドより進んでいます。

アーユルヴェーダのヴァータ、ピッタ、カパというのは、中国漢方でいう気、血、水に対応していると考える人もいます。ヴァータは気で、ピッタは水で、カパは血というわけです。中国では食べ物が身体のバランスに影響するため、食べ物の陰陽をふまえて、自分の身体にあった食べ方をするのがいいとしています。余談ですが、アラビアも同じです。アラビアでは食べ物を温性、冷性というふうに分けています。身体が暖かい時には冷性食品、冷えている時は温性食品を摂ると良いという考えが代々受け継がれています。

また漢方でいう医食同源は、インドでも同じです。漢方では食材を上薬、中薬、下薬というように分けます。 上薬というのはずっと飲んでいても食べていても問題のないもの、中薬というのはある期間食べていても問題のないもの、下薬は毒物です。上薬の代表というのはナツメやクコなどの木の実や野菜です。中国では動物性のものもかなり上薬になっています。インドも、薬と食べ物と毒とに分けていますが、毒物も使いようによっては必要であると説いています。

— アーユルヴェーダにおける具体的な治療法は

インドでは植物に鉱物を混ぜた形で製剤を造る

上馬場: インドでは、毒物をもうまく昇華させ、治療に用います。例えば水銀を使用することがありますが、これは若返り効果があるとされています。水銀は日本でも20年前くらい前に利尿作用が強いということで医者達が結構使っていました。インドではこれも使い方によっては有効としているわけです。水銀も無機水銀であれば中毒にはなりませんが、有機水銀や昇華していない水銀だと毒性があるというわけです。その毒性を消す方法を昇華法といいますが、毒性を昇華させて逆に有効性に変えるわけです。ただし、これはまだ科学的に証明されてはいません。

またインドも中国も治療には生薬を用います。生薬の種類には動物、鉱物、植物があります。中国は動物や植物を使うことが多いのですが、インドでは鉱物を使うことが多いようです。インドの有名な製薬会社が作ったダイヤベーコンという薬がありますが、これは、植物だけでなく鉱物(ミネラル)も加えて作られたハーボミネラル製剤です。このようにインドではハーブと鉱物を一緒にして製剤化することが多く、そういう形にして、毎日飲むと身体に有益な作用がもたらされるとされています。ただ、これも万人にいいかというと、合わない人もいます。ヴァータの人には沢山はいけないとか、そういうことがあります。ですから医者が患者のバランス状態をみて処方をします。

— 西洋医学の新薬の開発の発想とはかなり違いますね

上馬場: 現代医学というのはどうしても単品を使います。特に新薬になりますと混ざり気がないほどいいという考え方です。伝統・伝承医学というのはそういうことができなかったこともありますが、混ぜ合わせた状態で使っています。特に中国漢方は、あえて生薬同士を混ぜて、複合の妙を強調します。アーユルヴェーダにも同じ考えがあります。非常に中国医学に似ていますし、巧妙です。そうした複合作用をうまく利用した機能性食品の開発がこれから必要になるかと思います。

— アーユルヴェーダ的に優れた機能性食品とは

病気ではなく病人を治すという発想で、機能性食品の開発が必要

上馬場: 機能性食品の効果というのは、味でだいたい見当がつくと言われています。苦いものはピッタをバランスさせます。熱が増えて病的になっている人は極端に苦いものがいいのです。炎症を抑えます。また甘いものはヴァータをバランスさせます。ですから苦い健康食品を、万人向けにしようと思ったら、天然の黒砂糖などで味を調整するといいです。また極端に甘いもの、辛いもの、苦いものは身体を揺さぶります。突出した味がないほうがいいのです。

今まで機能性素材の研究はたくさん出ています。ですが、病気ための機能性食品はあっても、病人のための機能性食品はないといえます。人間という側に立って開発するということを忘れているのではないでしょうか。まず患者側の評価をして機能性食品の使い方を指導するという考え方が今の健康食品業界にはありません。あくまでも人間の側を考えて、どのような組み合わせが効果が高いだろうかと考えることが大切です。伝統医学の特徴というのは、そうした病気ばかりでなく、人間の側からも考えるということが根底にあることです。

人間というのは個々人違いますし、身体も心もスピリットもあるわけです。アーユルヴェーダでは薬草が身体ばかりでなく、マインドにも、さらにはスピリットにも影響すると考えます。ですから、製剤を作る時にも、マントラを唱えながら作るといわれます。これからは個人の体質を考慮した人間の側に立った機能性食品の開発が必要です。病気のみならず、病人を治すという発想が必要でしょう。

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